9, 誘い 1

 

 

 

ディアッカは、本部に戻るとすぐにヴィジホンに向かった。
通信先の相手ーータッド・エルスマンはすぐに出た。
「ディアッカか。どうした?」
「親父、今いいか?話がある。」
ディアッカはいつしか拳をぎゅっと握りしめていた。
汗がじわりと浮かぶ。
「今、移動の車待ちだ。数分なら時間が取れる。なんだ?」

 

「まず、こないだは助かった。あのあと輸血をして、彼女は無事回復した。」
「…そうか。なにか体質の変化などはなさそうか?」
「特に聞いていないから大丈夫だと思う。ただ、やけに回復が早いとは思ったけど…」
「…そういうことも、あるかもしれんな。
特にお前は身体強化に特化した遺伝子を持っているから余計に、な。」
「ふーん…。まぁ、今後も注意はしておく。とにかく、ありがとう。本当に助かった。」

 

ディアッカのその言葉に、タッドは無表情に黙り込む。

 

「…親父?」
ディアッカは、そのまま切られてしまうのではと慌てて声をかけた。

 

 

「で?話とはなんだ?」

タッドの言葉に、ディアッカはそっと深呼吸をし、緊張をほぐした。
「…その、彼女は今、プラントにいる。
親父に、彼女と会って欲しい。」
「…お前が、プラントにその女性を連れてきたのか?」
「ああ、そうだ。俺は彼女と結婚したいと思ってる。彼女もそう言ってくれている。」

 
「…ミリアリア・ハウ。
ヘリオポリス出身のナチュラルで、二度の大戦ではAAに乗艦し、CICを勤めた。
現在はオーブ軍属で階級は三尉。
大戦後はオーブ連合首長国総領事館にて、特別報道官として勤務。
ああ…フリージャーナリストの仕事は、もう廃業したのか?」

 
ディアッカは言葉を失った。
「何で…いつの間に」
タッドはくすりと笑う。
「ナチュラルにしては、大変優秀な女性のようだな。」
ディアッカはムッとして、つい口調を荒げた。
「ナチュラルとかコーディネーターとか、関係ねぇよ。とにかく、俺はあいつと…」

 

「お前は、相変わらずだな。」

タッドはディアッカの言葉を遮ると、溜息をついた。

 

 

「これからオーブ総領事館に向かう。もちろん、仕事でな。
どちらにしても、彼女と私は嫌でも顔を合わせるんだ。今お前と話をしても仕方ないだろう。」
そう言ってタッドは微かに微笑んだ。
「お前が見染めたナチュラル。どんな女性か、楽しみにしているぞ。」
「んだと…?あいつを見世物扱いするな!」
さらに声を荒げるディアッカに、タッドは感情の見えない声で応じた。

「そんな不粋な真似はしないよ。
お前と違って、私はいい大人だからな。」
「なっ…」
「とにかく、話はそれからだ。もう切るぞ。」

ディアッカが呆然としている間に、通信は切れた。

 

 

午後3時。
ミリアリアは総領事館の入り口で、タッド・エルスマンを迎えた。

 

「エルスマン議員、わざわざ御足労頂き、ありがとうございます。
オーブ連合首長国在プラント特別報道官、ミリアリア・ハウと申します。
以後、どうぞよろしくお願い致します。」

 

ミリアリアはタッドとしっかりと目を合わせて、そこまで一息に言いきり深々と礼をした。
ディアッカがどう考えているか知らないが、取り繕っても仕方ない。
どのみち彼と結婚するなら、今、自分を取り繕うなどそれこそ馬鹿らしい話だ。

タッドは柔和な笑顔を浮かべ、頷いた。
「着任直後の慌ただしい中、わざわざご丁寧な出迎えを頂き、ありがとう。
プラント評議会議員、タッド・エルスマンと申します。
早速、館長に面会を願えますかな、ハウ報道官。」

タッドの言葉に、ミリアリアはにこりと微笑んだ。
「はい。ご案内致します。こちらへどうぞ。」
そう言ってくるりと踵を返したミリアリアは、タッドが自分を見る、興味深げな表情に気がつかなかった。

 

 
アマギとタッドの会談には、サイとミリアリアも同席した。

 

タッドはいわゆる穏健派と呼ばれる派閥の議員である。
元は中立派だったが、一度目の大戦後、ザラ派を中心とした急進派の失脚により穏健派の中心として辣腕をふるっていたらしい。

 

ミリアリアは、アマギと今後について話をするタッドをそっと見つめた。
ディアッカとは、はっきり言って似ていない、と思う。
ただ、その紫の瞳は彼と同じようにとても綺麗で。
落ち着いたテノールの声は、ディアッカが歳を重ねたらこうなるであろう、と思わせる魅力的なものだった。

不意にタッドがミリアリアに視線を向けた。
どきりとして、ミリアリアは慌てて書類に目を伏せる。
不躾に見つめてしまい、気を悪くしなければいいけれど…。
ミリアリアは気持ちを切り替えて、仕事に集中した。

 

タッドはプラント側の外交に関する全てを取り仕切る立場だった。
その為、領事館員の中では主にサイがタッドと話をする事になった。
ミリアリアは会談に立ち会いながらその内容を纏め、オーブの行政府に報告する為の準備をしていく。

 

「それでは、今日の所はこんなものですかな。
アーガイル参事官、よろしいですか?」
「はい。細かい点は後日取りまとめたものをお渡しいたします。」
そう言って、サイが小さく息をついた。
基本ポーカーフェイスのサイだが、さすがに今回は緊張したのだろう。

「ハウ、エルスマン議員をお送りして差し上げろ。」
「はい。」
アマギの言葉に、ミリアリアは立ち上がり、ドアに向かった。

 

 
「ハウ報道官。失礼ながらお歳はおいくつに?」

廊下を出口まで案内していると、不意にタッドが口を開いた。
ミリアリアは慌てて立ち止まり、タッドに向き直る。

「はい、18歳です。2月が誕生日ですので、もうすぐ19歳になります。」

なぜ、急に年齢を?
ミリアリアは不思議そうにタッドを見上げた。
「ほぅ…そうですか。それはおめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます…」
ミリアリアはタッドの真意が読めない。

 

「私の、息子のひとつ下、になりますな。」

 

ミリアリアは思わず、持っていたペンを落とした。
タッドはその姿に、くすりと笑う。
その仕草はディアッカにとてもよく似ていて、ミリアリアはつい顔が赤くなった。

「…ディアッカが変わったのは、あなたのおかげ、ですかな?ハウ報道官。」

ミリアリアの肩が、びくりと揺れた。

 

 

 016

タッドパパ、攻めますねぇ(笑)

戻る  次へ  text

 

2014,6,13up