約束 2

 

 

 

ディアッカはしばし呆然と画面に見入った。
どうやら会見では、今回の領事館襲撃事件についての説明がされているらしい。
タッドが流暢に事件の概要を説明して行く。
確かに、設置されたばかりの在プラント オーブ総領事館への襲撃は、プラントでも大きなニュースの部類に入るだろう。
しかし、アマギ館長だけならともかく、なぜミリアリアが?
 
 
「…以上が今回の事件の概要になります。
しかし、もうひとつ皆様にお伝えせねばなりません。」
タッドの言葉に、集まった報道陣が静まりかえる。
 
「犯人はいわゆる、ザラ派と呼ばれる一派です。
領事館襲撃とともに、こちらにいるオーブ総領事館の報道官、ミリアリア・ハウ嬢が人質とされましたが、ラクス様の勧めもあり、この場をお借りして彼女の立場をご説明させて頂きたいと思います。」
 
 
ディアッカは息を飲む。
まさかーー!
 
 
 
 
「彼女は、私の息子でありザフト軍将校である、ディアッカ・エルスマンの正式な婚約者です。
まだ日程は調整中ですが、入籍、挙式は来年を予定しています。」
 
 
 
 
会場が、どよめきに包まれる。
ナチュラルの女性とザフトの将校の婚約は、コーディネイターなら誰もが驚くビックニュースだからだ。
 
 
「皆様、どうかわたくしからもご説明させてください。」
ラクスの透き通った声に、会場の話し声がピタリと止んだ。
 
 
「わたくしは、お二人をとてもよく存じ上げております。
お二人は、ナチュラルとコーディネーターという壁にぶつかりながらも、互いを想い合う心でその壁を壊しました。」
 
ラクスは、まるで自分のことのように嬉しそうな笑顔を浮かべた。
 
「お二人は戦場で出会い、一度は離ればなれになったものの再び出会うこととなりました。
たくさんの障害、周囲の目。それぞれの立場。
お二人とも、きっとたくさん、悩まれたことと思います。」
 
ラクスはミリアリアに目をやり、慈しむように頷く。
ミリアリアもにこりと微笑んだ。
 
 
「わたくしは、お二人のご婚約を祝福いたします。
そして、どうかこの婚約が、ナチュラルとコーディネイターとの架け橋となることを祈っております。」
 
 
その言葉に、さざ波のように拍手が起こった。
拍手はどんどん大きくなって行き、ミリアリアははにかんだ笑顔を浮かべ、ぺこりと頭を下げた。
 
 
「息子はこの度の件で銃弾を受け、現在治療中の為、ミリアリア嬢のみの会見となるが、何かご質問があれば受け付けます。
ただ、本人もひどく疲れているのでね。手短にお願いしたい。」
 
会見を取り仕切るタッドの言葉に、ミリアリアが僅かに緊張した表情を浮かべた。
 
 
 
 
「…ラクスの案なんだ。どうせこの件で会見をするのなら、二人の婚約もあわせて発表してしまう方がいい、ってね。」
 
ディアッカはキラを振り返った。
「あいつ、だから来なかったのか…」
「そうだよ。どっちみち君の記憶が戻らなければ発表は延期するってミリィも言ってたしね。
とにかく、君に無理させたくなかったんじゃないかな。」
ディアッカは息をついた。
「…これじゃ、あいつ一人が矢面に立つだけじゃねぇかよ…」
「それはミリィも承知の上でしょ。今回の件だって、狙われたのは君じゃなくミリィだ。
君が記憶のない間、ミリィは毎日のようにラクスやアマギ館長達と話し合って、婚約発表に向けた準備や根回しをしてきた。
ミリィ、家でも仕事してたでしょ?」
「あいつは…ほとんど部屋にこもってたから…」
「…ほんと、昔っから変わらないよ、ミリィって。」
キラは寂しそうに微笑んだ。
 
 
会見場では、次々とミリアリアに質問が飛んでいた。
中には意地の悪いものもあったが、ジャーナリストの経験があるミリアリアの敵ではなく、その手の質問を上手にかわして行く。
しかし、質問はだんだん核心に触れるものになって行った。
 
「エルスマン議員のご子息、というプラントでも特別な地位におられる方、そして種族の違うもの同士の結婚や、ナチュラルというご自身の立場について不安などはありませんか?」
 
タッドの表情が少しだけ変わる。
だがミリアリアは、ふわりと笑顔になった。
 
 
「不安はありました。いまも、ないと言えば嘘になります。
でも、彼は何があっても私を守ると言ってくれましたから。
どこにいても、呼べば助けに来てくれると。」
記者たちの話し声が、いつの間にか止んでいた。
 
 
「私は、ディアッカ・エルスマンを信頼しています。
この先不安なこと、困ったことがあっても、彼となら乗り越えられると思いました。
これで、答えになりますでしょうか?」
 
その言葉を聞いて、タッドがくすりと笑った。
 
 
 
「では、彼女も疲れていますのでそろそろ…」
タッドが記者たちに声をかける。
 
 
「最後にひとつすみません!プロポーズの言葉を教えて頂けますか?」
記者たちがどよめく。
ミリアリアはタッドを伺った。
タッドは笑顔で頷く。
 
 
「…彼からは、数え切れないほどの素敵な言葉を頂きました。
その中から、ひとつ。これを、頂いた時の言葉です。」
そう言うと、ミリアリアは左手をあげた。
 
「…あいつ…指輪…」
ディアッカはぽつりとそれだけ口にする。
その左手には、先程まで無かったはずの、ディアッカが贈った婚約指輪が光っていた。
 
 
 
「『宇宙でいちばん、幸せにする』…これ以上は、プライベートな事なのでご勘弁下さい。」
 
 
 
ミリアリアはそう言うと、いたずらっぽく微笑んだ。
ラクスとタッドは笑顔になり、なぜかアマギが顔を赤らめて俯いた。
 
「では、これで。」
タッドがすかさず会見の終わりを告げ、ミリアリアはまたぺこりと頭を下げると会場を後にした。
 
 
 
 
 
 
 016
 
『宇宙で一番幸せにする』
…何気にこの言葉、ディアッカらしくてすごく気に入っています。
 
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2014,6,16up