ひとりじゃないから 2, 再会

 

 

 

 
ザフトの白服を身に纏ったキラは、イザーク・ジュールを伴って現れた恋人──ラクス・クラインの姿を見ると、笑顔になった。
ラクスもまた嬉しそうに微笑み、二人はしっかりと互いを抱き締めあう。
その幸せそうな姿を、ミリアリアもまた他のクルー達同様に微笑みながら眺めていた。
 
戦場では凛としたラクスも、やっぱり好きな人の前では年相応の女の子、なのよね。
 
素直にキラへの好意を表に出せるラクスを、ミリアリアは羨ましいと思う。
そして、自らの性格を振り返り…小さく溜息をついた。
ふと視線を感じて顔を上げると、そこにはアイスブルーの綺麗な瞳。
ラクスの後ろに立ち事の顛末を見守っていたイザーク・ジュールがミリアリアに気付き、微かに目を見開いていた。
かつて何度か会話を交わした事もあり、一応親友の恋人だったミリアリアの事を、彼もまた覚えていてくれたのであろう。
ミリアリアはふわり、と微笑み、小さく会釈する。
するとイザークは面食らったような表情になり…それでも小さく顔を動かした。
ミリアリアの会釈に、返事をしたつもりなのだろう。
少しだけ大人びたイザークの姿に、嫌でもミリアリアはかつての恋人の姿を探し、視線を彷徨わせてしまう。
しかし、周囲にその姿はなかった。
 
 
 
キラとラクスが一旦ザフト本部内に向かうと、アークエンジェルのクルー達は艦に戻り待機する事となった。
ミリアリアはクルー達の一番後ろをぼんやりと歩いていた。
もしかしたら、顔が見れるかも、と思っていた。
声なんて聞けなくてもいい。無事な姿さえ見れればそれで…。
いつの間にかこんなにも彼の事を気にしてしまっている自分に気付き、ミリアリアは深い溜息をつく。
何を期待してるの?私は。
自分から彼の手を離しておきながら、再会を望むなんて。ずるすぎる。
それでもミリアリアは、後でキラに頼んで彼の無事だけでも確認してみよう、と思っていた。
それだけでも分かれば、きっとこのざわざわする気持ちも治まる筈。
そう思って前を向いたミリアリアの腕が、不意に強い力で脇の通路に引っ張られた。
「きゃ…」
危うく声を上げかけた口は大きな手で塞がれ、クルー達はミリアリアに気付かず談笑しながら離れて行く。
 
 
「なんで…こんなとこにお前がいるんだよ」
 
 
頭上から落とされた、低い声。
ミリアリアの碧い瞳が見開かれる。
慌てて振り返ろうとすると、そのまま体を壁に押し付けられた。
 
「あ…」
 
目の前にあるのは、ザフトの黒い軍服の胸。
記憶よりも高い位置にある顔を、ミリアリアはゆっくりと見上げる。
そこには、自分を見下ろす紫の瞳。
かつての恋人、ディアッカ・エルスマンが、そこにいた。
 
「オーブの軍服なんか着て…お前、戦場カメラマンになったんじゃねぇの?」
 
驚愕のあまり、ただディアッカを見上げる事しか出来なかったミリアリアだったが、その言葉にはっと我に返った。
「そ、そうだけど…ディオキアでアスランに会って、それでキラと話をして…」
「はぁ?アスラン?」
不機嫌な声音に、ミリアリアはびくりと体を震わせた。
 
「と、とにかく!それでアークエンジェルに戻ったの!今の私はオーブ軍三尉でアークエンジェルの管制官で、オーブ軍宇宙艦隊所属の特別報道官なの!」
 
アークエンジェルに戻る際、カガリによって与えられた自分の階級と職務を早口で告げると、ディアッカの眉間に皺が寄った。
 
「てことは…お前も、あそこにいた訳?」
「え?」
「アークエンジェルに乗ってたんだろ?だったらお前もエターナルと一緒に戦ってたんだよな?」
「そ、そうだけど…だって私、アークエンジェルの管制官だし…」
 
その言葉に、今度はディアッカが深い溜息をついた。
呆れているとも取れるその様子に、ミリアリアはようやく自分を取り戻し、ディアッカを見上げる瞳に力を込める。
 
 
「ていうか!いきなりこんな所に引っ張り込んで、どういうつもり?私、みんなと艦に戻らないと…」
 
 
そう口にしながら、ミリアリアの心は悲鳴を上げていた。
こんな事が言いたい訳じゃないのに!
無事で良かった。あの時はきつい事言って傷つけて、ごめんなさい。
言いたい事、言わなければいけない事はこんな事じゃないのに、どこまでも強がってしまう自分をミリアリアは殴りつけたい気分だった。
 
「なんでそんなに…無鉄砲なんだよ、お前は」
 
ディアッカの唇から零れたのは、少しだけ震えたそんな言葉。
どうしてそんなに、苦しそうな顔をするの?
ディアッカの震える声もその表情も、ミリアリアにはどうしてなのか意味が分からなくて。
 
「…ディアッカ?」
 
つい、目の前の彼の名前を口にしていた。
途端、ミリアリアの目の前が黒一色で覆われる。
それが、ディアッカの軍服だと理解出来たのは、顔を上げたミリアリアの唇に柔らかくて熱い何かが重ねられたのと同時だった。
──え?
ミリアリアは驚愕に目を閉じる事すら出来ないまま、ディアッカの唇を受け止める。
そして──気付いた時には、どん!と力一杯ディアッカの胸を突き飛ばしていた。
 
 
「な…なに、してんのよっ!馬鹿っ!」
 
 
かあぁ、と顔が赤くなって行くのが自分でも分かる。
 
「ミリ…」
「ひとりにしないって言ったくせに!何でいきなりこんな事するのよ!馬鹿っ!」
 
自分にいきなりキスをした男の顔など、恥ずかしくてとても見られなくて。
ミリアリアはそれだけ言い捨てて、脱兎のごとくディアッカの元を離れ、そこから走り去った。
 
 
 
 
 
 
 

 

 

どうやら私は、脇の通路に引っ張り込まれるシチュがとても好きなようです(何度か使った・笑)。
ていうか本編でも、こんな風に再会して欲しかった!
脇の通路に引っ張り込まれて壁ドンからのキs(ry ←自主規制
ええと、そんなこんなで無事(?)再会した二人ですが、やはり穏便にはいかないものでして…。

 

 

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2017,8,10一部改稿・up