イザークが、本日の解散を告げた。
後は明日、カガリ達を無事見送ることが出来たら、とりあえずの任務は完了だ。
ディアッカは迷わずAAに向かった。
やっとミリアリアに会える。
そう言えば、プラントに連れてきたはいいものの、今後の話をしていなかった。
ラクスに一任したせいもあるが、ミリアリアの立場も意外な方向に変わった。
「もう一回、ちゃんと相談しねぇとな…」
そう呟いたディアッカはミリアリアの部屋へと向かったが、そこには誰もいなかった。
外出許可が出ているせいで、クルー達はパーティーの後殆ど出払っている。
艦内に人の気配はほとんどない。
ディアッカは急に心配になる。
あいつ、まさかどっかでザラ派とかに襲われてるんじゃ…
いてもたってもいられず走り出したディアッカの耳に、微かにピアノの音が聞こえた。
こんな所で、ピアノ?
ディアッカは眉を寄せるが、次の瞬間、今までとは逆の方向に走り出した。
ミリアリアはAAの娯楽室で、一人ピアノに向かっていた。
パーティーへの出席を渋るミリアリアにラクスが与えた仕事はピアノの伴奏。
「まさか、軍服で演奏なんてされませんわよね?」
物事にはTPOというものがございますものね?とラクスが微笑む。
そうしてまんまとミリアリアは、カガリたちの望み通りドレスを着せられ、パーティーに出席することになったのだ。
「ピアノなんて、初歩の初歩しか出来ないわよ?!」
そう言って慌てたミリアリアだったが、サイの教え方も上手く、またミリアリアも決して演奏が嫌いなわけではなかったので、何とか本番もひどく間違えることなくやり遂げた。
ザフトの将校達を招き入れた予定外のアンコールには驚いたが、一度やり遂げてしまえば二度目はそう緊張することもなく、むしろ楽しんで演奏できた。
最も、演奏が終わって顔を上げた時、イザークとディアッカがマリュー達と共にいるのを発見してひどく動揺したのだったが。
今ミリアリアが弾いているのは、ラクスの所で見つけたものだった。
楽譜にさっと目を通しただけだが、想像するにとても綺麗な曲だと思ったミリアリアはラクスに頼んで楽譜を貸してもらったのだ。
貸して欲しいと申し出た時、なぜかラクスが寂しげに微笑んだのをミリアリアは不思議に思ったが、今はこの曲の演奏に没頭していた。
「意外に…切ないメロディなのね…」
そう独り言を言いながら、ミリアリアは楽譜の最初に戻って指を滑らせたー。
ディアッカが談話室のドアを開けると、ゆっくりとした旋律がディアッカを包む。
ピアノを弾いているのは、ミリアリアだった。
しかも、この曲は。
「ニコル…」
地球で散った、かつての仲間。
ニコル・アマルフィの作曲したものであった。
かたん。
突然部屋に響いた音にびくっとしたミリアリアが手を止め、顔を上げた。
「ディアッカ!?いつ来たの?」
ミリアリアは慌ててピアノから離れる。
「今来たとこ。…続き、弾けよ。」
「え?」
「今の曲。最後まで弾けるんだろ?」
「…さっき初めて譜面を読んで、最後まで弾いてみたの。だからちょっと、自信ないかも…」
ディアッカはゆっくりとミリアリアのところまでやってきた。
微笑んでピアノにもたれかかる。
「いいよ、間違えても。そのまま続けて?」
ディアッカの言葉に、ミリアリアは頷いた。
そして、真剣な表情でピアノに向き直る。
小さな手が、鍵盤をゆっくりと叩いた。
「…これで、終わり、かな?」
ミリアリアはふぅと息をついて、ディアッカを見上げた。
その瞬間。
ディアッカの腕がミリアリアに伸び、華奢な体を抱き締める。
肩にちくりと痛みが走ったが、我慢できないほどではなかったのでミリアリアはそのままディアッカの胸に顔を埋める。
ディアッカの匂い。温かい体。
ミリアリアの体から、徐々に力が抜けて行く。
「この曲、さ。ニコルのなんだ。」
「ニコル…さん?」
どこかで聞いたことのある名前だった。
ミリアリアはしばらくディアッカの腕の中で思案し、そして思い出す。
ラスティが別れ際に、ディアッカとイザークに言った言葉。
ミゲルと、ニコルの分も生きろ。
「もしかして、クルーゼ隊の…?」
「そ。ブリッツのパイロット。ピアニストだったんだ、あいつ。」
「…ラクスに借りたの、この楽譜。」
ディアッカはミリアリアの髪に顔を埋めた。
「ラクス嬢はニコルの演奏会にも何度か行ってたからな。コンサートの時は伴奏とかもしてたし。昔あいつが嬉しそうに教えてくれた。」
「そうなんだ…」
あの時のラクスの表情は、そういう意味があったんだ。
ミリアリアはディアッカの腕の中で目を閉じた。
たくさんの命が、未来が散った戦争。
この戦争で本当の意味で幸せになった人なんて、いるのだろうか?
もう二度と、こんなことが起きないといい。
悲しい想いをする人が、一人でも減ればいい。
何よりディアッカに、もうこれ以上悲しい思いをして欲しくない。
「もう、戦争なんて二度と起きないといいね。」
不意にミリアリアがそう呟いた。
ディアッカはミリアリアをさらにぎゅっと抱き締める。
花の香りが、ディアッカの鼻腔を擽った。
「ん。そうだな。」
「…あの、ディアッカ。」
「ん?」
「ちょっとだけ、痛い…」
ディアッカはハッとした。
そうだ、こいつまだ抜糸したばっかで…!
「ごめん!」
慌ててミリアリアから体を離し、ディアッカはその華奢な肩に手をかける。
すると、ミリアリアがくすくすと笑った。
「ピアノが弾けるくらいだもの、そんなに気にしないで?
ただ、あんまりギュって押されるとちょっと気になるだけだから、大丈夫。」
そうしてディアッカを見つめ、またふんわりと笑うミリアリア。
ディアッカは、改めてそんなミリアリアを見つめる。
「そのカッコ、似合うな。」
「…はめられたのよ。お姫様二人に。」
照れているのだろう。顔を赤らめ、ちょっと唇を尖らせたミリアリアを、ディアッカは心の底から愛しいと感じた。
「部屋、行くか。」
「…そうね。ディアッカも疲れたでしょ?」
「まぁな。お前も、お疲れさん。ピアノよく弾けてたぜ?」
「そうかな。…ありがと。」
ディアッカはミリアリアに手を差し出す。
その手に、そっとミリアリアの手が重なる。
二人は微笑み合うと、娯楽室の明かりを消して、寄り添いながら部屋を出て行った。
ディアッカにピアノを弾かせるか、最後まで迷いました(笑)それにしても、なんて甘い二人…。
2014,6,13up