ディアッカが、来てくれた。
ミリアリアは驚きと喜びで混乱し、言葉もなくただディアッカを見つめることしかできない。
「間もなく増援が来る。おとなしく武器を捨てろ。」
ディアッカは剣呑な光を湛えた目で、リヒテルを射るように睨みつけた。
「…婚約者殿がどうなってもいいと?エルスマン副官。」
リヒテルは、銃をミリアリアの頭に突きつけた。
安全装置が外される音が耳元で響き、ミリアリアはびくりと体を震わせる。
「無駄な抵抗はよせ。」
ディアッカの静かな声。
「…このナチュラルが、それほど大事かね?」
ディアッカは答えない。
ミリアリアは、なるべく目線を動かさないように周囲の様子を探った。
犯人は四人。
うち一人はブレーカーのチェックに行った。
先ほどの銃声は二発だったから、もう一人も部屋の外にいたのだろう。
部屋の一番奥にいるミリアリアの視界に入るのはディアッカのみ。
あと、一人足りない!
それに気づいたミリアリアの目線が室内をさまよう。
そしてほどなく、壁際に置かれた本棚のガラスに映る、ソファの後ろに隠れた人物を捉えた。
あれは…銃口?!
ミリアリアは叫んだ。
「ディアッカ避けて!右のソファの後ろ!」
ディアッカが俊敏な動作でミリアリアの言葉に反応する。
その瞬間銃声が響き、ディアッカの右足を銃弾が貫いた。
「くっ…」
「ディアッカ!」
ミリアリアの悲鳴のような声。
ディアッカはたまらず膝をついてしゃがみ込んだ。
「形勢逆転のようだな、エルスマン副官?」
「離して!ディアッカ、ディアッカ!」
ミリアリアがリヒテルの腕の中で暴れる。
「騒がしいお嬢さんだ。少し静かにしていてもらうとしようか」
ミリアリアの体がその言葉に強張る。
「…やめろ、リヒテル…」
苦しそうなディアッカの声。
リヒテルの手が、銃を持ったまま頭上にあげられる。
「やめろ!」
ディアッカが痛みの中で叫ぶのと同時に、背後から銃声が聞こえた。
「ぐぁっ…!」
リヒテルの手から、拳銃が弾き飛ばされる。
自分に回された腕から力が抜けたと感じたミリアリアは、渾身の力でリヒテルを振り解く。
そして、まっすぐディアッカの元へ走った。
「ディアッカ…!」
泣きそうに震える、その声。
小さな細い体が、細い腕が、しゃがみ込むディアッカの体を庇うようにぎゅっと抱きしめる。
ディアッカの贈ったトワレの香りが、ふわりと広がった。
その香りになぜか涙が出そうになりながら、ディアッカは愛しい婚約者の名を呼ぶ。
「…ミリアリア。」
ずっと呼びたくて、でも呼べずにいた、思い出せずにいた大切な人の名前。
ミリアリアが、碧い瞳を見開いてディアッカを見つめる。
「ディアッカ…記憶…?」
「セナ・リヒテル。そこまでだ。」
ミリアリアが顔を上げると、イザークが銃口をリヒテルに向けて立っていた。
ソファに隠れていた犯人は、いつの間にかシホが確保している。
リヒテルは悔しげに顔を歪めた。
「…なぜ、どいつもこいつもナチュラルなどに…」
リヒテルの手が、素早くスーツの胸元に入った。
「…手榴弾?!やめなさい!あなたまで…」
シホが思わず叫んだ。
「俺はどうなってもいい…。だがナチュラルの根城などこのプラントには必要ない!」
狂気を湛えたリヒテルの目が、ミリアリアとディアッカに向けられた。
ミリアリアは背中にディアッカを庇うように向き直る。
そしてディアッカが取り落とした拳銃を掴み、リヒテルに向けた。
「やめろ…ミリィ。お前はそんなもの、持つな…」
ディアッカは傷の痛みにくらくらしながら、やっとの事でそれだけ囁いた。
イザークとリヒテルの間には距離があり、しかも自分とミリアリアがいる。
ミリアリアの位置なら、上手くすればリヒテルが手榴弾のピンを抜く前にどうにかできるかもしれない。
だが、ミリアリアは正規の訓練すら受けておらず、当然銃など撃ったこともないだろう。
何より、優しいミリアリアが銃を撃てるとは思えないし、撃たせたくもない。
「よせ、ミリアリア…」
「撃つわ。」
ミリアリアの、震える声。
「大切なものを守るためなら何だってするわよ。銃くらい、いくらでも撃つわ!」
「この…低脳なナチュラルが!」
「やめるんだ、リヒテル!」
ミリアリアの言葉に逆上したリヒテルが、手榴弾のピンに手を掛けた瞬間。
ミリアリアの言葉に逆上したリヒテルが、手榴弾のピンに手を掛けた瞬間。
ミリアリアの手にした拳銃から、乾いた銃声が響き渡った。
やっと、再会できた二人。
2014,6,16up