ひとりじゃないから 3, 気持ち

 

 

 

 

ミリアリア達がプラントに入港してから、三日が経とうとしていた。
アークエンジェルは補給の他にも艦体の損傷がひどく、その修理の為プラントに留まらざるをえなかったのだ。
地球に戻るまでに艦が壊れては、元も子もない。
マリューはそう言って、少しだけ物憂げに笑った。
 
 
 
ミリアリアはアークエンジェルの展望室で、キラを待っていた。
キラがアークエンジェルに──自分に用があってやってくる、と聞いて驚いたが、ここ数日ずっと塞ぎ込み考え込んでいたミリアリアは、それを快諾した。
 
あれから、ミリアリアは艦を出ていなかった。
ディアッカの姿ももちろん見る事はなく、このまま行けばあと数日で、ミリアリアは地球へと戻る。
突然の再会にただ驚き、素直な態度など何一つ取れなかったミリアリアだったが、あのキスを思い出すとどうしようもなく心がざわめいた。
 
『ひとりにしないって言ったくせに!』
 
つい、零してしまった本音。
そんな所だけ素直になってどうするんだろう、とミリアリアは自分にただただ呆れ、駆け戻ったアークエンジェルの自室で肩を落とした。
そして同時に、嫌でも自覚した。
まだ自分は、ディアッカの事が好きなのだ、という事を。
「ミリィ」
背後から聞こえた声に振り返る。
そこには、ザフトの白服を纏ったキラが、いつものように微笑みながら立っていた。
 
 
 
***
 
 
 
「艦の修理、まだかかりそうなの?」
「うん…。マードックさん達も頑張ってくれてるし、プラントの整備士も沢山来てくれてるんだけどね。無理もないわよ。あの戦いを乗り切ったんだもの」
 
展望室のベンチに腰掛けた二人は、自販機で調達したコーヒーを手に会話を交わしていた。
キラとミリアリアの付き合いは、ヘリオポリスにいる頃からだ。
共に飛び級をしてカレッジに入学し、同じ機械工学を学んだ。
ナチュラルのミリアリアと、コーディネイターのキラ。
ここに来るまで色々な出来事があったが、それでも二人は良き友人、そして仲間として付き合いを続けていた。
 
 
「キラ、プラントに残るんでしょ?ザフト軍属になるの?」
「そうだね。でも僕はMSの操縦以外取り柄がないから…訓練とか、しなくちゃダメかもね」
「イザークさんがいるじゃない。あの人、射撃上手らしいから、教えてもらえば?」
「…教えてくれると思う?」
 
 
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
「ねぇ、なんでミリィは彼が射撃が得意って知ってるの?」
「え?ああ、前にディアッカに…」
そこまで言って、ぴたりと言葉を止めてしまったミリアリアに、キラは笑顔のまま問いかけた。
 
「ディアッカに、会った?ミリィ」
 
びくり、とミリアリアの体が震える。
「話…ちゃんと、出来た?」
「っ…話す事なんて…ないもの」
「じゃあどうして、そんな顔してるの?」
ミリアリアはキラの薄紫の瞳を思わず見つめた。
 
「ディオキアで再会してからずっと思ってた。僕の知ってるミリィは、そんな顔をする子じゃなかった」
「…今の私は、どんな顔をしてるの?」
「さみしい、って顔、かな」
 
キラの言葉に、ミリアリアは思わず自分の顔に手をあてた。
 
 
「どこか孤独で…自分はひとりだ、って顔してる。ひとりだから、頑張らなくちゃ、って顔」
「キラ…」
「ミリィは、ひとりじゃないよ」
 
 
優しい声に、ミリアリアの瞳に涙が浮かぶ。
「ひとりよ…。だって、もう私、あいつとは…」
「まだ、好きなんでしょ?ディアッカの事。」
ミリアリアは──黙ったまま、こくりと頷いた。
なぜか、キラの前では素直になれた。
 
「じゃあ、ちゃんと話さなきゃ。何もしなかったら、何も変わらないよ?」
「ここに着いた日に…会ったの。でもその時、ディアッカ、変な顔してて。何でここにいるんだ、って言われて、いきなり…キスされて」
 
俯いたままぽつりぽつりとそう口にするミリアリアに、キラはつい苦笑する。
(不器用なのは、お互い様なんだな…)
 
「わからないの。どうしてディアッカがそんな事したのか。だって、呆れたような顔してたのよ?口調だって、どっちかと言えば責められてるみたいだったし」
「それで、ミリィはどうしたの?」
「…馬鹿、って怒鳴って、逃げて来たわ。ひとりにしないって言ったくせに、って…言って…」
「言えてるじゃない。本当の気持ち」
「え?」
 
ミリアリアは顔を上げた。
 
 
「ディアッカに言ったんでしょ?ひとりにしないって言ったくせに、って」
「でも…それは、私のわがままだわ。勝手に怒って傷つけて、そのくせそんな事言うなんて…ずるい。」
「うん。そうかもしれない。でもそれだって、聞いてみなきゃ分からないでしょ?ディアッカの気持ちも、さ」
「ディアッカの…気持ち?」
 
 
キラはにっこりと微笑む。
「そう。今、ミリィとディアッカはこんなに近くにいるんだから。」
ミリアリアはしばし呆然とキラの顔を見つめ──手にしたコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。
 
「キラ。私、ディアッカと話がしたい」
「…うん。じゃ、行こう」
 
キラはミリアリアを笑顔で見上げ、自分も立ち上がった。
 
 
 
 
 
 
 

 

 

キラは、ミリィに対してラクスやフレイ、カガリに対するそれとはまた別の優しい想いを抱いているのではないかと思うのです。
なんてったって、ヘリオポリス時代からの仲間ですもんね!
ディアッカとはまた違う視点でミリィを見つめ続けたキラですが、彼女の強さに触れ、元気付けられたことだってあるんじゃないかと思います。
だからこそミリィもキラの前では素直になれる。
こじつけかもしれませんが、私の中での二人はそんな関係です。
そんなキラに背中を押され、ミリィはディアッカの元へと向かいますが…。

 

 

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2017,8,11一部改稿・up