「え?これだけ?」
アパートに着いたディアッカは、ミリアリアが午前中に持ち込んだ荷物を見て驚いた顔をした。
「うん、これだけ。そろそろオーブの両親から洋服とか雑貨が届くけど、それもそんなに無いかなぁ」
いくら限られた時間しか休みがなくても、もしかしてこれはちょっと少なすぎ、なのだろうか。
一応、年頃の女性として、ここまで質素なのもいかがなものなのか…。
ふとそんな事を考えたミリアリアは、いつだったか声をかけて来た、ディアッカの『元カノ』を思い出した。
綺麗な金髪をふわふわに巻いて、目は琥珀が溶けたような色。
蠱惑的な唇。綺麗な声。
肌も白くて綺麗で、スタイル抜群で。
服装も、あまり覚えてないけど、確か質の良いお洒落な格好をしていた、と思う。
「ミリィ?」
突然黙り込んだミリアリアに、ディアッカが不思議そうに声をかけた。
「…ほんと、釣り合わない…」
「は?」
ミリアリアは溜息をついた。
「本音で答えて欲しいんだけど。ディアッカって、どんな女の人がタイプなの?」
「…はっ?」
ディアッカはその言葉にぽかんとした。
「…たくさん、彼女いたんでしょ?私は今のところ一人しか知らないけど」
なぜ、今更その話が!?
ディアッカは突然の事に、あんぐりと口を開けた。
「あんな綺麗でお洒落な人がタイプなら、私ってどこも当てはまらないわよね。髪はこんなで、肌もがさがさ、凹凸のない体に化粧もへたくそ。それにお洒落でもないし。私のどこが良かったの?」
痴話喧嘩。…っていうか、もうこれはただの惚気?(笑)
「…どうした?いきなり…」
「この現実を見て、この間声をかけて来た女性を思い出して…少しだけ虚しくなっただけよ。私、明らかに貧相だもの。ナチュラルって事を差し引いてもね」
そう言ってミリアリアは苦笑し、ひとつ息をつくと、別邸から持って来た荷物を片付け始めた。
「…なんなんだよ、それ。」
ディアッカの押し殺した声に驚いて、ミリアリアは振り返った。
「ディアッカ?」
「その女に何を言われたか知らねぇけど!俺は、俺だって、今のありのままのお前がいいんだよ!」
ミリアリアは驚き、何も言えずディアッカをただ見つめた。
「AAで拘禁室から出されて、お前の決意を聞いて俺もバスターで戦って。いつからかお前を好きになった。確かに、プラントで俺が相手にしてた女とお前は全く違った。俺も自分でびっくりだったぜ?」
「だったら、どうして…」
ディアッカはぷいっとそっぽを向くと、ぶっきらぼうに続けた。
「…わかんねぇよ、そんなの。だけど、俺の好きなタイプは間違いなくお前なの!例え胸が無くても可愛げがなくても!」
ディアッカの最後の言葉に、ミリアリアの表情が変わる。
「…悪かったわね。胸も可愛げも無くて」
「お前が本音でって言ったからだろーが!」
「本音で答えすぎよ!」
「いいじゃねぇかよ!胸も可愛げもなくたって。俺はお前の内面も外面も全部ひっくるめて好きなんだっつーの!その跳ねた髪も碧い瞳も、意地っ張りで強がりでなかなか素直になれないとこも、無鉄砲なとこも底抜けに優しいとこも!全部ひっくるめて愛してんの!文句あるか!!」
ディアッカは一気に言い切って、はたと我に返った。
ミリアリアはディアッカの言葉に目を見開き、呆然と立ち尽くしている。
ヤバい、言い過ぎたか!?
「あ、えと、ミリアリア…」
「…ばか」
「へ?」
「ばかっ!そんな、はっ…恥ずかしい事、言われたらっ!困るでしょーっ!!」
ミリアリアは顔を真っ赤にして、部屋を飛び出そうとした。
「おい、こら!」
ディアッカは、逃がしてたまるかとばかりにミリアリアの手首を掴む。
瞬間、自分のつけた手首の痕がディアッカの目に入った。
しかしディアッカはもう迷わなかった。
そのままミリアリアの手首を掴み、自分の胸に抱きこむ。
「離してよ…恥ずかしいから」
消え入りそうなミリアリアの声。
「やだ。だってお前、絶対逃げるし」
「う…」
確かにその通りで、ミリアリアはますます真っ赤になった。
ちょっと自己嫌悪みたいになっただけなのに、あそこまで言われるなんて!
嬉しいけど、でもやっぱり恥ずかしい…。
ミリアリアはディアッカの腕の中で、ただもじもじとするしか出来ないでいた。
「…ちょっとは自信もてよな、お前も」
幾分優しくなったディアッカの声が、ミリアリアの頭上から落ちて来た。
「どんな女より、俺が選んだのはお前、なの。俺、他のもんはともかく、指輪なんてお前以外に贈ったことないぜ?」
ミリアリアは、左手に再び戻った指輪に目をやった。
そして以前、イザークにも同じように、自信を持てと言われた事を思い出す。
「…ごめん、なさい」
その小さな声にディアッカはふっと笑うと、ミリアリアの髪を撫でた。
「…女の前で泣いたのも、お前だけだからな。ま、もうありえねぇけど」
ミリアリアは、ディアッカに顔を見られないよう下を向いたまま、そっとその精悍な体に腕を回した。
それは、仲直り、の合図。
ディアッカの片手が背中から離れ、ゆっくりとミリアリアの髪を梳いていく。
「片付け終わったら、買い物行こうぜ?お前の服とかいろいろ」
「…退院したばっかりだし、ディアッカは留守番してれば?それに、あんまり無駄遣い出来ないわよ」
やっぱり意地っ張りなミリアリアの言葉。
ディアッカはくすくすと笑った。
「足はもう平気だって。俺の回復力、知ってるだろ?それに、婚約者に服も買えない程の甲斐性無しじゃないつもりだけど?」
自分の全部が好きと言ってくれる優しいディアッカの声。
少しだけ卑屈になっていた、ミリアリアの心がゆっくりと溶かされていく。
ああ、もう意地を張るのはやめよう。
ミリアリアは降参の意を込めて、そっと顔をあげた。
「…かわいいの、選んでよね?」
ディアッカは笑顔のまま、ミリアリアの頬にキスを落とした。
「了解しました、アナタ様」
「ミリアリア、よ。…久しぶりに聞いたわ、それ」
「あー、二〜三年ぶりかも?」
「…ばか」
ミリアリアはそう言って、ディアッカの胸に顔を埋めた。
痴話喧嘩。…っていうか、もうこれはただの惚気?(笑)
2014,6,18up
2016,11,3改稿