拒絶 2

 

 

 

「…まだいたのかよ」
 
 
病室のドアを開けると、すでにイザークたちの姿はなかった。
ディアッカの嫌そうな声にミリアリアの心がぎしぎしと痛む。
「…イザーク達は?」
「一度軍部に戻ったぜ。ストライクのパイロットも一緒にな。」
「…聞いたの?」
ディアッカは面倒臭そうにミリアリアに向き直った。
 
 
「まぁな。一通りの状況もイザークに聞かされた。
あいつはストライクのパイロットで、その後の戦争ではストライクフリーダムだっけ?
それのパイロットとしてラクス嬢たちと共に戦い、今はラクス嬢と一緒にザフトにいる。
で、お前は俺がプラントに連れてきたナチュラルの女、だろ?」
 
 
「…そうよ。ついでに言えば、戦時中はAAのCICも担当してたわ。」
ディアッカは眉を上げた。
「へぇ。で、そっちの捕虜になった俺と知り合ったってわけ?」
ミリアリアはその言葉には答えず、逆にディアッカに問いかけた。
 
 
 
「本当に、何も覚えてないの?」
 
 
 
ディアッカは皮肉な表情を消して、ミリアリアに顔を向けた。
「残念ながら、全く。俺はお前に何の感情もねぇし、お前の名前もわかんねぇよ。」
「…ミリアリアよ。ミリアリア・ハウ。出身はオーブだけど、あんたたちがGを奪取しに来た時にはヘリオポリスにいたわ。」
「ヘリオポリスに?」
「そう。ヘリオポリスのカレッジに通う学生。
キラもサイも同じゼミだったわ。」
「ナチュラルとコーディネイターが同じとこで勉強してたのかよ?」
ミリアリアは肩を竦めた。
「オーブは元々コーディネイターがたくさん住んでる国だし。
あんまり、そういうこと気にしたことないわね、私は。」
「ふーん…。ていうか、その話だけ聞くと、俺ってお前に恨まれても好かれる要素なんて無くねぇ?」
 
「…そうかもね。」
そう言ってミリアリアはディアッカの荷物をまとめ始めた。
「おい、なに勝手に触ってんだよ」
そう言いながら、ディアッカはミリアリアの左手薬指にはまる指輪に気がついた。
…俺の目の色と一緒の、アメジスト。
俺は、本当にこの女と結婚するつもりだったのか?
 
 
「もうすぐお父様が迎えの車を寄越すそうよ。エルスマン家の病院にあんたを移すんですって。
荷物、これだけでいいの?」
「おい、どういうことだよ?」
ミリアリアは準備の手を止めずに喋り続けた。
 
「昔のあんたとお父様の関係は知らないけど、今はもう和解してるのよ。
記憶がなくても、いちいち突っかかるのやめなさいよね。」
「…ナチュラルが偉そうな口聞いてんじゃねぇよ」
ディアッカの声音が冷たさを帯びる。
ミリアリアはディアッカの顔を正面から見つめた。
その碧い瞳に、ディアッカの目は無意識のうちに釘付けになる。
 
 
「ナチュラルもコーディネイターも関係ないわ。
あんたも、そう言ってたんだけどね。
…じゃ、迎えがくるまでここで休んでて。」
 
 
ミリアリアはそれだけ言うと、ディアッカの荷物を持って病室を出て行った。
 
 
 
 
「さて、ディアッカ。どうやら記憶喪失というのは本当らしいな。」
タッドの言葉に、ディアッカはぎろりと父親を睨んだ。
「嘘ついてどうすんだよ、こんなことで。」
タッドは溜息をついた。
「…確かに、昔のお前が戻ってきたようだな。ミリアリアの言う通りだ。」
「あのナチュラルの女、どうするつもりだよ。さっきからいちいち生意気な口利きやがって…」
「どうもこうも。お前が退院したらアプリリウスの別邸でお前の世話をすることになっているが?」
タッドの飄々とした言葉に、ディアッカは目を剥いた。
 
「ふざけんな!なんで俺がナチュラルなんかに…」
「婚約者、だからだ。異論は認めん。」
ディアッカはぎりりとタッドを睨みつける。
「…俺は、あの女に何の感情も持ってねぇんだよ。何するかわかんねぇぜ?」
タッドは、ふっと相好を崩した。
 
 
「お前は、基本的にそういうことの出来るやつではない。それが大事に想う相手ならなおのこと、な。
でなければ、軍に入ることを私も止めておらんよ。」
 
 
「…なんだよ、それ…」
「どうせ時間はたっぷりあるんだ。よく考えてみるんだな。
ほら、車に行くぞ。支度しろ。」
「な、おい、親父!」
「今日はこのまま向こうに検査入院だ。精密検査をして、取りたてた問題がなければ明日退院させる。
ああ、退院の際にはミリアリアを迎えに来させるからそのつもりでな。
では、先に行くぞ。ミリアリアが待っている。」
タッドはこちらを振り返らずに手を振ると、先に病室を出て行った。
 
 
「お父様、すみません。」
そう言って頭を下げるミリアリアに、タッドは優しく微笑んだ。
「すまないね。あいつに随分きついことを言われただろう?」
ミリアリアは首を振った。
「仕方ないです。記憶がないんですから。
あの、それでお父様。ディアッカの記憶は…」
タッドが難しい顔になった。
「精神的なダメージが原因ではなく、あくまでも頭を強打したことによるものだからね。
一生戻らない、ということもないと思うのだが…」
「いつ、というのは分からないんですね…」
ミリアリアは悲しげに俯いた。
 
「…どうする?あいつには退院後、君にあいつの世話をさせると言ったのだが。
辛いようなら、しばらく会わないでいても構わない。」
ミリアリアは弱々しく微笑んだ。
「…いいえ。ディアッカのそばに、できるだけいさせて下さい。」
タッドはミリアリアの頭を引き寄せた。
「…ほんとうに、君がディアッカの婚約者でよかったと思っているよ。」
「ありがとうございます。お父様。」
ミリアリアは、また堪えていた涙が溢れそうになるのを感じていた。
 
 
 
 
 
016
 
選民思想の激しいディアッカ。SEED序盤でもこんな感じだったのでしょうか…。
 
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2014,6,15up