74, この先の未来 1

 

 

 

 
「なんだか…すごく久しぶりな感じ」
 
 
ようやく退院の許可が下りたミリアリアは、ディアッカに連れられアプリリウスのアパートへと帰って来ていた。
クインティリスで病院に運び込まれて体調が落ち着くまで一ヶ月もかからなかったはずなのに、まるで半年以上留守にしてしたような不思議な気分になる。
 
「ああ…二人揃ってここに帰るのが久しぶりだからじゃね?」
「あ…そっか。そういえばそうよね」
 
ディアッカの言葉に合点がいったように頷くと、ミリアリアはカーテンを開け、空気を入れ替えるべく窓に手をかけた。
「あーあーもう!そういうのは俺がやるから!お前は大人しくしてるの!」
安静期間を経て流産の危機は一応乗り越えたが、まだ安定期には程遠く、何がきっかけでまた出血が起こるかも分からない。
普段の倍以上に過保護になったディアッカにミリアリアは苦笑し、おとなしくソファに腰を下ろした。
何の気なしにテレビをつけると、画面に映し出されたのはアスランとカガリ。
婚約を発表してしばらく経つが、やはりナチュラルとコーディネイター、一国の代表と元評議会最高議長のロマンスはミリアリアとディアッカの時以上に大きなニュースとなっていた。
 
 
***
 
 
ようやくプラント間の移動許可が出た日、タッドから紹介されたのはどこかアンジェラを思わせる綺麗な女医であった。
ふわふわの茶金の髪のせいだろうか?
 
 
「初めまして。マリア・エルスマンです」
「え…エルス、マン?」
 
 
振り返ったミリアリアの視線の先には、どこか苦虫を噛み潰したような顔をしたディアッカがいた。
 
「あんたかよ…親父の推薦した女医、って」
「あら。これでも有望株と言われているのよ?ザフトでのあなたと同じくらいにはね」
「あの、ディアッカ?」
 
はぁ、と溜息をつき、ディアッカは前髪をかきあげた。
 
「こいつ…マリア・エルスマンは俺の従姉妹なんだ。ま、イザークも含めて小さい頃から何かと付き合いがあってさ。ここ数年はめっきり会ってなかったんだけど…医者になってたとはな」
「そちらこそ随分と出世なさっているようで嬉しいわ。こんなかわいらしい奥様まで捕まえて」
「いえ、あの…すみません、ご挨拶も出来てなくて」
「あら、いいのよ。堅苦しいことは苦手だから気にしないで」
 
言葉に詰まるミリアリアににっこりと微笑むと、マリアはカルテに目をやった。
 
 
「切迫流産…とりあえずの危機は脱したようだけど、安定期まで油断はできないわ。最低でもあと三ヶ月は自宅で休養が必要ね。その間も検査や検診には通ってもらうことになるけれど…ディアッカに連れて来て貰えば問題はないでしょう?」
「あんた、アプリリウスにいるのか?」
「タッドおじさまの計らいでね。普段はフェブラリウスの病院に勤務してるわ。ええと、他に注意してもらいたいことが幾つかあるの。ミリアリアさん、いい?」
「は、はい」
 
 
きびきびと話を進めるマリアの言葉を、ミリアリアはしっかりと頭に叩き込んだ。
 
 
***
 
 
「気分は?」
「うん、悪阻はあるけど大丈夫。そういうものだもの。ディアッカこそ行かなくていいの?お仕事」
「イザークからの命令で、あと一週間は休めって。つーか俺もまだ一応怪我人なんですけどね、ミリアリアさん」
「あ、そっか」
 
身体能力に特化しているとは言え、ディアッカの怪我はまだ完治していなかった。
骨折していた箇所もあり、手術こそ必要なかったが今思えばだいぶ無理を押してまで自分のそばにいてくれたのだ。
ミリアリアはノンカフェインのハーブティ(イザークが差し入れてくれた!)を用意するディアッカのそばに行き、そっとその背中に顔を寄せた。
 
「ミリィ…?」
「そばに、いて?」
 
その甘い誘いを、ディアッカが断るはずがなかった。
 
 
 
それから一週間、二人はたくさんのことを話した。
こんなに同じ空間にいたのは、AAにいた頃以来だったかもしれない。
あの頃は出来なかったそれぞれの思い出話やディアッカが仕入れてくるラスティたちの近況、そして未来の話。
コーディネイターに対するミリアリアなりの思い、ナチュラルに対するディアッカなりの考え。
時に喧嘩もし、その度仲直りを繰り返して、二人は絆を深めていった。
ダストコーディネイターに対する議案をイザークが提出し、ラクスによって正式に承認されたのはちょうどその頃であった。
 
 
***
 
 
「ミリィ、イザークから連絡があった。来週の議会で、ダストコーディネイターの議案についての討論が始まるってさ」
 
翌日からの復帰を控えたディアッカの言葉に、ミリアリアはソファに腰掛けたまま息を飲んだ。
 
「……そう。証人喚問は?」
「まだその段階じゃねぇけど、ここ一ヶ月から二ヶ月のうちにはそこまで持っていきたい、ってのがイザークの狙いみたいだな。ラスティとアンジェラもそれほど長く領事館に足止め出来ねぇし」
 
現在二人は、オーブ総領事館で一時的に生活している。
アンジェラはその容姿から、ラスティは父の起こした事件を考慮してほとんど外にも出ていないという。
ミリアリアは立ち上がると、リビングにあるチェストからディスクを取り出しディアッカに差し出した。
 
 
「これ。過去に記事として発表するつもりだったもののコピーと、私が知る限りのことを資料にしてまとめたものよ。明日、イザークに渡して」
 
 
その薄いディスク一枚に詰め込まれた内容が、今後のプラントにどう影響を及ぼすのかはわからない。
ただ、実際にダストコーディネイターと触れ合った一人の人間として、ディアッカは思う。
結果として五体満足で生まれることが叶わなかったとしても、命の大切さ、尊さはナチュラルもコーディネイターも同じはずだ。
だからこそ、親が子を簡単に捨てる、そんな現実があってはならない。
ダストコーディネイターの現状、だけではなく、そのことを一人でも多くのコーディネイターたちが知り、考えて欲しい。
 
「……サンキュ。確かに預かった」
「お願いね。……証人喚問に向けても、準備はしておくわ。体調もいいし、私も証言したいから」
「ミリィ、でも…」
「私も証言台に立つ。北欧で…この目で見たことを、きちんとプラントの市民に伝えたいの」
「……無理だけはすんなよ」
 
ミリアリアの言葉に、ディアッカは困ったように微笑み、優しくその体を抱き締めた。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

いよいよ現実となる、ミリアリアとニールの約束。
つかの間の穏やかな日々を送りながらも、世界はまた一歩、未来に向かって動き出します。
ここへきてオリキャラのマリアが登場しますが、彼女は以前EMCさまより頂いたキリリク「月面旅行」(requestページに掲載してございます)にも出ております!
お話は全く別物なのですが、せっかくなのでこちらにも登場していただきました。
EMC様、勝手をどうぞお許しください;;

 

 

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2017,1,16up