「じゃあ、ほんとにプラントに残るんだね、ミリィ。」
ミリアリアは笑顔で頷いた。
「うん、とりあえず最初のうちはラクスのところに居候させてもらう事になったの。ディアッカが頼んでくれて。」
そっか、と言うとサイは窓辺に移動し、外を眺めた。
現在、サイはオーブの特別参事官補佐としてここプラントに滞在している。
代表首長であるカガリは、明日に迫った停戦合意の調印式に向けて準備に追われている。
サイも決して暇ではないのだが、ぽっかり時間が空いたのでAAまでミリアリアに会いに来たのだ。
ちなみにカズイは、現役のエンジニアであることからその腕を買われ、マードックらと別室で話し込んでいた。
「…ディアッカからは、婚約者として、って聞いたけど。ミリィ、ディアッカと結婚するの?」
サイの瞳は優しい。
が、言葉は遠慮がなかった。
「…いずれはそのつもりでいる、けど。実感なんてあるわけないし、不安は不安よね。やっぱり。」
ミリアリアも、素直に思ったままを口にする。
停戦協定が締結されれば、数カ月で地球とプラントの国交も回復するだろう。
そうすれば、オーブの両親の元に帰ることも、地球からプラントに呼び寄せることも可能になる。
国交回復を待たずとも、協定により、プラントにナチュラルがいても大きな問題になることはないはずだ。
ディアッカを信じてついて行く、と決めたミリアリアの気持ちに嘘はない。
ただ、自分の存在が彼にとってマイナスになるのでは、と。
ミリアリアはどうしてもそこが不安だった。
「仕事はどうするの?」
「一応、私はどこの通信社にも属してないフリーの立場だから…。
ターミナルの許可証はまだ持っているけど、下手なことはもう書けないわよね。
あっという間にスパイになっちゃうもの。」
ザフトの、それなりの地位にいる軍人の婚約者が、ナチュラルのフリージャーナリストでAAの元乗務員。
しかも立場上ミリアリアはオーブの軍人でもある。
迂闊なことはできない立場だ。
「気持ちだけじゃ、どうにも出来ないことってあるものね…。」
そう言って力なく笑うミリアリアを、サイは気遣わしげに見つめた。
「…もし、どうしても辛かったり、何かあったりしたら。」
ミリアリアが顔を上げ、碧い瞳がサイを見つめ返した。
「いつでも連絡して。迎えに来るからさ。」
サイはミリアリアの頭をゆっくりと撫で、微笑んだ。
「ミリィには、ディアッカがいる。
だけどそれだけじゃなく、たくさんの仲間も味方もいるんだから。それを忘れちゃダメだよ。
自分一人で何でもやろうとしない。思い詰めずにディアッカにまずはなんでも相談する。
ディアッカに言いにくければ、俺でも誰でも構わない。分かったね?」
「サイ…」
ミリアリアが泣きそうな顔になる。
それでも、彼女は泣かなかった。
「うん。ありがとう、サイ。」
ミリアリアは強くなった。
サイはそう実感する。
トールを亡くして泣いてばかりだったミリアリアも、ディアッカがAAを離れる時に人目を忍んで泣いていたミリアリアも、サイは知っている。
だからこそ、今のミリアリアの笑顔は眩しく、無くしてはいけない大切なものだと思う。
「サイ、お願いがあるの。」
「なに?」
「トールのお墓参り、お願いしていいかな…。しばらく、行けなくなりそうだから。
あと…フレイも。」
サイは一瞬驚いた顔をしたが、すぐ微笑んだ。
「了解。きっちり報告しとくよ。いろいろね。」
「色々って何よ?」
「これから考えるさ。」
「サイ、ここにいたの!探したよー」
マードック達から解放されたのだろう。
カズイもやって来た。
そして、ゼミにいた頃のようなじゃれあいの会話が始まる。
かつて同じ場所で学び、同じ場所で戦ったナチュラルである三人。
それぞれの進む道は違えど、その想いは同じ事に変わりはないのであったー。
2014,6,12up