77, 家族 1

 

 

 

 

イザークを見送ったアンジェラとラスティは、ディアッカが差し出したコーヒーを手にどちらからともなく息を吐いていた。
たくさんのマスコミに取り囲まれ、さすがに疲れたのだろう。
 
 
「とりあえず、証人喚問当日だってのにこれだけ反響があったんだ。この分じゃ、もうしばらくはこっちに滞在しなきゃだな」
「そうね。ザイルさんにも連絡しないと」
 
 
二人は顔を見合わせ、肩を竦める。
そこへ顔を出したのは、疲れた顔をしたサイだった。
「サイ、大丈夫?」
ミリアリアの声に、サイは溜息とともに苦笑を浮かべた。
 
「ああ、うん。ちょっと…何ていうか、精神的に疲れちゃったかな」
「…私の両親の相手は大変だったでしょう。お疲れ様」
 
アンジェラの言葉に、ミリアリアははっと顔を上げた。
アンジェラの記憶によれば、彼女の両親はナチュラルを嫌悪しているらしい。
そしてサイは、ナチュラルだ。
 
「ごめんね、サイ…私…」
「ミリィもアンジェラさんも気にしないで。ほら、アスカくんやイザークも来てくれたしさ。その隙に俺は退散しちゃったから」
「まぁ、何にしてもお疲れ。コーヒー持ってくるからお前も休んどけよ」
「ディアッカが優しいとなんか後が怖いなぁ…」
「……お前の俺に対する評価、なんか歪んでんぞ絶対」
 
サイとディアッカの会話に、ミリアリアはついくすりと笑みを漏らしていた。
「ほら、お待たせ…って、悪い、親父からだ」
懐から聞こえてきたコール音にディアッカは携帯端末を取り出し、サイにコーヒーを手渡すと部屋を出て行った。
 
 
「サイ、ラスティとアンジェラさん、もうしばらく総領事館に滞在していてもいいわよね?」
「もちろん。アマギさんが代表にも連絡してくれて、了承をもらってるよ」
 
 
自身の婚約の件で奔走している中でのカガリの心遣いにミリアリアは心の中で感謝した。
「ミリアリアさん。お子さんは順調?」
「え?うん。やっと安定期にも入ったし、悪阻も不思議なくらい治まったの。お腹の子も順調に育ってるわ」
「良かったじゃん。でもミリアリアはすぐ無茶するからなぁ…。ディアッカも気が気じゃないんじゃねぇの?」
「もう!無茶なんてしないから大丈夫よ」
ミリアリアに対するディアッカの過保護ぶりを知るサイがくすくすと笑った。
 
と、タッドとの通話を終えたらしいディアッカが少しだけ難しい顔をして戻ってきた。
「ディアッカ、どうしたの?」
すかさずその変化に気づいたミリアリアに、ディアッカはなんとも複雑な顔で「ああ…」とだけ返事をし、アンジェラに向き直った。
 
 
「アンジェラ。ちょっといいか」
「私、ですか?」
 
 
不思議そうに首を傾げるアンジェラに、ディアッカはひとつ息をつくと口を開いた。
 
「…親父が、気にしてるんだ」
「え?あなたの…お父様が?」
「ああ。なるべく早めに、しかるべき医療機関で診察を受けて欲しいと言っている。なんならエルスマン系列の病院を紹介するそうだ」
「どうして?アンジェラさん、どこか悪いの?」
 
ぎょっとしたミリアリアに、アンジェラは慌てて首を振った。
 
「私はどこも…。特に体調に変化もないですし」
「──前例があるそうなんだ。瞳の色が変わる症例に」
「……え?」
 
ディアッカはまっすぐにアンジェラを見つめた。
 
 
「言ってたよな?記憶力以外の症状は後天的な発現だった、って。身体能力についてはマイナスの素因じゃないから何とも言えない。でも瞳の件について、親父は…ある可能性を疑っていた」
「可能性…ですか?一体…」
「…アンジェラ。お前もしかして…」
「え?」
「いや、今はいい。とにかく一度診察を受けに来て欲しいそうだ」
 
 
サイとミリアリアは思わず顔を見合わせた。
「ディアッカ、それってどういう…」
「──わかりました」
それ以上は何も言わず、ただ頷いたアンジェラに、ディアッカはさらさらとメモに何かを書き手渡した。
「これ。親父の連絡先だ。なるべく早くアポイントを取ってくれ」
「…はい」
どういうことなのだろう?
ミリアリアは、帰宅後ディアッカに話を聞いてみよう、と心に決めた。
 
 
 
***
 
 
 
「疲れただろ。今夕飯あっためるから着替えて休んでろよ」
「私も手伝うわ。ディアッカだって疲れてるでしょ」
「いーの。俺は見てただけだから平気だって」
 
さすがに普段通り家事をこなす気力も体力もなかった二人は、近所の店で夕食を調達してから帰宅した。
ミリアリアお気に入りのベーカリーで買い込んだパンと惣菜、ディアッカが作り置きしてくれていた野菜たっぷりのポトフが今夜の夕食だ。
 
「じゃ、急いで着替えてくるね」
「ゆっくりでいいって。あ、パセリ入れて平気?」
「うん。ありがと」
 
悪阻が酷かった頃、ミリアリアは食べられるものが極端に減った。
品数を揃えていたハーブ類も、香りのせいでほとんど口に出来ないほどだった。
今はほぼ元通りなのだが、それでもこうして細やかな気遣いをしてくれるディアッカに改めて感謝をし、ミリアリアは楽なルームウェアに着替えるべく寝室へと向かった。
 
 
 
 
「…ごちそうさま。美味しすぎてたくさん食べちゃった」
「カロリーは控えめにしたぜ?」
「ふふ、本当に完璧よね、ディアッカのお料理」
「奥様直伝ですから?んじゃ、飲み物淹れてくるわ。いつものハーブティーでいい?」
「うん。私、お皿洗うわ」
「とりあえず置いとけよ。後でやりゃいいじゃん」
 
そう言いながら、自分で洗ってしまうつもりなのだろう。
こんなに甘やかされていいのかしら、と思いながらも、この穏やかな時間が何より嬉しくて、幸せで。
今だけは、この時を満喫しよう、とミリアリアはソファへと移動し、ディアッカが来るのを待つことにした。
「お待たせ。…頑張ったな、今日」
「ニールさんとの約束だもの。それに、イザークも頑張ってくれたしラスティとアンジェラさんも証言しに来てくれた。私よりみんなの方がたくさん頑張ってるわ」
「謙遜も度がすぎると良くないぜ。お前だって頑張っただろ」
ミリアリアはこてん、と頭をディアッカの方に預け、小さく微笑んだ。
 
 
「一番頑張ってくれてるのは…ディアッカだわ。地球での事もそうだし、今日だって私とこの子を守ってくれた」
 
 
その言葉に目を丸くしたディアッカを見上げ、ミリアリアは目を閉じる。
そして、優しく重ねられた唇を受け止めながら、愛する夫の首に腕を回した。
 
 
 
 
 
 
 

 

 

アンジェラのエピソードのはずが、いちゃラブディアミリに…(笑)
この後、ちゃんと本題に入ります!(笑)

 

 

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2017,2,7up