69, 明かされた秘密 1

 

 

 

 
「アンジー。どうなってるんだ?」
 
苛立ちを隠せないラスティに、アンジェラはゆっくりと首を振った。
 
「処置室に移動するはずなのに出てこないから、気になって覗いてみたの。そうしたらもう……」
「出口がここ以外にあったっていうのか?」
「病院の構造までは把握仕切れていなかった。私たちのミスね」
 
アンジェラが指差した先には、院内関係者用の通路に続くドアがあった。
「奥にあるロッカールームで研修医の一人が昏倒していたらしいわ。白衣が無くなっていたそうよ」
「てことは…ここからミリアリアは外に連れ出された、ってことだよな…」
黙って連れ出されるような女だろうか?ミリアリアは。
どんなに弱っていても、思考停止まではしていなかったはず。
あれだけ聡明なミリアリアならば、何らかの痕跡を残していくのではないだろうか?
 
 
「ラス。ラクス・クラインに連絡を。すぐに対策を練らないと危険だわ」
 
 
冷静なアンジェラの言葉に、ラスティの脳裏に先程の出来事が蘇った。
 
「アンジー。ユーリ・アマルフィが何者かに狙撃された。この病院に収容されているはずだ」
「……それって、オーブの代表首長の…」
「ああ。とにかくラクス・クラインに指示を仰ごう。場合によってはイザークたちにも全部打ち明けることになるな」
「そうね。とにかくミリアリアさんがどこへ連れ去られたかを確かめなくちゃいけないし、早く動きましょう」
「目星は、ついてる。それも後で説明する」
 
厳しい表情で踵を返すラスティをしばらくじっと見つめた後、アンジェラもまた歩き出した。
 
 
 
***
 
 
 
「これは…シャトルなの?」
 
思わず声を上げたミリアリアに、白衣を羽織っていた男は軽く微笑み頷いた。
「プラント間の航行用に特別に作られた自家用シャトルだ。丁重に扱うように、とあの方からも命令されているのでな」
「あの、方……」
やはり、ミリアリアを誘拐するよう指示したのは黒幕だったのだ。
男の口調からして、先ほど男が口にした“ユーリ様”と“あの方”は別人らしい。
そして、病院に現れた、ということは妊娠の事実も露呈しているということだ。
 
迂闊、だったのだろうか──。
 
そっと下腹部に手を添え、ミリアリアは唇を噛み締めた。
自分一人の体ならなんとでもなる。
だが今自分の体内には、何よりも守らねばならない大切な存在が宿っているのだ。
ディアッカに会いたい。何とかして助けたい。
ただそれだけを願い突発的に行動してしまったことを、ミリアリアは激しく悔いた。
「……っ」
ぐらり、と眩暈に襲われ、ミリアリアは思わずシートにぐったりともたれた。
忘れていた吐き気も戻り、なんとか意識を保つべく深呼吸をする。
そうだ、ラスティとアンジェラは今頃どうしているだろう。
ミリアリアの身に起きた異変に気付いているだろうか?
──それ以前に、この人たちは、ラスティとアンジェラの存在を、知っていたのだろうか?
ぐらぐらとする頭を必死に回転させながら、ミリアリアは男に声をかけた。
 
 
「……どうして、私が病院にいることを?」
「我々も無能ではないのでね。なかなか総領事館から一人で外出することのなかった君がやっと外に出た、と聞いた時には随分と焦ったものだ」
 
 
やはり、ラスティとアンジェラについてはまだ感づかれていないのだ。
気づいていたならこんな行動はとらないだろう。
それならば、まだ希望はある。
微かなものかもしれないけれど──希望は、あるのだ。
そうよ。AAにいた頃に比べたら……まだ、頑張れる。
私には、一番大切なものが、ふたつも出来たのだから。
「ごめんなさい。気分が悪いの」
そう言ってミリアリアは目を閉じる。
男もそれ以上ミリアリアと話をする気は無さそうだった。
少しでも体力を温存しなければ。
もう一度深呼吸をすると、ミリアリアは慈しむように下腹部に手をやり、ただ、祈った。
 
 
 
***
 
 
 
「ミリアリアが攫われただと!?」
 
ラクスの手引きでプラント内にあるとあるホテルの一室に集まったのは、ラスティ、アンジェラ、イザーク、そしてシホだった。
 
「ラスティ、貴様を信じて任せたんだぞ!それがなぜ…」
「隊長、落ち着いてください!」
「イザークさん。お怒りは分かります。ですがまず、わたくしの話を聞いては頂けないでしょうか?」
 
凛としたラクスの声に、イザークはぎり、と歯を食いしばった。
「……失礼致しました。もちろん伺いましょう」
アイスブルーの瞳に宿るのは、燃えるような怒り。
ラクスはそれを正面から受け止め、口を開いた。
 
 
「“あの方”について──わたくしとカガリさんは、およそ一年ほど前からおおよその見当をつけておりました」
 
 
きっぱりと落とされた事実に、誰もが息を飲んだ。
「な…ラクス嬢?」
「ラクス?!」
イザークとキラがほぼ同時に叫ぶ。
 
「ミリアリアさんたちのもとに届けられたメッセージ。あの出来事から今に至るまで、わたくしはバルトフェルド隊長に依頼し、調査を続けておりました。その中で、ごく内密にオーブのカガリさんにも接触し、事情を説明しました」
「カガリに?でも…どうして」
キラも知らされていなかったのだろう。険しい表情で首を傾げた。
「当時は敵の狙いがどこにあるのか計りかねておりましたから。ですので、万が一にもミリアリアさんのご両親に黒幕の手が伸びないように、カガリさんの発案でラスティさんたちに、ミリアリアさんのご両親の護衛を依頼したのですわ」
 
その言葉に、はっとキラが息を飲んだ。
「……ラクス嬢。続きを」
冷静さを取り戻したイザークの声に、ラクスは頷いた。
 
「カガリさん、そしてラスティさんたちの助力もあり、これまでオーブの方で大きな動きはありませんでした。……ディアッカさんがカーペンタリアに降りられるまでは」
「それは…例のバイオテロとセリーヌ・ノイマンの事件について仰っているのですか?」
「はい。あの事件で一気に事態は動き始めました。それまでなりを潜めていた黒幕たちが表立って動き出したのです。わたくしとカガリさんはそれまでに洗い出した人物について、さらに警戒を強めました。そして…バルトフェルド隊長の命令で潜入していた諜報員の方から、情報が寄せられたのです」
 
ラクスは一度言葉を切り、目を伏せたがすぐに顔を上げ、一同を見渡した。
 
 
「前最高評議会議員、ユーリ・アマルフィ様が、マイウスにある自身が所有される研究施設に……ジャンク屋から横流しされたMSを秘密裏に運び込んでいるようだ、と」
 
 
その言葉に、一瞬にしてイザークの表情が蒼白となった。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

一気に明らかとなる黒幕の存在。

 

 

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2016,10,27up