74, この先の未来 2

 

 

 

 
明日のディアッカの復帰に向け、二人はいつもより早くベッドに入った。
 
「ちゃんと準備した?忘れ物とかない?」
「あのなぁ…子供じゃねぇんだから大丈夫。お前こそ、もし何かあったら気にせず連絡しろよ?」
「うん。次の検診ももうすぐだし、悪阻も一時期よりひどくないから。家でおとなしくしてるわ。ご飯くらいは作りたいけど…」
「だめ。さっき明日の昼飯までは準備しといたから、お前はそれ温めて食えばいいの。夜は帰ってから俺が作る」
「ディアッカのご飯、美味しいもんね。私も動けるようになったら頑張らなくっちゃ」
 
くすくすと幸せそうに笑うミリアリアの温かな体を引き寄せ、額に一つキスを落とすとディアッカは大きく息を吐いた。
 
「マリアの許可が出たら、また俺の好物作って?」
「うん。あ、シンくんも呼ぶのよね。そういえばお礼も言えてないなぁ…」
「シンなら元気にしてるぜ。当面はジュール隊の配属になったし、今はイザークと一緒らしい」
 
と、ミリアリアは碧い瞳を瞬かせ、ディアッカを見上げた。
 
 
「……あれから、状況はどうなってるの?」
 
 
あえて避けていた話題に触れられ、ディアッカは小さく息を詰めた。
マリアからも、ストレスの元凶となった話題はできるだけ避けた方がいいかもしれない、と言われていたからだ。
「私に気を使ってくれたんでしょ?でも、大丈夫だから。ディアッカがここにいてくれるだけで、私は強くなれる。だから、教えて?」
強い意志を持った視線に射抜かれ、ディアッカは苦笑を浮かべ口を開いた。
 
「ジェレミー・マクスウェルは、親父の病院で治療を受けている。診断は悪性の脳腫瘍に免疫系の疾患……これが厄介らしくて、ほぼ昏睡に近い状態らしい。代わりにユーリ・アマルフィが聴取に応じている」
「そう…ニコルさんのお父様は順調に回復してるの?」
「ああ。長時間はまだ無理だけど、会話ができるまではもう回復したらしい」
「良かった…私も一度、落ち着いたらお会いしたいなって思ってたの」
「……は?ニコルの親父さんに?」
 
驚くディアッカに、ミリアリアは微笑んで頷いた。
 
 
「それまでの経緯はどうであれ、あの人がいてくれたから私は助かったわ。だからちゃんとお礼が言いたいの」
「──ほんと、お人好しだよなぁ……お前って」
「……やめたほうがいい、って思う?」
 
 
てっきり『もう決めたの!』と食ってかかられるかと思っていたディアッカは、ミリアリアの気弱とも取れる発言に少しだけ驚いた。
「なんだよ、迷ってんの?」
「だって……私と会うことで、嫌な気持ちにならないかな、って」
悪人になりきれなかったからこそジェレミー・マクスウェルを裏切る形を取り、ミリアリアの元を訪れようとしたユーリ。
確かに、ニコルを亡くした中で幸せになろうとしていく自分たちを恨みもしただろう。
だが──。
ディアッカは小さく首を振り、柔らかな茶色の跳ね毛を撫でた。
 
「いや。罪の意識よりも、あの人はきっと、俺たちが無事であったことをまず喜んでくれるはずだ。……ニコルの、父親だからな」
 
その言葉に、心細げに揺れていた碧い瞳が力を取り戻した。
 
「うん。ありがとうディアッカ。ラスティとアンジェラさんにも会いたいな」
「ああ。今度一緒に領事館にも行くか」
「うん!」
 
サイやアマギともずっと通信でしか連絡を取っていないミリアリアは、きっと皆の顔を見て話がしたいのだろう。
嬉しそうに頷く姿が愛おしくて、ディアッカは髪を撫でていた手でそのままミリアリアの体を胸元に引き寄せた。
 
「ディアッカ?なあに?」
「──話が、あるんだ」
 
先程までとは違う声音にミリアリアは驚いた表情を浮かべたが、黙って言葉の続きを待つ。
ディアッカは脳内で伝えたい言葉をまとめ、はっきりと宣言した。
 
 
 
「……俺、さ。医者を目指してみようかと思う」
 
 
 
シンプルなその言葉に、ミリアリアの碧い瞳がこれでもかと言う程に見開かれた。
「医者…お医者、さん?」
「ああ。お前と結婚してから…将来について漠然と考えてはいたんだ。ザフトはいわゆる義勇軍だから、軍人一筋な奴ばかりじゃないのは知ってるだろ?」
「う、うん…」
予想もしていなかった言葉に、ミリアリアはただ頷くことしか出来ない。
 
「イザークはこれから最高評議会の議員としての活動が中心になって行く。あいつの性格上、軍人を辞める事はしないだろうけどな。このままザフトに残れば、俺の立場も変わっていく」
「うん」
「シホもバルトフェルド隊長も本来は違う職業に就いてた。ま、俺はなんとなくこのままずっと軍人一筋でいるのかな、なんて考えてたんだけどさ。カーペンタリアでバイオテロに巻き込まれた奴らの治療に携わって…漠然としていた思いが形になった」
「あ……」
 
カーペンタリアで起きたバイオテロの際、ディアッカが医療班に混じって奮闘したことはミリアリアも知っていた。
 
「どうしたって俺がそっちの道を目指せば、親父の跡を継ぐ、って周りからは見られる。でも俺がしたいのは研究じゃない。もっと患者の身近に立って行きたいんだ。まぁ、臨床医、って奴?」
「…うん」
「エルスマンの名はどうしたってそっち界隈じゃ有名だから、親の七光り、って見られる事もあると思う。それが嫌で、もし軍人以外の職に就くとしても絶対医療の道は選ばない、って思ってた時期もあった。でも俺、興味が無い訳じゃなかったんだよな。親父のラボにあった本読み尽くしたり、子供の頃は親父にくっついてって病院に入り浸ってたりさ」
「うん」
「だから。今すぐ軍を辞めるとかって話じゃねぇけど。やりたい事を見つけた、ってのを、一番最初にお前に言っておきたかった。…ごめんな、こんな大変な時期に、びっくりさせて。いつ言うか迷ってるうちに時間ばっか経っちまってさ」
 
ミリアリアは慌ててふるふると首を振った。
「そんなのいいの!…良かったね、ディアッカ」
「へ?」
訝しげな表情をするディアッカに、ミリアリアは笑顔になった。
 
 
「自分が本当にやりたい事、見つかったんだもの。まだ夢でしか無いけど…私、応援するから。ディアッカならきっと、いいお医者様になれると思うわ、絶対」
 
 
そう言って、まるで自分の事のように嬉しそうな笑顔を浮かべるミリアリアをディアッカはぽかんと数秒間見つめ、破顔した。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

ようやくここまでたどり着きました。
このサイトを始めてからずっと考えていたシーンです。
タイトルの通り、この先の未来についてミリアリアに語るディアッカをずっと書きたいと思っていました。
ラストシーンまであと数話となります。
本当に筆が遅くて申し訳ありませんが、今少しだけ、お付き合いください。

 

 

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2017,1,17up