22, 割れた風船 1

 

 

 

午後10時。
ザフト軍本部の一室に、イザーク、サイ、キラ、シホ、そしてディアッカが集まっていた。
「エルスマン議員は?」
「もうすぐ到着予定だ。アスランが護衛を兼ねて迎えに出ている。」
サイの言葉に短くイザークが答える。
「アマギさんはラクスと一緒に居てもらってるよ。その方がサイもこっちに集中できるでしょ?」
キラの言葉に、サイは弱々しく微笑んだ。
 
 
ディアッカは、することもなくキラたちの会話を黙って聞いていた。
犯人の要求は、総領事館の撤退とディアッカ達の婚約破棄。
ディアッカは、ミリアリアの顔を思い出す。
つんとして唇を尖らせた表情、我儘な子供をあやすような呆れの混じった表情、ディアッカの体の下で声を堪える切ない表情。
そして、一度だけ見せた花のような笑顔ーー。
 
 
「セナ・リヒテル。確かザラ議長直属の部隊にいた男だ。
議長の秘書の一人として、評議会にも出入りしていた。
親父はもちろん、エザリアさんも知ってるはずだぜ?」
 
 
ディアッカの言葉に、キラ以外の皆が振り返った。
「ディアッカ…」
「今の俺にとっちゃ、あの当時の記憶のが鮮明なんだよ。」
イザークが携帯を手に立ち上がった。
「母上に、リヒテルについて確認してみよう。」
イザークはエザリアに連絡を取り、ディアッカの話と照らし合わせた。
「ディアッカの言う通りのようだな。エルスマン議員が到着したら話をしてみよう。」
 
「ミリィの事は、どうするの?」
キラの硬い声が部屋に響いた。
「あと2時間以内に何らかの返事をしないと、ミリィの命の保証はない。
そういうことだよね、イザーク?」
イザークはしばし考え込んだ。
 
「…キラ。領事館のシステムに侵入できるか?」
「必要な機材があれば。」
キラが即答する。
「要は、あと2時間でミリアリアの監禁場所を突き止めて救出し、犯人を検挙すればいい。
館内はサイが詳しいだろう。キラが侵入して開示したデータを元に場所を割り出す。出来るか?」
「やるよ。それでミリィを助けられるならね。」
サイはイザークにそういい、にこりと微笑んだ。
「ディアッカ、キラのサポートとしてハッキングを…」
 
 
「要らない。」
 
 
キラがぴしゃりと言い放つ。
ディアッカはもちろんの事、シホやサイまでもが驚いてキラを見た。
 
「…俺、お前になんかしたっけ?つーか急いでんだろ?だったら…」
「僕に話しかけないでくれる?ディアッカ。」
見たことのないような冷たい瞳で、キラはディアッカを睨みつけた。
 
「ミリィがああ言ったから、僕は君に何もできないけど。
僕は君がミリィにしたこと、忘れない。」
 
ディアッカはキラから目を逸らした。
ずきり、とまた頭が痛む。
「…勝手にしろよ」
 
 
 
「すまないね、遅くなった。」
その時、アスランがタッドとともに部屋に入ってきた。
 
 
「…プロテクト、結構凄いね。」
「モルゲンレーテの精鋭達が組んでるからな。一応それなりの機密も扱ってるし。
まぁ、外からの侵入には敏感なつくりだよね。」
焦りもあるのだろうか。キラはシステムの侵入に苦戦していた。
サイも手伝っているが、なかなか進まない。
 
そんな二人を見やり、ディアッカは何も言わずタッドに向き直る。
「セナ・リヒテル。覚えてるか?親父。」
「…ああ。パトリックの取り巻きの一人だ。アスラン君、君も覚えがあるのでは?」
アスランは顔を上げ、頷いた。
「はい。自分がアカデミーにいた当時から、父とは付き合いのあった人物です。
先の大戦以降、消息は存じていませんが…」
「どこかに潜伏していたのだろうな。評議会にもザラ派は未だ存在する。
隠れ場所など、いくらでもあろう。」
 
「ラクス嬢はなんと?」
イザークの質問には、キラが応じた。
 
「ラクスは、とにかくミリィの救出を最優先させて、って。
建物は直せるけど、人の命は直せないからね。」
 
ラクスらしい言葉に、イザークとタッドが口の端をあげた。
 
 
「…よし、侵入出来た!サイ、これ見て!」
ようやくハッキングに成功したキラが、サイに館内の見取り図を示した。
「…この、赤い部分が電源供給されている箇所ってことだろ?
だとしたら、ミリィは二階の一番奥、館長室にいるはずだ!」
サイの言葉に、シホが立ち上がった。
 
 
「隊長、行きましょう。別室にジュール隊の精鋭を数名集めてあります。」
「シホ…」
驚くイザークだったが、すっと表情を引き締めた。
「よし。すぐに総領事館へ向かう。シホ、先に出て隊員たちをまとめろ!」
「了解しました。」
シホが足早に部屋を出て行く。
イザークはディアッカを振り返った。
 
 
「お前はどうする、ディアッカ?」
 
 
 
 
 
 
016
 
人質に取られてしまったミリィ。記憶の無いディアッカの取る行動は…?
 
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