カメラのフラッシュが無数に光る。
この日、オーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハとプラント評議会議長に就任したラクス・クラインによる停戦の調印式が執り行われた。
カメラに向かって微笑みながら握手をする二人を、ミリアリアはオーブの軍人として与えられた席から見守っていた。
これで、世界はまた動き出す。
ナチュラルとコーディネーターの融和が、少しでも早く進むといい。
ミリアリアは心からそう願い、その中心となるであろう二人を見つめていた。
二人の近くには、ザフトの軍人が護衛として付き添っている。
評議会議員への選出も噂されている、ジュール隊隊長、イザーク・ジュール。
そして、その副官でもあるディアッカ・エルスマン。
彼らはその軍功もさることながら、豪奢な外見もあいまってより一層皆の目を引きつけていた。
ディアッカは、流石に任務中ということもありミリアリアの方に目を向けることはない。
ミリアリアも、今はいちオーブの軍人という立場なので、ディアッカを目にすることはあっても特に何もしなかった。
それでも二人の間には、強い絆と想いがある。
なんだか、こうしていると別の人みたい。
そうミリアリアが感じるのは、ディアッカの軍服のせいだ。
ヴァレンタインの一件が片付き、プラントへ一足先に戻ったディアッカは、一般兵の緑服から正式に副官用の黒服の着用が決まった。
ディアッカの実力とこれまでの軍功を考えれば遅過ぎたくらいだが、先の大戦で地球軍の捕虜となっていた経緯、そして軍事裁判にかけられたことがその昇進を遅らせていたらしい。
黒い軍服は、褐色の肌に金髪のディアッカにはとてもよく似合っていた。
白い隊長服のイザークも本当に綺麗だが、また違う精悍さがある。
それに比べて自分はどうだろう。
良くも悪くも平凡過ぎて、なんだか隣に立つのが嫌になってしまう。
そんなことをミリアリアは思い、少しだけ俯いてそっと溜息をついた。
式典が終わり、この後はオーブ、プラント側で一旦それぞれの控え室に戻り、非公式の協議が行われる。
ミリアリアが控え室に入ると、カガリとサイが何やら小声で話をしていた。
サイも、今ではすっかり政府高官としての姿が板についてきた。
そんな二人をぼんやり見ていたミリアリアだったが、着席の合図に慌てて近くの椅子に座る。
「まずは、式典ご苦労だったな、みんな。」
カガリの砕けた口調にほっと息をつくAAのクルー達。
やはり、戦闘とは違った緊張感があったのだろう。
「さて、我々は明後日、オーブに向けてプラントを出立する。」
室内がざわつき、ミリアリアも思わずカガリの方を見た。
明後日、AAが発ってしまえば、ミリアリアはプラントに一人になる。
いや、ディアッカがいる。
キラも、ラクスも。
それでも、ミリアリアは胸のざわつきをなかなか抑えられなかった。
「本日より、オーブとプラントの国交は回復した。定期便の運行再開など、実際にことが動くのはしばらく先となるが、通信や非公式とは言えど国同士の行き来に、表立っての問題はない。」
カガリはそこまで言って、一度息を付いた。
「そこで、オーブではプラントに臨時で総領事館を設置することとした。」
ミリアリアは驚いた。
この短期間で、そこまでのことをいつ決めたのだろう?
先程のサイとの会話も、それに関係あるのだろうか。
カガリの話は続く。
「総領事館を設置するとなれば、当然責任者を含めた職員が必要となる。
最初は少人数での業務となるが、いずれは人数を増やして行くつもりでいる。
この後の非公式協議の前に、まずこの場でその領事館に関する人事を発表する。サイ、頼む。」
濃紫の首長服に身を包んだサイが、いつの間にか手にした書類を前にカガリの前に進み出た。
自分の他にも、この中から誰かが残る?
ミリアリアはじっとサイの声に耳をすませた。
2時間後。
プラント評議会の会議室に現れたのはカガリとキサカ、フラガとマリューだった。
プラント側は、ラクスにキラ、アイリーン・カナーバ他、クライン派と呼ばれる議員が数名、そして護衛としてイザークとディアッカが控えていた。
「待たせたか?すまなかったな。」
「いいえ、わたくしたちも今しがた到着したところですわ。」
ラクスが微笑んで答える。
ミリアリアは、当然来ない、か。
ディアッカは無表情な顔の下で、愛しい恋人のことを思い出す。
先程の式典で、ミリアリアが俯いて溜息をついていたことを見逃すディアッカではなかった。
また、一人で何かをぐるぐる考え込んでいるのだろう。
「早速始めよう。」
カガリの一声が、協議の開始を告げる。
ディアッカは気持ちを切り替え、前を向いた。
「それではまず、プラントにオーブの総領事館を設置する件について、だが。」
イザークとディアッカは思わず目を見交わす。
総領事館の話は、二人には初耳だった。
「この情勢では、最小限の人数での運営にならざるを得ない。そのため、オーブ側で厳選した人員を三名、派遣させてもらうことにした。」
ラクスが頷いて、先を促す。
「今回の人選は、今後起き得る様々な事態に身軽に対応でき、なおかつ我が国においても優秀な人材と呼んで差し支えない者たちを選んだ。今後職員は随時派遣して行くつもりだが、しばらくはこの三名にあらゆる職務を委任してある。存分に使ってやって欲しい。」
そこまで聞いて、不意にラクスがふふ、と声を出して笑った。
「ど、どうしたのラクス?」
キラが驚いてラクスを覗き込む。
「…いいえ、何でもありませんわ、キラ。」
「…ラクスは鋭いな。油断できない。」
カガリが顎の下で手を組んで微笑む。
キラが不思議そうな顔で二人を見る。
イザークとディアッカもまた、顔を見合わせた。
「それでは、領事館職員を紹介しよう。キサカ、彼らをここへ。」
「かしこまりました。」
そうして、ドアが開き。
「失礼します」
新しいオーブの領事館職員三名が入室した。
「紹介しよう。オーブ連合首長国特別参事官補佐、サイ・アーガイルに、オーブ軍第二宇宙艦隊AA所属、アマギ一尉、そしてミリアリア・ハウ三尉だ。」
2014,6,12up