噛み合わない心 3

 

 

 

「おはよう、ディアッカ」
翌朝現れたミリアリアは、どこか顔色が悪かった。
「…お前、あれからすぐ寝たの?」
「昨日?ううん、あの後仕事してから寝たわ。
ディアッカが端末直してくれたおかげで、何とか終わったの。
ほんとにありがとう。」
 
だから、顔色が悪いのか。
 
「ふーん…」
きっとほとんど寝てないのだろう。
それでもミリアリアはくるくると動きまわり、あっと言う間にディアッカの前に朝食が並んだ。
 
 
「じゃ、私行くわね。お昼ご飯はいつものとこよ。」
そう言ってミリアリアはドアに向かった。
 
「…飯、ちゃんと食えよ。」
 
ミリアリアはディアッカの言葉に、びくんと立ち止まった。
 
「…うん。ありがとう。行って、きます。」
 振り向かずにそれだけ言うと、ミリアリアはドアを閉めた。
 
 
 
「…どうなの?ディアッカ。」
書類を整理しながら、サイがミリアリアに問いかけた。
「多少、話はしてくれるようになったけど…まだ記憶が戻る気配はないわね。」
ミリアリアの顔色はいつもより青白く、サイは心配になった。
「ミリィ、あれからほとんど食事してないだろ。」
ミリアリアは目を逸らした。
「…大丈夫よ。サプリとか飲んでるし、食事作りながら味見もしてるし。」
「それは食事とは言わないだろ?」
サイは呆れたようにミリアリアに向き直った。
「ミリィが具合悪くしたら、元も子もないんだよ?」
「分かってます。ありがとう、サイ。」
ミリアリアは憂いを帯びた笑顔を見せた。
 
 
 
ディアッカは、鈍い頭痛を抱え、ベッドでうとうととしていた。
 
あいつ、ちゃんと飯食ったかな…。
今日は何時に帰ってくるんだろう。
 
気がつけば、考えているのはミリアリアの事ばかりで。
ディアッカはいらただしげに溜息をついた。
なんでいつも、あいつはああやって仕事でも何でも限界まで抱え込むんだろうな…。
 
 
…いつも?
 
ディアッカは目を開けた。
まただ。
ぼんやりとしたなにかが、喉元まで出かかっている。
俺は、あいつの何を知っている?
いや、知らない。
ナチュラルの女など、興味を持つこと自体あり得ない!
「つっ…」
頭が、ひどく痛んだ。
 
 
 
「…ディアッカ?」
仕事を終え帰宅したミリアリアは、灯りのついていない室内に入るとディアッカに声をかけた。
「…なに?」
ディアッカは、リビングのソファに横になっていた。
「寝てたの?灯りくらい、つけたらいいのに。」
ミリアリアが照明のスイッチを押すと、柔らかい光が室内を照らした。
 
「…飯、今日はいらないから。」
 
ディアッカの言葉にミリアリアは驚いて振り返った。
「え?具合でも悪いの?頭、痛い?」
「べつに。とにかくいらねぇから。部屋行くわ、俺。」
そう言ってディアッカはソファから立ち上がった。
 
「一応あとで、お薬持って行くわ。お父様に預かってるから。」
「…好きにすれば?」
そう言ってリビングを出て行くディアッカを、ミリアリアは心配そうに見送った。
 
 
数時間後。
「ディアッカ?入るわよ。」
返事がないので、ミリアリアは薬と水を持ってディアッカの部屋に入った。
 
ディアッカは、バスローブ姿でベランダから外の景色をぼんやりと眺めていた。
「そんなかっこじゃ風邪引くわよ?」
その声が聞こえているはずなのに、ディアッカはこちらを見ようとしない。
ミリアリアは溜息をついた。
 
「…眠れなかったり、頭が痛かったらこれ飲んで?お水と一緒に置いておくわね。」
 
 
ディアッカはゆっくりと振り返る。
ミリアリアは、すでに入浴も済ませたのだろう。
昨日とは違う、ピンクのコットンニットのワンピースに同素材のカプリパンツを合わせ、ルームシューズも暖かそうなものを履いている。
 
温かくて、柔らかそうな、体。髪。
後ろから抱き締めたら、こいつは、どんな顔をするんだろう?
こいつは俺に、もう抱かれたのだろうか?
 
治まらない頭痛も、届きそうで届かない何かへのもどかしさも、鬱屈とした苛立ちも、もう限界で。
不意に、ディアッカの心に欲望の嵐が渦巻いた。
 
 
「あと、もしお腹空いたらキッチンにスープがあるから、それ…きゃっ!」
 薬をサイドテーブルに準備しながら話しかけていたミリアリアは、いつの間にか近くにディアッカが来ていたことに気がつかなかった。
 
 
 
「来いよ」
 
 
 
ぐいと腕を引っ張られ、ミリアリアはディアッカに抱き上げられる。
「ディアッカ?なに…」
ミリアリアをベッドに投げるように落として。
ディアッカは、ミリアリアの上に乗り、細い手首を押さえつけた。
 
 
 
 
 
 
016
 
ディアッカの戸惑い、もどかしさゆえの葛藤が爆発します…。
 
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2014,6,16up