「これも美味しい!ミリアリアさん、レシピ教えてください!」
「ささみと胡瓜の梅サラダね。うん、じゃあこれも後でメールするわ」
「シン、お前さっきからだし巻き卵ばっか食ってんな」
「…好きなんです!」
いつもより騒々しい食卓に響く笑い声。
と、ミリアリアはあることに気づき、早速それを指摘した。
「ちょっと。ディアッカはもっとお魚も食べて!シンくん、お魚苦手だった?」
「あ、いや…」
「ああ、シンって貝類とかきのこ類苦手なんですよ。でも絶対食べず嫌いだよね?」
「メイリン!」
慌てふためくシンに、ミリアリアは少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。
「これ、貝じゃなくて魚よ?タラのみぞれソースがけ。きのこ類も椎茸が入ってるだけだし、大根おろしは好きでしょう?」
「あ、う」
「……食べず嫌いは良くないわ。ね、ディアッカ?」
「あ、えっと、はい」
そそくさと箸を持ちタラのみぞれソースがけに手を伸ばす二人に、ミリアリアとメイリンは大笑いした。
デザートの準備に席を立ったミリアリアを優しい視線で見送り、ディアッカは満ち足りた表情の二人に向かい合った。
「ミリィの料理、どうだった?」
「はい!すっごく美味しかったです!あんなに美味しいお料理をたくさん作れるなんて…ミリアリアさん、すごいです!」
「俺も…久しぶりに、こんなにたくさん食べました」
「だろー?俺ってばよく三ヶ月もこの飯から離れて生活できたなって思うぜ」
「はぁ…」
ちゃっかり本国からの物資輸送シャトルを利用して、愛妻料理の差し入れを受け取っていたのはどこの誰だっただろう。
まさか本気でお強請りまでしていたとは思わず、当時シンは眩暈を覚えたものだった。
だが、ディアッカの言う通り、確かにミリアリアの料理はどれも美味しくて、大食漢ではないシンも久しぶりに満腹になるまで食べてしまった。
心なしか、ズボンのウエストがきつい気もしたがそれにはあえて気づかないふりを決め込むことにする。
こんな風にわいわいと食事をしたのは、どれくらいぶりだろう。
シンの頭に浮かんだのは、ミネルバの食堂だった。
メイリンとルナマリアがいて、ヨウランとヴィーノがいて──レイがいて。
アカデミーで同期だった、大切な仲間。
あの頃の自分は、オーブに…アスハに対しての憎しみに凝り固まり、自分で決断しているつもりが周りの言葉に流され、迷ってばかりだったと今なら分かる。
不意に告げられたレイの告白──自分がクローンであること、余命がそう長くはないということ──に対しても、ただ狼狽えることしか出来なかった。
議長以外に心の拠り所を持たなかったあいつは、自分たちといて楽しかったのだろうか。
もっとレイの心に寄り添うことが出来ていたら……何かが、変わっていたのだろうか。
「……必要ない、って一刀両断されるかもしれないけどな」
「え?何か言った?シン」
首を傾げるメイリンに、シンははっと我に返った。
どうやら、頭の中で考えていたことが口からぽろりと漏れてしまったようだ。
「あー、うん。ちょっと」
「何よー?気になるじゃない!」
じゃれあう二人を、ディアッカが興味津々といった様子で見守っている。
シンは観念したかのようにひとつ息を吐いた。
「ミネルバで…こうやってみんなで飯、食べたなって思い出してさ。みんなも…レイもここにいればいいのにな、って思った」
その言葉に、メイリンは切なげに微笑み、「そうだね…」と呟いた。
「あいつさ、俺たちといて楽しかったのかな」
「シン…」
「楽しかったと思うぜ?」
ディアッカの言葉に、二人は顔を上げた。
「ミネルバ時代のお前たちの戦闘データ、以前見せてもらった。あれほどの連携、互いに信頼関係がなきゃ取れないぜ?もっとそいつ…レイ・ザ・バレルを信用してやれよ」
「そうよ。それにね、こうしてご飯を一緒に食べるってすごく大事なのよ?たくさん話をして、笑って…そうやって、信頼を深めていくの。それは戦艦でも家の食卓でも変わらないわ。だから…毎日、とは言えないかもしれないけど、彼もきっと楽しかったはずよ」
いつからそこにいたのだろう。
ことん、とガラスの器をテーブルに置きながら、ミリアリアもまた微笑んだ。
器に盛られていたのは、四角く切られた牛乳寒天。
蜜柑や苺などのカラフルな果物たちが、牛乳の白に映えて食欲をそそる。
「母がね、昔よく作ってくれたの。簡単だけど美味しくて、お腹壊すまで食べたっけ」
和の文化が残るオーブであればどこの家庭でも出てくるような、素朴な一品。
シンの心が、ほわりと温かい何かで包まれた。
「…忘れないでいれば、その人はシンくんの心の中にちゃんといるわ。ずっとね」
レイを忘れることなどないだろう。
共に学び、戦い、散っていった戦友で、シンの大事な、友達。
「……俺、忘れません。レイのことも、トダカさんのことも」
「私も…忘れません。レイは、友達だもの」
きっぱりとそう言い切ったシンとメイリンに、ディアッカとミリアリアは笑顔で頷いた。
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ちょっぴり感傷的なシンですが、もう泣いたりはしません。
トダカのこともレイのことも、きちんと胸にしまって前を向いて生きていく。
ここには書きませんでしたが、ステラについても同じだと思います。
同じように大事な戦友、そして恋人を失った経験のある二人の言葉は、シンの心に染み渡ったと思います。
それにしても、料理が素朴ですみません(笑)
家庭料理をふるまうということで、色々悩んだ挙句こうなりました;;
2017,2,20up