「ディアッカ・エルスマン、出る!」
慣れ親しんだGを感じながら宇宙へと飛び出す。
先に出ていたシンのパールホワイトの機体に向かいスラスターを吹かすと、ディアッカは通信を開いた。
「本国からも応援が向かっているらしい。三機のはずだ。」
『はい。…応援出してくれるなら、俺たちいらなかったんじゃないですか?』
「そう言うなって。いいじゃん、その分早く終わらせりゃさ。あっち戻ったらルナマリアに連絡するんだろ?」
『なっ…なんで知ってるんですか?!』
…つくづく嘘がつけない性格だよな、とディアッカは苦笑した。
それだけ自分に心を許してくれているのだろうか、と思うと、なんだかくすぐったい気分だ。
「あ、やっぱり?」
『……っ、真面目にやらないとミリアリアさんに言いつけますよ!』
憤慨したような声に、ディアッカは今度こそ、声を上げて笑った。
「遅い、な…」
計器に目をやり、ディアッカはぽつりと呟いた。
本国から応援の連絡があったのは、MSに搭乗しようとしていたまさにその時で。
カーペンタリアを出ることも突然決まり、ミリアリアにはメールを入れたもののイザークとは話すら出来ていない。
バタバタと準備や引き継ぎ、挨拶に追われ、どうせ後で話せるのだから、と後回しにしてしまったのだが、このような任務があるのならしっかりと話をしておけばよかった。
「シン、母艦に通信を。応援部隊の所属を確認してくれるか?」
『了解です。……あれ?』
「どうした?」
『なんだこれ?ジャミング…?母艦との通信がうまく繋がりません!さっきまでは順調だったのに…』
「何?ちょっと待て、俺も今…」
『隊長!前方にMS確認!これは…アンノウンの表示が!』
「っ!!」
慌ててレーダーを確認すると、さっきまでは確かに何の反応もなかったはずの場所に熱源反応を示すマークが点滅している。
「いつの間に…っ」
ディアッカは周囲を見渡した。
デブリもほとんどなく、障害となるようなものもない。
これだけ見通しがいい場所で、何故気付かなかった?
『反応が消えました!ちくしょう、なんだよこれ!』
シンの声に再度レーダーを確認すると、確かに熱源反応が消えている。
「シン、今の奴らのとの距離はわかるか?」
『距離200!正面であれば目視できる距離です!隊長、これって…』
「悪い、ちょっとだけ考えさせてくれ。警戒を怠るなよ!」
ディアッカは神経を極限まで研ぎ澄ませながら、脳内で情報を整理した。
現行で運用されているMSに搭載されたレーダーなら、200まで近づかれる前に確実に熱源反応を捉えられるはずだ。
かつて駆っていたバスターですらそうだったのだから、技術が飛躍的に進歩した現在ならそれは間違いない。
だが実際、ここまで近づかれるまで熱源反応を探知できなかった。
それが意味するものは、一体──?
「……おい、まさか」
『隊長!また反応が…うわっ!』
「シン!ミラージュコロイドだ!!」
そう、それしか考えられない。
ブリッツに搭載されていたミラージュコロイドシステム。
やつらの機体にはそれが搭載されている。
でなければ、ここまで接近されて気づかないなど、ありえない──!!
整然と組み上がっていく思考の中、ふっと脳裏にニコルの顔が浮かび、ディアッカは息を飲んだ。
ミラージュコロイドを搭載していたのは、ブリッツ。
それに乗っていたのはクルーゼ隊の一員、ニコル・アマルフィ。
マイウスはプラントにおける機械工学の拠点。
その代表は、あのニュートロンジャマーキャンセラーの開発にも携わった、ニコルの父であり工学エンジニアでもあるユーリ・アマルフィ。
クルーゼ隊、マイウス、ニコル、ミラージュコロイド。アンノウンの機体。
ユーリ・アマルフィ。
──まさか。
「うわあぁっ!!」
突然激しい衝撃が走り、ディアッカは声を上げた。
はっとメインカメラに目をやると、そこには濃紺にツインアイのMS。
ずきん、と痛む体に、ディアッカは初めてそこで自分が攻撃を受けたということに気づいた。
生臭い匂いは、頭部の出血か何かのせいだろう。
「ちっ…!させるかよ!…っ!」
すぐに頭を切り替え応戦しようとするも、背後から羽交い締めにされ、さらに衝撃を与えられる。
メインカメラのモニタが砂嵐に変わり、コックピッド内に火花が散る。
『隊長っ!?』
かろうじて生きていたらしいスピーカーから悲痛なシンの声が聞こえ、こみ上げる吐き気を堪えながらディアッカは叫んだ。
「俺に構うな!撃て、シン!」
『そんなの…無茶です!隊長の機体に当たらなくても衝撃だけでどうなるかわかんないじゃないですか!』
そのやりとりが聞こえているのか、ディアッカを羽交い締めにした機体がずず、と後退を始めたのがわかった。
まさか…このままどこかへ機体ごと俺を連れ去るつもりか?!
