翌日、ミリアリアはディアッカとともにエルスマン家の別邸にいた。
「はい。これがあんたの荷物。
とりあえず必要そうなものはアパートから持ってきたから。」
ディアッカはじろりとミリアリアを睨むと、無言でベランダに出て行った。
ミリアリアは溜息をつき、今度は自分の荷物を持って与えられた部屋に向かった。
別邸とはいえ、さすがエルスマン家なだけあり、屋敷はとても広い。
そして、セキュリティもかなりしっかりしている。
ミリアリアはキッチンに向かうと、ディアッカの為に簡単な昼食とコーヒーを用意した。
クリスタルマウンテンを領事館の部屋から持参してきたのは正解だったようだ。
冷めないように保温ポットに入れて、ディアッカの部屋にコーヒーを運ぶ。
ディアッカは、まだベランダにいた。
「ディアッカ、コーヒーここに置いておくから。飲みたい時に飲んでね。」
その声にディアッカは振り返る。
オーブ軍の軍服を着たミリアリアが、手早くコーヒーのセットをテーブルに並べている。
「…なぁ、お前ここに住むつもり?」
ミリアリアは顔を上げた。
「…嫌かもしれないけど、当分はそのつもりよ。あんたの事も心配だし。」
「ナチュラルに心配されるほど、落ちぶれちゃいねぇつもりだけど?」
そんな意地の悪いディアッカの言葉にも、ミリアリアは動じない。
「言ったでしょ。ナチュラルもコーディネイターも関係ないって。
じゃ、私は仕事に行くから。お昼ご飯はキッチンに置いてあるからそれ食べて。
夜は帰ってから作るわ。」
「は?お前出かけんの?」
ディアッカは意外だった。
ミリアリアは当然ずっと自分と一緒にいると思っていたからだ。
「…あのね、私は忙しいの。うちの領事館、三人しか人がいないの。
そうそう休んでなんていられないわ。
とりあえず、なるべく早く帰ってくるから。勝手にどっか行かないでよね!それじゃ!」
そう言ってミリアリアはばたばたと出かけて行った。
ディアッカは、急にがらんとした部屋で途方に暮れる。
「何なんだ、あのナチュラル…」
そう呟いたディアッカは、ひとまずコーヒーをカップに注いだ。
そしてふと気づく。
何故、あのナチュラルが自分とずっと一緒にいるなどと思ったんだ?
まるで、それが当たり前のよう、な。
ディアッカはコーヒーを口にした。
「…うまいな、これ。」
思わずそう呟いたディアッカは、はっとして舌打ちをした。
ナチュラルが入れたコーヒーなんて!
そんな事を思いながら、ディアッカはいつしかキッチンに向かい、ミリアリアが用意しておいたオープンサンドに手を伸ばした。
そして、夜になった。
「ディアッカ、調子はどうだ?」
「イザーク!お前、なんで…」
「本部にあった軍服を持ってきてくれたのよ。はいこれ。
イザーク、ご飯食べて行ったら?ディアッカも一日退屈してただろうし。」
「ああ、そうしよう。」
ディアッカは唖然として二人を見ていた。
あの、筋金入りのナチュラル嫌いだったイザークが、ナチュラルと親しげに会話までしている!
「マジで、あれから2年以上経ってんだな…」
ディアッカのそんな言葉に、イザークは何を今更、と言った顔をした。
「俺も相当変わったとは思うが、記憶をなくす前のお前も大概だったぞ?
特に、ミリアリアに関してはな。」
ミリアリアはキッチンで、夕食の準備をしている。
「…知らねぇよ。記憶がないんだ。あの女の事も、全くわかんねぇ。
ナチュラルにしちゃ、器用そうだし見た目も悪くないけどさ。」
「婚約者、としては見れない、と?」
ディアッカは頭を掻きむしった。
「やめてくれ。ナチュラルと結婚なんていきなり言われて、はいそうですかなんて言えるかよ!」
イザークはその言葉に、かすかに寂しそうな目をした。
「…どうすれば、記憶が戻るんだろうな、お前は。」
それからというもの、ミリアリアとディアッカの奇妙な生活が続いた。
ミリアリアは毎晩のようにディアッカの友人とともに帰宅した。
見舞いと称して訪れる友人たちと会話を交わすうちに、ディアッカにも現在のプラントの状況が大体つかめてきた。
それは、記憶のないディアッカにとって、とてもありがたいことであった。
ミリアリアは毎晩、ディアッカとその友人達に夕食を準備した。
それはとても美味しく、ディアッカ以外の友人たちはミリアリアの料理の腕前を絶賛したが、ミリアリアは決してディアッカと食事をともにすることはなかった。
その事が気になったディアッカは、ミリアリアに食事について尋ねた。
「お前、いつ食事してんの?見たことねぇんだけど。」
「ああ、私忙しくて、お昼ご飯とか決まった時間に食べられないの。
だから、ディアッカ達がご飯食べる時には大抵お腹いっぱいなのよね。」
ミリアリアはそう言って、何事もなかったように自室に去って行った。
そんなものか、とディアッカは思い、その話はそれきりになった。
2014,6,16up