「ああ、ミリアリア。少し起きていられるようならこれを預かってきたので見てもらえるかね?」
そうタッドに言われ、手渡されたのはタブレット端末だった。
「オーブ総領事館の館長から預かってきた。アスハ代表が連絡を取りたいそうだよ」
「え?カガリが…?」
ミリアリアはディアッカと思わず顔を見合わせた。
***
『ミリアリア!!お前、大丈夫なのか?!』
割れんばかりの大声を出すカガリに、ミリアリアは苦笑を浮かべ頷いた。
「ごめんねカガリ、心配かけちゃったよね。私もディアッカも大丈夫よ。ディアッカはちょっと怪我してるけど…」
『あいつはそこまで心配ないだろ。おとなしくしておけば』
「扱い悪すぎだろ、姫さん…」
げんなりした顔をするディアッカに、ミリアリアはくすりと笑った。
『なんだ、ディアッカもいたのか。それで、その、ミリアリア…ええと…』
急に歯切れの悪くなったカガリにミリアリアは首を傾げ……合点がいったように目を丸くし、にっこりと微笑んだ。
「ごめん、まだちゃんと言ってなかったよね。あのねカガリ、もう聞いていると思うけど、私…妊娠したの…って、あの、カガリ?」
タブレットに映る琥珀色の瞳がぶわりと滲むのが分かり、ミリアリアはおろおろとタブレットとディアッカに目を走らせた。
「おい姫さん、どうかしたのか?」
『──った』
「え?」
『よかったな…ミリアリア!本当によかった!おめでとう!』
まるで自分のことのように涙を浮かべ、同時にはじけるような笑顔を見せるカガリに、ミリアリアとディアッカも同じように笑顔になった。
『カガリ、ちょっと落ち着け』
「……アスラン?」
タブレットを覗き込んだディアッカは、カガリの隣に立つアスランに思わず声を上げた。
『ディアッカ、無事で何よりだ。話はラクスから聞いた。……何も力になれずすまなかった』
「や、お前は地球にいたんだし謝ることじゃねぇよ。そっちこそ何もなくて良かったぜ」
『ああ。……ラスティの事、気にしてやってくれると嬉しい。頼めるか?』
「そうだな……イザークもいるし、こっちは大丈夫だ。これからあいつも忙しくなるだろうし」
かつての仲間であるラスティを案じるアスランの言葉に、ミリアリアの胸がちくりと痛んだ。
『それと、ミリアリア。その…おめでとう』
翡翠色の瞳を真っ直ぐこちらに向けたアスランの言葉に、ミリアリアはふわりと微笑み、頷く。
「ありがとう、アスラン」
二人の間には複雑な感情がある。
それはきっと、どれだけ薄れても一生消えることはないだろう。
だが、自分がトールを想って苦しんだように、パトリック・ザラの息子という立場により、アスランもまた苦しんで来たことをミリアリアは知っている。
何度も道に迷いながらも、カガリを想い続けていたことも。
そんなミリアリアの言葉に、アスランもまた柔らかく微笑んだ。
***
「休め?って…カガリ、本気で言ってるの?」
『当たり前だろう。お前、ひとりの体じゃなくなったんだぞ?退院したところで今まで通り任務をこなすなんて危険すぎるじゃないか!』
カガリの提案。それは、ミリアリアの休職についてだった。
「でも、軍規ではこんな早くから産休なんて取れないわ。特別扱いはされたくないし、いくらカガリの言葉でもそれは…」
「ミリィ。ついさっき親父に無理はしないこと、って言われたばっかだろーが」
ディアッカの言葉にミリアリアは「あ…」と口に手を当てた。
『とにかく。アマギもサイも是非そうしてほしい、と言っているし、せめて安定期になるまではそのまま休めって。その間にラスティたちの件も動き出すんだろ?お前の持つ証拠が必要になるだろうし、自宅でそっちに集中したっていいじゃないか』
「その件だけど…あの、ラスティのお父様が起こした事件も今大きなニュースになっているんでしょう?そんな中で…」
あの日以来、ジェレミー・マクスウェルの名をニュースで聞かぬ日はない。
ラスティの冷たい瞳を思い出し、ミリアリアの表情が曇った。
『ああ、その件なら心配はいらない。数日後のプラントは、きっと全く別の話題で溢れているだろうからな。な?アスラン!』
「え?」
タブレットの向こうでカガリがアスランを振り返り、にっこりと微笑む。
そしてアスランもそんなカガリに寄り添い、翡翠色の瞳を柔らかく細め、口を開いた。
『──ディアッカ。ミリアリアにも先に伝えておく。俺とカガリは…結婚することにしたんだ』
「なっ…え、マジかよ!」
