そこは、だいぶ昔に作られたらしき展望台だった。
「はい、到着。」
「ちょ…待って…」
ミリアリアは息を整えた。
ディアッカは加減して走ってくれたようだが、さすがにミリアリアにはきつかったようだ。
「…運動不足?」
「そんな暇、あるわけないでしょ!」
ふてくされるミリアリアを見て、ディアッカは笑った。
「ほら、来いよ」
ミリアリアは手を引かれて段差を登り、ディアッカの横に立った。
「…え…」
そこに広がるのは。
夕日に染まる、プラントの景色、だった。
ザフト軍本部に評議会議事堂、それにたくさんの住宅や教会、ショッピングモール。公園に学校。
「すごい…」
プラントの限られた場所しか知らないミリアリアは、初めてプラントの全景を目の当たりにしてそれだけしか言葉が出ない。
ただ、黙ってディアッカの横で、夕日に照らされる景色に見入っていた。
「ここ、さ。親父が俺の母親に昔連れて来られたんだって。」
ディアッカが、前を向いたままポツリと言った。
「ディアッカの、お母様が?」
「ああ。昔親父に聞いてさ。そのくらいしか、俺は母親について知らない。
でも、ザフトに入隊してアプリリウスに来た時、そのことを思い出して一人で来てみたんだ。」
ディアッカは、ミリアリアと手を繋いだ。
「お前がプラントに来たら、必ずここに連れてこようと思ってた。」
ミリアリアは、繋いだディアッカの手をぎゅっと握りしめた。
「うん…。ありがとう。ほんと、すごい。」
ディアッカは、大きく息を吸い込んだ。
「…俺、お前に言わなきゃいけないことがある。」
ミリアリアは、ディアッカと同じように前を向いたまま問いかけた。
「…なに?」
「俺は、第二世代のコーディネイターだけど、生まれる前に人より多く遺伝子の配列を弄ってある。
そのせいかは分からないけど、俺の生殖能力はかなり低い、らしい。」
「…うん。」
ミリアリアは、タッドに言われたことを思い出しながら先を促す。
「だから、結婚しても、子供は出来ないかもしれない。
いや、出来たら奇跡、くらいのレベルだと思う。」
「うん。」
「俺にはよくわかんねぇけどさ。女なら、その…子供が欲しい、とか、あるだろ?そういうの。
俺は、その願いを叶えてやれない可能性の方が高い。」
「…それで?私が子供を欲しがったら、ディアッカはどうするの?」
ディアッカは初めて、ミリアリアの方に顔を向けた。
ミリアリアは、じっとディアッカを見つめていて。
ミリアリアの碧い瞳に、みっともないほど狼狽えた自分の顔が映っていた。
「…わかんねぇ。」
ディアッカは、子供のように首を振った。
「俺には、お前しかいない。だから、お前がプラントに来てくれて、俺と結婚するって言ってくれて、すげぇ嬉しかった。
だから、このことを言わないまま婚約を発表するのもフェアじゃないと思ったんだ。
でも…お前が子供を望んでるんなら…。」
ミリアリアは、苦しげな表情のディアッカをじっと見つめた。
「ねぇ、私がどうしてプラントについて来たか知ってる?」
ディアッカは弾かれたようにミリアリアを見た。
「私は、ディアッカが思っているよりずっと、ディアッカのこと好きなのよ?」
「…ミリィ」
「…ごめん。今聞いたこと、知ってたの。お父様から聞かされて。」
「な…!親父が?」
ミリアリアは、体ごとディアッカに向き直った。
「最後まで聞いて。怒るならそれからにして。」
「…ああ。」
ミリアリアは、タッドにディアッカとの結婚を迫った際に言った言葉を、もう一度口にした。
「私は、ディアッカが好きです。今こうして生きている、そのままのディアッカが。
コーディネイターであろうとナチュラルであろうと、子供が出来にくかろうと関係ありません。」
ディアッカの紫の瞳が見開かれる。
「遺伝子はコーディネート出来ても、心はコーディネート出来ません。
生い立ちや体質関係なく、ディアッカは、ディアッカなんです。
だから、私は今のディアッカを愛してますし、受け止めます。」
「…ミリアリア」
「…子供の話をされた時に私がお父様に言った、そのままの言葉よ。これが私の気持ち。」
そう言ってミリアリアは、はにかみながらも優しく笑った。
「私、あなたが好きよ。ディアッカ。今ここにいる、あなたが。」
ディアッカはミリアリアをそっと抱きしめた。
かすかに感じる花の香りは、ディアッカの贈ったトワレ。
前にも感じた、泣き出してしまいそうな安心感。
自分を受け止める、と言ってくれたミリアリアを、ディアッカは心底愛おしいと思った。
2014,6,13up