指輪と時計 2

 

 

 

ディアッカはひとつ息をつき、ポケットから何かを取り出す。
ミリアリアの体をそっと胸から離し、その左手を自分の右手で包むように持った。
「ディアッカ?」
不思議そうな顔のミリアリアが、ディアッカの名を呼ぶ。
ディアッカは、ミリアリアの左手の薬指に、ポケットから取り出した何かをそっとはめ込んだ。
 
 
「…うそ…」
 
 
それは、指輪だった。
ディアッカの瞳とそっくりな色のアメジストがあしらわれた、シンプルだけれど上品なデザイン。
それは、あつらえたようにミリアリアの指にしっくりと馴染み、アメジストが沈みかけの夕陽にキラリと光った。
 
 
「ほんとは、婚約発表の時に渡したかったんだけどさ。
さっきの事、ちゃんと話してからじゃねぇと、って思ってずっと持ってた。」
ミリアリアは、信じられないと言った顔で左手に輝く指輪を見つめている。
 
 
「ミリアリア。」
「…え?ごめん、嬉しくてつい…」
ディアッカは、何回も心の中で繰り返した言葉を初めて口にする。
 
 
「絶対にお前を一人にしない。何があってもお前のところに俺は戻る。
俺がお前を、宇宙で一番幸せにするから。」
 
 
展望台に、ざぁっと風が吹いた。
 
 
 
「俺と、結婚して、ください。」
 
 
 
ミリアリアはまっすぐディアッカを見上げ、花が綻ぶように笑った。
 
 
「…はい。」
 
 
その言葉に、ディアッカは再びミリアリアを、今度は力一杯抱きしめる。
「ディアッカ…ありがと…指輪。嬉しい。」
ディアッカの腕の中で、ミリアリアはそれだけ言うのがやっとだった。
「ミリィ…いいのか?さっきの話…」
「未来の事はわからないでしょ?子供が出来ようと出来なかろうと、私はディアッカとずっと一緒にいるって決めたの。
だから、いいのよ。」
ディアッカの腕が緩み、二人はしっかりと見つめ合う。
そのまま、夕陽が沈むまで二人はそこで何度も唇を重ねていた。
 
 
 
 
「あのね…。私もディアッカに渡したいものがあるの。」
ディアッカは腕の中のミリアリアを見下ろした。
「俺に?何?」
「ほんとは、クリスマスプレゼントのつもりだったんだけど…。」
ミリアリアはバックから昼間買った包みを取り出すと、両手でディアッカに手渡した。
「…今、開けていい?」
「うん。」
ディアッカは驚いた様子で、それでも丁寧にラッピングを解いて行く。
 
 
「これ…時計じゃん。」
「…ディアッカ、昔AAで支給された時計、今でも使ってるでしょ?」
ディアッカは顔を上げた。
「知ってたのか?」
「もちろん!だって、あれ私がディアッカに持って行ったやつじゃない。」
当然でしょうと言ったミリアリアのその言葉に、ディアッカは嬉しそうに微笑んだ。
 
 
「…だってさ、あれは俺が初めてお前からもらったもんだぜ?
そう簡単に、外せるわけねぇじゃん。」
 
 
ミリアリアはその言葉に驚き、そして泣きそうな笑顔になった。
「これからは、何だってあげるわよ。私があげられるものなら。」
その言葉にディアッカは、優しく微笑みミリアリアの額にキスを落とした。
「…これ、つけていい?」
「うん。つけてみて?」
 
ミリアリアがイザークたちに相談した甲斐もあり、その時計はディアッカにとてもよく似合って。
「すげぇ気に入った。ありがとな、ミリィ。」
二人は顔を見合わせて、嬉しそうに笑った。
 
 
「ねぇ、ディアッカ。」
「ん?」
「うん。あの…」
「何だよ」
「今日、金髪巻き毛の綺麗な女のひとに会ったわ。」
ディアッカはぎくりとした。
「あー、その、うん。」
ミリアリアは突然、ディアッカの頬をむにっと抓った。
「てっ!」
「大丈夫。いつかはそういう事もあると思ってたから。
まぁ…、ちょっとだけざわざわした気持ちにはなったけど、ね。」
ディアッカはぽかんとミリアリアを見下ろした。
てっきり、怒るか詰られるかされると思っていたからだ。
 
「なんて顔してるのよ、もう。」
ディアッカははっと我に返った。
そして、少しだけ頬を赤らめたミリアリアに気づく。
やっぱり、意地っ張りなミリアリア。
ディアッカの顔に、優しい笑みが浮かぶ。
 
 
「…私ね、明日お休みなの。」
「ああ。」
「…今日、ディアッカの部屋に泊まってもいい?」
ディアッカは目を丸くし、今度は声をあげて笑った。
「なによ!」
「いや、なんでも。…歓迎しますよ、婚約者殿?」
 
 
その言葉に、唇を尖らせていたミリアリアも頬笑み。
二人は笑いあいながら手を繋ぎ、歩き出した。
辺りはすっかり、夜になっていた。
 
 
 
 
 
 
016
 
ひとつ、またひとつとお互いを知り、距離を縮めていく二人。
 
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2014,6,13up