ディアッカがふと気づくと、風に乗ってかすかに歌声が聞こえてきた。
ラクスの声だ。
ということは、パーティーも終盤なのだろう。
「まぁ…やっぱり本物は違うよな」
かつてラクスの名を騙り、前議長の命令のもと歌っていた少女を思い出す。
そういえばアスランは、彼女とつながりがあったと聞いている。
あいつは、何気に女が途切れねぇんだよな。
ミリアリアに言わせれば、「ただの空気の読めない甲斐性無しな鈍感男」らしいが。
そこまで思い出して、ディアッカはふっと笑った。
あいつの毒舌ですら、今はこんなにも愛しい。
パーティーが終わったら、ミリアリアに会いに行こう。
ラクスの歌は嫌いではないが、今は早くこのパーティーが終わって欲しいとディアッカは思った。
「ディアッカ、ラクス嬢がお呼びだ。広間に集合するようシホ達にも伝えてくれ」
そんなイザークの言葉に、ディアッカは仏頂面を隠せなかった。
「まだなんかあんの?」
「とっとと伝えろこの色ボケが!」
「ひでぇ言い草…」
数分後、ジュール隊の面々が広間に集まった。
パーティーの出席者はほぼ退出しているが、ジュール隊以外にも護衛の任に就いていた隊員達が談笑している。
そして、フラガとマリュー、バルトフェルドらはまだ隅のミニバーでグラスを傾けていた。
「ディアッカくん、お疲れ様。」
胸元を強調するようなドレス姿で、マリューが微笑む。
「坊主、どこ見てんだおい。」
見せたくねぇならそんな服着せんなっつーの!
ディアッカはそう思ったが、曖昧に微笑んでごまかした。
「皆様、本日は警備の任、ご苦労様でした」
不意にラクスの声が響いた。
そちらを振り返ったディアッカは、驚きに目を見開いた。
ラクスの立つ傍らにはピアノ。
そのピアノの横に、サイとミリアリアが立っていた。
ミリアリアはオーブの軍服ではない。
肩の傷を気にしたのか、パフスリーブに膝丈のシンプルなAラインのドレス。
すとんとしたシルエットは逆にミリアリアの細い体の線を際立たせているが、淡いサーモンピンクのシフォン素材が同時に柔らかい雰囲気を醸し出している。
足元はややヒールの高い同系色のアンクルストラップがついたパンプスで、爪先を飾る濃いオレンジの花がミリアリアによく似合っていた。
ディアッカが見惚れていると、その視線に気づいた、やはり正装しているサイがにやりと笑う。
そして、事もあろうにミリアリアの腰に手を回すと耳元で何事か囁き、そのままそっと脇の扉から姿を消した。
あいつ、ミリィに何してくれてんだ?!
「イザーク、俺ちょっと」
「…おい、ディアッカ!あれは…」
「あぁ?」
ミリアリアを追いかけようとしていたディアッカだったが、仕方なくイザークの指差した方を振り返った。
ミリアリアが、ラクスの脇にあるピアノに腰掛けていた。
その後ろには、サイがヴァイオリンを手に立っている。
「この度の式典にあたり、休む間も無くわたくし共を護衛してくださった皆様に、短くはありますがこの歌を捧げます。」
ラクスの涼やかな声。
ミリアリアの背筋が、しゃんと伸びる。
そして、ミリアリアとサイが一瞬目を見交わし。
ピアノとヴァイオリンの音が、広間に響いた。
ラクスの歌とミリアリア達の演奏が終わると、大きな拍手が広間を包んだ。
気づけば、いつの間にかノイマンやマードックも戻ってきていた。
「坊主、嬢ちゃんはなかなか多才じゃねぇか。ピアノなんて弾けたんだなぁ。」
「…いや、俺も知らねぇけど…」
ほんと、あいつピアノなんて弾けたんだ。
「たしか、10年ぶりくらいって聞いたわよ?」
マリューも笑顔で話に加わる。
「サイくんはお父様のご意向で一通り楽器は習っていたようだけど、ミリアリアさんはレッスンが嫌いで数年で辞めちゃったって。
同じ先生に習っていたらしくてね。ミリアリアさん、筋は良かったらしいわよ。」
「それはまた…ハウらしいな。アーガイルは意外だが。」
ノイマンの言葉に、マードックが相槌を打つ。
「まぁ、あいつだって氏族ですからねぇ、一応。」
「しぞく?」
首を傾げたディアッカに、ノイマンが説明した。
「プラントで言う、お前んとこの家柄のようなもんだ。」
「げ。あいつも!?」
「でなきゃ、あの歳で参事官補佐に抜擢されないだろう。
あいつの父親は、オーブの下級氏族でな。先だってのジブリールが絡んだ騒ぎで銃撃戦に巻き込まれ、亡くなったんだ。」
ディアッカは言葉を失い、ノイマンを見た。
いつしかディアッカのそばに来ていたイザークも驚きで言葉が出ない。
「あいつは、あの歳でアーガイル家当主として政治の世界に飛び込んだ。
ぎりぎりカレッジを卒業していたから何とかなったものの、世襲制とは言え年功序列のナチュラルの間では風当たりも強い。
今回のあいつの人事は、キサカ殿の進言もあってのことだそうだ。」
そこまで言うと、ノイマンはステージに立つサイとミリアリアをじっと見つめた。
「結構面倒なんだよ、オーブって国もな。」
サイは、楽器の演奏が得意という脳内設定(笑)
2014,6,12up