23, 救出 1

 

 

 

 
 
 
「イザーク!シホ!」
 
ディアッカの声に、二人は弾かれたように振り返った。
「ディアッカ!?」
「…エルスマン?記憶が…」
ディアッカは苦笑した。
「…二人とも、すまない。心配かけて悪かった。」
イザークはふっと笑った。
「貴様が一番に謝るべき相手は、ミリアリアだろうが。」
「…ああ。分かってる。」
「乗って。急ぎましょう、エルスマン。他の隊員達はもう向かっているわ。」
三人を乗せたエアカーは、猛スピードで総領事館への道をひた走った。
 
 
 
「…お前、フリーのジャーナリストなんだってなぁ?」
ミリアリアは俯いていた顔をあげ、男を睨みつけた。
 
館長室にはセナ・リヒテルと名乗った男を含め、全部で4人のコーディネイターがいた。
ミリアリアは拘束こそされていなかったものの、これだけの人数を相手に何ができるわけでもなく、黙って椅子に座らされるままになっていた。
 
「…昔の話よ。戦争が終わったら、戦場ジャーナリストに仕事なんて無いでしょう?」
「で?今はオーブ軍属の報道官ってか。おまけにコーディネイターの御曹司まで捕まえて。
本当に世渡り上手なお嬢さんだな。」
こういう手合いには、何を言っても無駄だ。
ミリアリアは相手をせず、ぷいと横を向いた。
 
 
「現在の時刻は?」
イザークの言葉に、ディアッカが腕時計に目をやった。
「11時12分。…あと8分か。ちょうどいいな。」
それは、ミリアリアがイザークとシホと一緒に選んだもので。
シホはつい声をかけた。
 
「エルスマン、その時計…」
 
シホが思わずそう言うと、ディアッカは照れたように笑った。
「何でかこれだけは付けてねぇと落ち着かなくてさ。」
その言葉にシホは微笑んだ。
 
 
「ディアッカ、何か策があるのか?」
 ディアッカは好戦的な光を湛えた紫の瞳でイザークを振り返った。
それは、イザークの良く知るディアッカ・エルスマンという軍人の顔。
 
「キラがその時間になったら領事館のシステムを落とす。
暗闇での白兵戦、散々アカデミーで演習しただろ?」
 
イザークが薄く笑った。
「…なるほど。一気に片を付けるか。」
「そういうこと。」
イザークは隊員たちを振り返った。
「そういうこと、だそうだ。抜かるなよ、お前ら!」
 
 
 
イザークは、動いてくれただろうか。
ミリアリアはそっと時計に目をやった。
時計の針は、午後11時15分を過ぎたところだった。
 
お前がどこにいても、絶対に助けに行く。
そう言ってくれたディアッカは、今はその記憶もない。
このまま記憶が戻らなければ、ディアッカと自分はどうなるのだろう。
ミリアリアがそんな不安に押しつぶされそうになり、両の手をぎゅっと握りしめたその時。
 
部屋の照明が突然消えた。
 
 
 
「なんだ!停電か?」
「おい、誰かブレーカーを見てこい!これじゃあ動けないぞ!」
ばたばたと走り回る足音、男たちの怒号。
ミリアリアは戸惑いながら、その場を動けずにいた。
このタイミングでの停電、まさか…!
ミリアリアが意を決して立ち上がった時、部屋の外から銃声が聞こえた。
 
 
「エルスマン!ここはいいから早く行って!」
「早く行け、ディアッカ!援護する!」
シホの声に、ディアッカは一瞬躊躇したが、イザークの声が、ディアッカを後押しした。
「悪い、先に行く!」
ディアッカはそう言って、銃を片手に階段を駆け上がった。
 壁際に身を寄せ、そっと様子を窺う。
ほどなく、館長室から慌てた様子で男が出て来た。
大方、ブレーカーをチェックしにでも行くのだろう。
ディアッカは狙いを定め、壁際から飛び出すと走りながら拳銃の引金を引いた。
 
 
「まずい!ザフトだ!」
犯人の一人がそう声を上げ、それに被さるようにまた銃声が響いた。
誰?イザーク?キラなの?!
ミリアリアは何もできない自分に歯噛みしながら、少しずつ室内を移動しながら息を潜めて状況を伺っていた。
この建物には、予備電源がセットされている。
システムダウンなどがあっても、数分で照明などの最低限の設備が回復される仕組みになっているのだ。
もう、時間がない!
「きゃ…」
その時、ミリアリアの腕が力強く掴まれた。
来ないとわかっていても、反射的にミリアリアはその名を口にしていた。
 
 
「離して!助けて、ディアッカ!」
 
 
同時に、ドアが蹴られるような音がし、領事館内の照明が回復した。
 
 
 
「…さすがザフトの精鋭部隊。見事な奇襲だな。」
そう口にして、ミリアリアを押さえ込んだリヒテルは銃口を目の前に立つ人物に向けた。
ミリアリアは、自分の見ている光景が信じられなかった。
 
 
リヒテルとミリアリアの目の前に。
ザフトの黒服を纏ったディアッカが銃口をこちらに向けて立っていた。
 
 
 
 
 
 
016
 
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