「アマルフィ議員…ニコルの、父君が……?」
絞り出すような声は、イザークのもの。
その隣でシホもまた、無言で顔を強張らせていた。
「はい。彼はその道に精通しておられます。そしてプラント内でも顔が広く、その職業柄地球とのやりとりも容易い。特に…オーブに降りたアスランの動向は、彼が中心となって見守っていたようです」
「だが、つい数ヶ月前にお会いした時にもそんな素振りは…!」
「イザーク。残念だけど受け入れるしかねぇよ」
ラスティの静かな声に、イザークはきっ、と眦を上げてそちらを振り返った。
「ラクス・クライン。ひとつ聞いてもいいか?」
そんなイザークを尻目に、ラスティはまっすぐにラクスを見据えた。
「──はい。何なりと」
「ユーリ・アマルフィは確かにこの一連の事件の黒幕だ。だが真の黒幕は他にいる。…彼は息子であるニコルの戦死を餌に奴に取り込まれた。違うか?」
その言葉に、ラクスの表情が凛としたものに変わった。
「……何を、ご存知なのですか。ラスティ・マッケンジー」
「この事件……真の黒幕は俺の父、ジェレミー・マクスウェル。あんたとオーブの姫君の間では既に目星をつけていたんじゃないのか?」
落とされた言葉に、部屋の空気が凍る。
イザークの顔が辛さをこらえるように歪んだ。
そんな中、沈黙を破ったのは、ラクスだった。
「否定は、いたしません。ですがわたくしとカガリさんがあなたにご相談した当時、そこまでは判明しておりませんでした。……ごめんなさい。わたくしどもも、いつお伝えすべきか決めかねておりました」
「……あんたらの読みは正解だ。俺はユーリ・アマルフィから直接確かめたからな」
「ラスティ!貴様いつ…!」
「ユーリ・アマルフィはミリアリアが攫われた病院に現れたところを狙撃された。偶然気づいた俺が追いかけて、引き止めたその時に」
「な……」
絶句するイザークの後ろで、シホもまた言葉を失っていた。
「ラスティさんから連絡を受けてすぐ、バルトフェルド隊長と対応を協議いたしました。ダコスタさんを筆頭に手練れの隊員たちが病院を見張っています」
「……その人たちは信用出来るのかしら?」
アンジェラの言葉に、ラクスは一瞬痛ましげな表情を浮かべた。
「わたくしの側近の一人にスパイがいるであろうことは承知しております。充分に吟味した上での人選です。この部屋をリザーブしたのもわたくし自身ですし、側近には体調が優れないのでキラと二人で出かける、と申し伝えております。盗聴器の類も調査済みです」
「あ、あの!ちょっと…話を整理させて頂けますか?」
シホの声は震えていた。
「ラクス様の側近のお一人が、黒幕側のスパイだった。だからミリアリアさんの妊娠についても黒幕の知るところとなり、ディアッカは拉致された。そういう事ですか?」
「そう…とも言えましょう。ですが実際のところは、偶然が重なったとしか申し上げられません」
確かに、ミリアリアの妊娠が発覚するより前にディアッカは拉致されている。
ミリアリア自身も充分気をつけていたはずだが、もしもディアッカの命を交渉材料にされてしまえばきっと彼女は出された要求を迷いなく飲むだろう。
「ではなぜユーリおじさまはこんな時にアプリリウスにいらしたのですか?ミリアリアさんを拉致するため、でしょうか?」
「シホ…」
シホは音楽家の両親の元で育っており、ニコルとも面識があった。
一時は婚約の話も出ていたのだから、当然ニコルの父親であるユーリとも親交があったのだろう。
「私…まだ、信じられないんです。おじさまはそんなことをする方じゃないんです」
「……わたくしとカガリさんはおよそ一年前からユーリ・アマルフィ様について内密に調査を進めておりました」
「一年、前…?」
ラクスはシホの薄紫の瞳を見据え、きっぱりと告げた。
「シホさん。イザークさんも、おかしいとは思われませんでしたか?これまで、シホさんにだけ黒幕から何の手出しもされていない、ということに」
シホはその言葉に訝しげな表情を浮かべ……ふらり、とよろめいた。
「おい、シホ!」
慌てて立ち上がったイザークに抱えられ、シホはゆっくりと首を振る。
「……私が、ニコルの元婚約者候補で…アマルフィ家と懇意にしていたから、ですか?」
「わたくしもあの方とは面識がございます。……お優しい方、ですものね。ですからきっと、あなたに危害を加えることを良しとされなかったのではないでしょうか」
「……隊長。ラクス様。私におじさまの…いえ、アマルフィ元議員の護衛を命じては頂けませんか?」
振り返ったシホの言葉に、イザークは息を飲む。
「シホ!それがどれだけ危険なことか理解しているのか?」
ラスティとユーリ・アマルフィの会話はまだ断片的にしか聞いていなかったが、それだけでも察しがついた。
心優しいニコルの父は、土壇場で躊躇ったのだ。
自分たちのしていることに疑問を持ったのかもしれない。
そしておそらく仲間であろう何者かに狙撃された。
すなわちそれは、シホを守っていた誓約が無効となったことを意味するのだ。
「……イザークさんに一任いたします」
はっとイザークがラクスを振り返る。
アイスブルーと薄紫の視線が絡み合い──先に目を逸らしたのはイザークだった。
「シホ・ハーネンフース。銃撃されたユーリ・アマルフィ元最高評議会議員の護衛任務を命じる。これは極秘任務に値するものだ。心してかかれ」
「…はっ!謹んで拝命いたします!」
直立不動で敬礼するシホに、イザークは苦虫を噛んだような表情で頷いた。
「で?こちら側の協力者についてはどうなってるんだ?一通りのレクチャーは終えたけど、本当に接触なんてあるのか?」
「協力者?」
「ああ、イザークは初耳だよな…」
ラスティはラクスに視線を移す。
対してラクスは小さく頷き、再び口を開いた。
「イザークさん。わたくしたちはある方にこの事件の全容をお話いたしました。そして、可能であれば助力をお願いしたい、と」
「協力、とは…」
「詳しくはまだ申し上げられません。ですがこれだけは。その方にも近々黒幕は手を伸ばすはずです。そしてその時には──その方には「囮」になって頂きます」
ラクスを見守っていたキラの心臓がどくり、と音を立てる。
その表情は、かつてエターナルの艦長席で見せていたものと全く同じものだった。
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カガリとラクス、そして地球にいたラスティたちダストコーディネイターの活躍を知るイザークとキラ。
ユーリを慕うシホの気持ちを汲み、断腸の思いで護衛任務を与えたイザークの胸中はいかばかりでしょう。
そして「囮」とは…?
2016,10,28up