『隊長!ちくしょう、なんで…』
「撃て、シン!!早くしろ!」
『馬鹿野郎!あんた、何言ってんだよ!ミリアリアさんの所に戻るんでしょ!?』
愛しい妻の名に、ディアッカは歯をくいしばる。
たちまち鉄の味が口の中に広がった。
そう、ミリアリアを置いて、死ぬわけにはいかない。
どこにいても、何があっても必ず戻る、決していなくならないと約束したのだから。
『っ、うわあああ!』
「シン!おい、どうしたシン!?」
爆発音とともにシンの悲鳴がコックピッドの響き渡り、ディアッカは大声をあげた。
だが、再び与えられた激しい衝撃に痛みのあまり息が詰まった。
恐らく肋骨の一つや二つはやられたかもしれない。
「ミリィ…ミリ、アリア…」
激痛に浅い息を吐きながら、ディアッカはぼんやりとしていく意識の中で愛しい妻の名を呼び、目を閉じた。
***
息を切らせてラクスの執務室に現れたイザークは、ちょこんとソファに座るミリアリアの姿を確認すると安心したように大きく息を吐いた。
「イザーク、ごめんね。あの、ラスティたちは…」
「オーブ総領事館に寝泊りすることで話が落ち着いた。案内役としてサイも一緒だ。それよりミリアリア、お前一体どんな病に…」
神妙な口調に珍しくラクスがぷ、と吹き出し、きょとんとするイザークにキラが目で“ごめんね”と合図した。
「あの…イザーク。病気じゃないの。」
「は?病院へ行ったんじゃないのか?」
「それはその通りなんだけど…その、あのね、ええと…妊娠、したらしいの」
「…………は?にん、しん?」
ぽかんとした後、徐々にぱぁっと白い肌が赤く染まっていくイザークを前に、ミリアリアはふわりと笑いながら、こくりと頷く。
その様子にラクスは嬉しそうに微笑みを深め、今度はキラが吹き出した。
「ディアッカはもう知っているのか?」
ラクスから手渡された紅茶に口もつけずそう切り出したイザークに、ミリアリアは微笑みながら首を振った。
「ううん。私だってさっき知ったばっかりだもの。それにディアッカ、今日カーペンタリアを出るらしいし…」
「なに?そんな話は聞いていないが…」
「え?」
ミリアリアは驚いたように目を見開いた。
「イザークさん、わたくしもつい先ほど知らされたのです。任務についても軍の上層部による決定だと…。ご存知、無いのですか?」
「任務?あいつにですか?いや…」
首をかしげるイザークの懐から突如鳴り響いた音に、ミリアリアはびくりと肩を震わせた。
「ちょうどいい、シホからだ。ディアッカの件について確認してみよう。」
すっとイザークが席を立ち、部屋の隅へと移動する。
するとなぜかキラの隣にいたラクスが立ち上がり、ミリアリアの隣へと再び腰を下ろした。
「ラクス?」
「…どうぞお気になさらず、ミリアリアさん。」
微笑みを浮かべたラクスだったが、イザークの方へと視線を向けた時、その表情は少しだけ厳しいものへと変化を遂げていて。
その異変に気付いたキラがラクスの視線を追って振り返った時、イザークの怒声が部屋に響き渡った。
「捕獲されただと!?どういうことだ?」
ラクスがきゅっと眉を顰め、ミリアリアは白くなるほどに小さな拳を握り、イザークを見つめた。
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黒幕の正体にうっすら感づいたものの、抵抗する間もなく捕まってしまうディアッカ。
幸せの絶頂にあるはずのミリアリアの元へと届いた知らせ。
ようやくここまで来て、事態が大きく動き始めました。
それにしても、戦闘シーンがしょぼくてごめんなさい!(滝汗)
2016,7,17up