「え…嘘、カガリ!?」
二人の反応がおかしかったのか、カガリとアスランは二人してくすくすと笑っている。
その笑顔は幸せそのもので──見ているこちらまで嬉しくなるような気がした。
『私たちもたくさん悩んで、迷って…やっぱり決めたんだ。アスランとずっと一緒にいるって』
『時間は掛かったけど…俺も、決めた。もう迷わない』
二人の言葉に、ミリアリアは何度も頷いた。
『お前たちが作った道を、私たちが固めていく。だから…ダストコーディネイターの件は頼むな?ミリアリア』
ナチュラルとコーディネイターの架け橋、とラクスが評したディアッカとミリアリアの結婚だが、オーブの代表主張であるカガリと元プラント最高評議会議長の息子であるアスランの結婚に比べればやはりまた違った障害もあるはずだし、自分たち以上に大きなニュースになることは間違い無いだろう。
何より、長年アスランを想い続けながらも国主としての立場を貫き感情を押し殺してきたカガリをミリアリアは知っている。
アスランもきっと、たくさん悩んで、我慢して、迷って。
その上で口にしたのだろう。もう迷わない、と。
『発表は明日の夜を予定している。プラントでニュースが流れるのは明後日の朝くらいかな。市民の関心もラスティの父君が起こした事件からこちらにずれるだろう?その間にダストコーディネイターの件についての話をまとめるようにサイに伝えてある』
「明後日?!そりゃまたずいぶん急な話だな」
驚くディアッカに返事をしたのはアスランだった。
『カガリと決めたんだ。このタイミングで発表すれば、マクスウェル氏の事件からこちらに市民の目を引きつけられる。そこにダストコーディネイターの話題を被せて発信できれば、コーディネイターという種族についてより一層関心を引くことができるだろう?』
『それにラスティには色々と世話になった。辛い時期だろうけど、あいつのすべきこと、しなければいけないことに集中させてやりたいんだ』
二人の気遣いに、ミリアリアは涙が出そうなほどの喜びを感じた。
かつて戦った者同士がこうして互いを気遣い支え合っている。仲間として。
今は小さな輪だけれど、こんな繋がりが、もっともっと広がっていけばいい。
その為に出来ることを、私はこれからも続けよう。
ミリアリアは涙を浮かべながらもにっこりと微笑む。
そんなミリアリアを優しい眼差しで見下ろしていたディアッカもまた、柔らかな笑みを浮かべていた。
「ありがとう、カガリ」
「アスランも、サンキュ。色々大変だろうけど、気をつけろよ」
そんな二人に、カガリとアスランもまた笑顔で応えた。
『ディアッカもな。…ミリアリア、こちらは心配いらないから、体を第一にしてほしい』
『そうそう!それでディアッカは、早く怪我を治せよな!』
通信を終えると、ミリアリアは大きく息をついてベッドに沈み込んだ。
「疲れた?」
「ううん。ただびっくりしちゃって……ねぇ、ディアッカ」
「ん?」
「カガリたち…大丈夫だよね?」
自分たちの婚約時代を思い出したのだろう。碧い瞳を不安げに曇らせるミリアリアをなだめるように、ディアッカは白い額にキスを一つ落とした。
「ああ。アスランがついてる。それに…きっと守ってくれるだろ。ハウメアの神様がさ」
しゃら、とディアッカが取り出したドッグタグにしっかりと通されている護り石に、ミリアリアの表情が幾分和らいだ。
「これで…終わったのかな」
「ああ。もう俺たちが狙われることはない。…ごめんな、結果的に巻きこんじまって」
するとミリアリアは心外だ、と言うように眉を上げ、きっぱりと宣言した。
「当たり前でしょ?私はあなたの奥さんで、あなたの子供の母親で、私たちは家族なんだから。これからは一人で抱え込むなんて許さないんだからね?」
きょとんとするディアッカに、ミリアリアはぷっ、と噴き出す。
「ったく……マジで強い女」
「あら、もっと強くならなくちゃ。だって、お母さんになるんだもの。ね?おとうさん?」
数瞬ののち、ぱぁっと顔を赤らめ視線をそらすディアッカの姿に、ミリアリアは声を上げて笑った。
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ここでアスカガ、ようやく結婚の意思を表明!(小噺とリンクしております)
そして、やっと戻って来た穏やかな時間。
ディアッカはどんなパパになるのでしょうね…。
2016,12,31up