キラへの用事を済ませたミリアリアは、とんぼ返りで領事館に向かっていた。
「ちょっと、あなた」
自分に声をかけられているとは一瞬思わなかったミリアリアは、ワンテンポ遅れて振り返った。
「…はい?」
ミリアリアの目の前には、艶めいた金髪を綺麗に巻いた美しい女性が立っていた。
琥珀色の綺麗な瞳、大きな胸に細い腰。
スラリと伸びた足に、キュッとしまった細い足首は男なら誰もが振り返るだろう。
「…あなたがディアッカの婚約者?」
意外な問いに、ミリアリアは目を見開いた。
「あの…どちら様でしょうか?」
とりあえずミリアリアは、当たり障りのない返答をすることにした。
発表まであと数週間。余計な揉め事は起こしたくない。
「私、ディアッカと、とっても仲良くさせてもらってたの。
これでわかるかしら?」
やっぱり…。
ミリアリアは内心溜息をついた。
いつか、こんなことがあるかもとは思っていたけど。何も今じゃなくても!
「…エルスマンさんのお友達ですか?」
女性はくすっと笑った。
「そう。親密なお友達。ナチュラルにはここまで言わなきゃわからない?」
ムッとしたミリアリアだったが、ここで揉める訳にはいかない。
「そうですか。エルスマンさんに用事があるなら、私ではなくご本人のところに行かれたらいかがですか?
私、仕事中ですので失礼します。」
そう言って、女性の横をすり抜けようとすると。
「あのディアッカを、どうやって誑かしたのかしら?」
ミリアリアの足が止まった。
「それとも、何か弱みでも握った?」
揉め事は、おこしちゃ、だめ、だけど…。
「ディアッカも、随分女の趣味が悪かったのね。」
「…なんですって?」
女性の眉が釣り上がる。
「そんな顔したら、せっかくの美人が台無しですよ。」
ミリアリアは無表情にそう言うと、碧い瞳でキッと女性を睨んだ。
「ディアッカの『もと』彼女だか友達だか知りませんけど、私に何を言ってもどうにもならないですよ。
私、バカで図太いナチュラルなんで。
ディアッカなら今日は本部にいるはずですから、話があればそちらへ直接どうぞ。
では、私はあなたと違ってとても忙しいので、これで。」
あまりの言葉に呆然とする女性をその場に残して、ミリアリアは早足にその場を立ち去った。
領事館に戻ったミリアリアは、がむしゃらに仕事をこなした。
そのおかげで、数日分の仕事が一日で片付いてしまった。
「…ミリィ、なんかあったの?」
無言で仕事を片付けて行くミリアリアに、恐る恐るサイが声をかけた。
「どうってことないわ。ディアッカの元カノに絡まれただけ。」
サイが書類をばさばさと落とした。
「ディアッカの元カノぉ!?」
「そう。金髪巻き毛に琥珀色の瞳で、スタイル抜群。分かりやすい好みよねぇ。
どうやってディアッカを誑かしたのって聞かれちゃったわ。」
「…そう。」
ディアッカ、これは大変だぞ…。
サイは、散らばった書類をゆっくりと拾い集めた。
「金髪巻き毛の女ぁ?」
ディアッカは、サイからの通信に声をあげた。
『そう。で、琥珀色の瞳って言ってたなぁ。…カガリと一緒だね。』
「それは…あー…」
『心当たりは、あるわけだね。』
「まぁな。でも、彼女とかそう言うんじゃないぜ?」
『適当につまみ食いした相手ってとこだろ?どうせ。』
「…その通りです。」
『まぁ、婚約発表までもうあまり間がないんだから。どうにかしなよね。』
「ああ、サンキュ。でもなぁ、休みもあわねぇし、そうそう領事館に押しかけるわけにもいかねぇし…」
『あ、ミリィ明日休みになったよ?』
「マジで!?」
ディアッカは身を乗り出した。
『…怒りのパワーで、数日分の仕事を一日で片付けちゃったからね。
館長が休んでいいって言ってたのを聞いたけど。』
「…分かった。早速対処する。じゃな!サイ!」
『ちょ、ディアッカ…』
そうして通信を切ったディアッカは、ポケットの中にある包みを転がした。
「ちょっと早いけど、ま、いいだろ。」
夕方。
仕事が終わったミリアリアは、気晴らしに外へ出ていた。
館長から突然休みを言い渡されたが、ディアッカに連絡する気にもなれない。
「せっかく、プレゼント買ったのになぁ…」
ミリアリアはバックの中にある包みを見て、溜息をついた。
近道をしようと、細い路地へ入る。
「ミーリィ!」
「きゃあ!」
突然後ろから抱きしめられ、ミリアリアは驚いて声をあげた。
「ディアッカ…」
振り返れば、そこにいたのは黒い軍服のディアッカで、ミリアリアはその姿にどきりとした。
「ちょっと、ここは外ですけど?抱きつかないでくれる?」
「こんな時間にこんなとこで、何してんの?」
「…べつに。ご飯買いに行くだけ。」
そう言ってミリアリアは歩き出した。
「何怒ってんの?」
「怒ってない」
「仕事終わったの?」
「終わった、けど」
「じゃ、行こ?」
「…は?」
「お前を、連れて行きたいところがあるんだ。」
そう言うとディアッカは笑顔になって、ミリアリアの手を取り走り出した。
「ちょっと!なんで走るのよ?!」
「日が沈むまでに行かなきゃ意味ねぇの!」
「何よそれ?!」
ミリアリアは、不機嫌だったことも忘れてディアッカに手を引かれるまま走った。
2014,6,13up