「エルスマン先輩、結婚するって噂聞いた?」
「あのオーブのナチュラルと?あれってほんとなの?」
シホはイライラしながら、イザークの到着を待っていた。
二人の婚約発表まであと3週間足らず。
なのになぜ、ザフト内でここまで噂になっているのだろう?
「シホ。待たせたな。」
颯爽と現れたイザークの姿に、口さがない噂をしていた兵士たちの声がピタリと止まる。
シホはそちらにちらりと冷たい視線を向けた後、立ち上がった。
「いえ、ここにいるといろいろな話が聞けますから。
では隊長、行きましょう。」
そう言ってシホは、イザークとともにその場を後にした。
「予想以上に、噂が広まっているな。」
「そのようですね。まぁ本人が全く気にしていないのが救いといえば救いですが…」
「まぁ、な。あいつはその辺、図太い。いや、図々しい、とも言うな。」
その言葉にシホは微笑んだ。
その頃、ディアッカはアパートへの道を歩いていた。
夜にミリアリアが泊まりにくる予定だったため、休憩時間を利用して一度家に帰ろうとしていたのだ。
実は几帳面で綺麗好きなディアッカは、今朝方慌てて部屋を出た際に少しばかり室内が散らかっていることを気にしていたのだ。
「…あんま時間ねぇな。」
そう言ってディアッカはミリアリアに貰った時計を眺め、大切そうに指を滑らせた。
その時。
激しいブレーキ音とガラスの割れる音がディアッカの耳に飛び込んできた。
「何だ!?」
ディアッカは走り出した。
「なに?エアカーが暴走?」
アマギの言葉に、ミリアリアは思わず振り返った。
「そうか。では一行の到着も少し遅れるな。分かった。
くれぐれも気をつけるようにな、アーガイル。」
「…館長、何かあったんですか?」
ミリアリアは通信を終えたアマギに話しかけた。
「ああ、どうやら三番街で無人のエアカーが暴走する事故が起きているらしくてな。」
「三番街で?!」
ミリアリアは思わず声をあげた。
「なんだ?」
「いえ、ディアッカのアパートも三番街なんです。今日行く予定になっていたので…」
「まぁ、夜までには騒ぎもおさまっているだろう。」
「そうですね。」
ミリアリアは溜息をついて、ザフト本部にいるはずのディアッカを想った。
大丈夫。ディアッカはアパートにはいないのだから…。
「なんだよ、これは!」
角を曲がって、ディアッカは目を見張った。
血を流して倒れている市民、割れたショーウィンドウ、折れた街路樹。
よく見れば、エアカーがめちゃめちゃな進路で暴走している。
「事故か!くそっ!」
「エルスマン先輩!」
振り向くと、以前ジュール隊にいた後輩がこちらに駆け寄って来るところだった。
「エアカーが突然暴走を始めて!無人なんでどうにも止めようがないんです!」
「どっかに突っ込んで止まるのを待つしかねぇ!お前は本部に連絡と市民を安全な場所に誘導しろ!」
「先輩は!?」
「俺は怪我人を運ぶ!急げよ!」
「はいっ!」
ディアッカは素早くそう指示を出すと、倒れている市民の救助に向かった。
「おい、歩けるか!?」
ディアッカは何人かの負傷者に声をかけ、安全な場所に移動させて行った。
まだ、応援は来ないのかよ!
苛立つディアッカがふと顔を上げると。
猛然とこちらに突っ込んでくるエアカーが目に入った。
避け切れないーー!
咄嗟に横に飛んだディアッカを、全速力のエアカーが掠め、跳ね飛ばした。
感じたことのない衝撃がディアッカを襲う。
ーーディアッカーー。
ミリアリアの優しい声と笑顔が頭に浮かび。
次の瞬間、ディアッカの脳内は真っ白になった。
電子音にミリアリアが顔を上げると、自分直通の端末に通信が入っていた。
「はい、もしもし」
『ミリィ!よかった、いてくれたんだ。』
「サイ?どうしたの、そんなに慌てて?」
サイが不意に黙り込んだ。
『ミリィ、落ち着いて聞いて。』
「え?なぁに?」
『…ディアッカが、暴走するエアカーに撥ねられた。今軍部の病院に向かってるけど、頭を打ってるらしい。
館長には俺が言うから、すぐ病院に向かうんだ。いいね?』
次の瞬間、ミリアリアはバックを掴むとザフト本部へ猛然と駆け出していた。
「イザーク!ディアッカは?」
息をきらせて駆けて来るミリアリアを、イザークは難しい顔で出迎えた。
シホやキラ、アスランもすでに到着し、落ち着かない様子で立っていた。
「頭を打っているようだが外傷はない。咄嗟に避けたのだろうな。
ただ意識が戻らない。今医師がついているが…」
イザークがそこまで話した時、病室のドアが開いた。
「…意識が、戻りました。」
「ディアッカ…!」
ミリアリアが泣きそうな顔で声をあげた。
「すぐに会えるか?」
イザークの問いかけに、医師はなんとも言えない表情になる。
「それが…」
「ディアッカ、目が覚めたか?」
ディアッカは額に包帯を巻き、ぼんやりとベッドに横たわっていた。
「…イザーク?アスランも…」
「ディアッカ、ここがどこだか分かるか?」
「…プラント、か?」
イザークは顔を歪めた。
「…ああ、そうだ。」
「なぁ、足つきは?俺のバスターは?」
その言葉に、ミリアリアとキラ、そしてシホが驚愕の表情を浮かべた。
「俺、足つきの真ん前で動けなくなったんだ。で、陽電子砲の照準を合わせられて、コックピットから出て…気づいたらここにいた。
どうなってんだ?これ…」
「ディアッカ!」
「だめです、ミリアリアさん!」
シホの制止を振り切って、ミリアリアがディアッカの近くに駆け寄った。
ディアッカはミリアリアに目を向け、じっと見つめる。
そして、嫌悪の表情を浮かべた。
「こいつ、ナチュラルだろ?なんでナチュラルがプラントにいて、気安く俺の名前まで呼んでんだよ。」
事件発生、です・・・。
2014,6,15up