その後、ミリアリアはあの出来事のあったディアッカの部屋に行き、ディアッカにも手伝ってもらって手早く荷物をまとめた。
「結構重いけど、大丈夫?まだ少しは痛いんでしょ?」
「へーき。そんな重くないって。」
ディアッカは心配するミリアリアについ苦笑する。
「あ、お腹空いたよね。何か作ろうか?」
「んー、この時期に外食は厳しいよなぁ…。」
先日の会見のせいで、二人の顔はプラント中に知れ渡った。
特にミリアリアは、実際に会見の場にいた事もありかなりの注目を浴びることは間違いないだろう。
「とりあえず、何か作るね。夜はまた考えよ?」
リビングで待ってて、と言い残し、ミリアリアはぱたぱたとキッチンに走って行った。
ディアッカは、ソファに座りゆるゆると溜息をついた。
あの時のミリアリアの覚悟、そしてその後の葛藤。
自分には知る由もなかったが、ミリアリアは自分の身体を賭けてまで、ディアッカの記憶を取り戻そうとしたのだ。
「俺は、何が出来るだろうな、お前に…」
また、ディアッカの心に不安が忍びよっていた。
気丈に振る舞ってはいるが、きっとミリアリアもあの行為に傷ついているはずで。
先程、反射的に答えてしまったが、ミリアリアに触れて、記憶を無くす前のように抱いてもいいものか。
ディアッカはキッチンを窺うと、携帯を持ちバルコニーへ出て行った。
『なんだ、もう退院したのか』
素っ気ないながらも安堵の感情がこもるイザークの言葉に、ディアッカは苦笑した。
「まぁな。心配かけてすまなかった。」
『それはミリアリアに言ってやれ。どうせ一緒にいるのだろう?』
ディアッカは、少しだけ躊躇ったあと、思い切って切り出した。
「ミリィがうちの別邸を出た理由、知ってるんだろ?」
イザークがしばらく無言になる。
「お前にこんな事聞くのはどうかと思うけどさ。少し、いいか?」
『…何だ。』
「俺は、どうやってあいつに償えばいい?
あんな真似をした俺は、記憶を無くす前のようにあいつに触れてもいいのか?」
イザークがまた無言になった。
そして、数瞬の後。
『確かにお前のした事は、俺から見たら最低だ。
しかし合意の上だとミリアリアが言う以上、俺にはお前を責める理由もない。』
ディアッカは驚いた。
「あいつが、そう言ったのか?」
『ああ。だからお前を責めるな、とな。』
ディアッカは深く息をついた。
イザークは、電話越しにそれを感じ取り、そっと目を閉じた。
『…お前がそうして悩めば悩む程、ミリアリアを追い詰めるという事が分からんのか?』
ディアッカは怪訝な表情になる。
「追い詰める?」
『お前の態度を見て彼女は、自分がした事が原因でお前を悩ませた。そう考えるだろうな。』
「イザーク…」
『お前の心情も良く分かる。だが、してしまった事は取り返しがつかない。
俺ならば、まず誠心誠意謝罪し、そしてその後は元のように接する。
それが、彼女の望んでいることだろうし、彼女の為でもあると思うからだ。』
「…ああ。」
『ただし、決して忘れるな。自分のした事を。』
イザークの声が急に凄味を増した。
『自分のした事を背負いながら生きるのが、ミリアリアに対するせめてもの償いだ。』
「そう、なのか?」
『卑屈になる必要などない。ただ忘れず、お前に出来る事をすればいい、と俺は思う。』
イザークの言葉に、ディアッカはいつしか微笑んでいた。
「イザーク、サンキュ。なんかスッキリしたわ。」
『それは良かった。今のうちに英気を養っておけよ。
任務に復帰したら、たっぷり働いてもらうからそのつもりでな。』
「…えっと、病み上がりだしそれは勘弁…」
『相談料には安いくらいだが?』
「はいはい、りょーかいしました、隊長殿。」
ディアッカの耳が、リビングに入ってくるミリアリアの気配を捉えた。
「ミリィ来たから。また連絡する。あ、シホにも礼言っといて。」
『ああ。今度何か奢ってやれ。』
「はいはい。じゃあな。」
ディアッカは通話を終わらせ、リビングに戻った。
「また外にいたの?風邪引くわよ。」
「そんなやわじゃありませんけど?」
ミリアリアはくすくすと笑って、テーブルに置かれたサンドイッチを指差した。
「私のいない間、ちゃんとしたもの食べてなかったでしょ。
冷蔵庫がほとんど空っぽで、この位しか出来なかったけどどうぞ?」
そう言って勧められたのは温かいトーストサンド。
コーヒーもしっかり用意されている。
「お前は?食わねぇ、って事はねぇよな?」
ディアッカの瞳が眇められる。
今回の件で、ミリアリアは3kgも痩せてしまったのだ。
元々細身で貧血気味なところに、殆ど食事も摂らずサプリメントに頼っていた為、栄養失調にもなりかけていた。
その事を知ったディアッカは、自分のせいとは言えさすがにミリアリアを叱らずにはいられなかった。
「う…。食べる、わよ?」
ミリアリアは気まずげに返事をすると、ディアッカの向かいにすとんと座った。
「やっぱ美味い。…お前、料理とか好きなの?手際もいいし。」
ミリアリアに食べろと言いながら、美味いと連呼してどんどんサンドイッチを平らげていくディアッカを笑顔で見ていたミリアリアは、その質問に目を丸くした。
「…そうね。割と好き、かな。昔はお母さんにくっついてよく手伝ってたし、取材中は自炊しないといけない時もあったしね。」
「ふーん。でも、マジで美味い。」
「ほんと?ディアッカに言われると、余計に嬉しいな。」
そう言って嬉しそうに笑うミリアリアのとびきりの笑顔に、ディアッカはつい見惚れた。
「疲れたろ。先に、アパート行くか?」
「うん。そうしようか?」
「りょーかい。ほら、食えって。」
ディアッカがぐい、と差し出してきたトーストサンドを手に取り、ミリアリアはつい苦笑していた。
今度は、ディアッカの葛藤。イザークの言葉の裏には、SEEDでの民間人の避難船撃墜が根っこにあります。
ディアッカへのアドバイスは、その時彼なりに出した答え、なのかな、と思います。
2014,6,18up