ラスティは自動ドアを蹴破らんばかりの勢いで病院の外に飛び出した。
きょろきょろと周囲を見回すが、人通りも多く目的の人物はなかなか見つけられない。
「偶然にしちゃ…出来すぎだろ」
思わず言葉を漏らしたその時、ラスティの目は、目標を捉えていた。
「おい、ちょっとあんた!」
脱兎のごとく駆け寄り男の肩に手をかける。
──振り返った亜麻色の髪の男は、ラスティの顔を訝しげに見つめ……さぁっと青ざめた。
「……ユーリ・アマルフィ元最高評議会議員ですね?ニコル・アマルフィのお父上の」
「き、みは……いや、そんな…」
「あなたがディアッカを攫った黒幕、ですか?」
単刀直入なラスティの言葉に、亜麻色の髪の男の顔色がさらに青ざめた。
「きみ、は……」
「ラスティ・マッケンジー。ニコルと同じ、クルーゼ隊の一員でした」
「生きて、いたのかね」
「…まぁ、紆余曲折ありまして」
がっちりとユーリの腕を捉えて言葉を交わしながら、ラスティは違和感を感じていた。
自分がMIAとなったのは、ヘリオポリスでのG強奪作戦の時だ。
ニコルが本格的に戦闘に参加し始めたのはそれ以降のはずで、そこにラスティはいなかった。
なのになぜユーリは、よく見知った相手のように自分に接したのだろう?
確かにラスティの父も同じ最高評議会議員ではあったが、アカデミーに入るより前に母と父は離婚し、ラスティは母に着いて行っている。
それ以来父とは疎遠になっていたから、ラスティはユーリと直接の面識などない。
もちろん、報道などでユーリの顔を見たことは何度もあったが、ユーリがラスティの顔を知っているとは思えなかった。
「なんと言うことだ……それでは、ジェレミーの…私たちのしてきたことは…」
ユーリの口から飛び出した名前に、ラスティの表情が変わった。
「ジェレミー、って…ジェレミー・マクスウェル?」
はっと表情を変えたユーリは、うつむき黙り込む。
「あんた、ミリアリアの様子を探りに来たんだろ?それってもしかして──」
ぱぁん
空気を切り裂く乾いた音。
サイレンサーを装着していても、傭兵として生計を立てているラスティの耳にその音はしっかりと届いた。
「ぐ…っ」
小さく上がった声に我に返ると、目の前の体からがくん、と力が抜けるのが分かる。
「な…おい!しっかりしろ!!」
崩れ落ちたのは、ユーリ・アマルフィだった。
「ちくしょう……っ」
じわじわと胸元に広がる赤いシミは、ユーリの血。
致命傷ともなりかねない場所への被弾に、ラスティはとっさの判断で止血処理を施しながら懸命に声をかけ続けた。
と、血の気の引いたユーリの口から小さく言葉が紡がれる。
「彼女、を…どうか…」
「彼女?──ミリアリアのことか?」
うっすらと目を開けたユーリは、僅かな動作で頷く。
「ジェレミー、は……狂って、いる。それに…君が生きていた、なら…ただの、逆恨み…」
「どういう意味だよ?!おい!」
騒ぎを聞きつけ、病院関係者がこちらに走ってくる。
「クインティリス……タッドの息子、そこに…」
「っ、クインティリスに行けばいいんだな?ディアッカはそこにいるんだな?!」
「早く…気がつくべき、だった…彼らはニコルの、大切な友人…だというのに…私は……」
「……もう喋らないでいいから、これだけ聞かせてくれ。ディアッカたちを狙っていた黒幕は…ジェレミー・マクスウェルか?」
真剣な表情のラスティを見上げ──ユーリは目を閉じ、かすかに首を縦に振る。
「彼女を…どうか、守って……子供…」
「っ、おい!しっかりしろって!!」
がくり、とユーリの体から力が抜ける。
「どうされましたか!」
呆然とユーリを見下ろすラスティの耳に、病院関係者の声が届くまでしばらく間があった。
ユーリの言葉と、これまで調べ上げた黒幕の情報、痕跡。
そして、誰にも告げていなかった、カガリ・ユラ・アスハとラクス・クラインからの言葉。
それら全てがラスティの頭の中で組み上がり、一つの形を成していく。
「悪い、発砲事件だ。テロの可能性もある。この人の手当てと、至急ザフト軍に連絡を」
「あの、あなたは…っ!」
「事情聴取なら後でいくらでも応じる!何かあればオーブ総領事館に連絡を!俺はオーブの関係者だ!」
意識のないユーリを託し、ラスティは立ち上がり、病院に向かい全速力で駆け出した。
と、胸元で震える携帯端末に気づき、走りながら通信をつなげる。
「アンジェラ?今そっちに…」
『ラス、早く戻ってきて!ミリアリアさんが病院関係者を装った何者かに連れ去られたわ!』
ぎり、と歯を食いしばり、ラスティは通話を終わらせると走り続けながら、イザークへの直通回線を開いた。
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黒幕の正体を突き止めたラスティ。
裏切りを見抜かれ狙撃されたユーリ。
悪人になりきれなかったユーリの必死な思いは、果たして届くのでしょうか…。
2016,10,15up