「おはようございます、ミリアリアさん。」
「お、おはようございます。ダコスタさん。」
指定された時刻ぴったりに玄関の前に立ち、にこやかに挨拶するダコスタに、ミリアリアはやや引きつった笑顔を向けた。
セリーヌ・ノイマンの起こした事件から1ヶ月が過ぎようとしていた。
ディアッカに見送られてAAからクサナギヘ移り、そのままプラントへと戻ったミリアリアはカガリやアスランが出席する慰霊式典の準備を手伝い、忙しく働いた。
事件は公に報道されることはなかったので、慌ただしい中の準備ではあったが式典は無事終了し、カガリたちは地球へと戻っていった。
そして代わりにやってきたのが、今目の前にいる、マーチン・ダコスタであった。
ディアッカが戻るまでの間、ミリアリアにはラスティが護衛として付くはずだったのだが、彼は地球での仕事を先に終わらせるべくディアッカとともに戻っていった。
そして彼の代わりに、とラクスがよこしたのが、ダコスタなのであった。
「あの、ダコスタさん。本当に表で待っていてくださって大丈夫ですから…」
「そういうわけにはいきません。自分はラクス様から正式に護衛任務を与えられていますから。どうぞ自分のことはお気になさらず。」
「はぁ…ありがとうございます。」
オーブ軍属で、なおかつザフトの将校であるディアッカ・エルスマンの妻であっても今まで護衛などされたことがない。
なのでミリアリアはこの状況下で、非常に落ち着かない日々を送っていた。
こう言ってはダコスタにかなり失礼なのだが、ストレスに感じているのかここ数日なんとなく胃が重い気がする。
…やっぱりラクスに相談してみようかしら…。
そんなことを思いながら、ミリアリアはダコスタとともにエアカーに乗り込み、総領事館へと向かった。
一方、ディアッカはカーペンタリア基地の格納庫にいた。
先日の事件の際に現れ、ワクチンの開発を手がけ、そのままベルリンへの復興支援の橋渡し役として協力してくれたロイエンハイムを見送るためだ。
護衛として雇われていたラスティとアンジェラもまた、この時点をもってその任を解かれることとなっていた。
『色々とありがとうございました、ロイエンハイムさん。』
公用語を使わないロイエンハイムに合わせ、ディアッカはドイツ語で謝辞を述べた。
ミリアリアほど堪能ではない為どうしても短い言葉となってしまうが、それでもロイエンハイムは目を細めて微笑んだ。
『君の力になれて、嬉しかったよ。ミリアリアによろしく伝えてくれたまえ。』
『はい、必ず。』
ロイエンハイムは小さく頷くと、カーペンタリア基地の総司令官とも短い挨拶を交わし、用意された小型シャトルに乗り込む。
シャトルが出発し、視界から消えるまでディアッカは美しい敬礼を送り続けていた。
「…で。早速なんだけどさ、ディアッカ。俺たちの入国審査、どうなってる?」
「え?」
カーペンタリア基地に与えられた執務室。
ラスティと、その隣に座るアンジェラと差し向かい、ディアッカは首を傾げた。
「与えられた任務も終わった。お前もそう遠くない未来にプラントへ戻るんだろ?俺たちはそれより先にプラント行くつもりでいる。」
そう、ダストコーディネイターの件についてこの二人を招聘する、と言っても、そう簡単なことではないのだ。
ラスティはプラントにおいて戦死者扱いとなっており、アンジェラに関してはどのような状態かも不明だ。
おそらく死亡届が出されているだろうが、それを本人の目の前で口にすることはあまりにも酷な気がして、ディアッカはしばし考え込んだ。
「すぐにイザークかラクスに確認を取る。まぁ…あいつらのことだし、うまくやると思うぜ?そう時間もかかんねぇだろ。」
「んじゃ、こっちも準備しなきゃだな。アンジェラ、どうする?」
「私はそれほど荷物もないし、とりあえずのお金と着替えくらいでいいわ。それより、プラントに着いてからの動向を確認したいのだけれど。」
ラスティはともかく、アンジェラは色違いの瞳の件もある。何かしらの対策を取らなければならないだろう。
「わかった。それも含め、本国と話をつける。それまで宿舎で待機しててくれるか?」
「りょーかい。あ、ミリアリアにも連絡しといてやりなよ。ロイエンハイムさんのこととかさ。」
「わかってるっつーの。シン、とりあえずラスティたちに入国用の書類、準備してくれるか?」
「了解です。ではラスティさん、アンジェラさん。こちらへ。」
シンに促され、二人は立ち上がると部屋を後にした。
***
『入国審査か…そうだったな。早速ラクス嬢に話をしておこう。』
「サンキュ。忙しいとこ悪いな、イザーク。」
『ふん。このくらいどうってことはない。式典も終わって落ち着いたところだ。』
つん、と顎をそらすイザークの姿にディアッカは思わず破顔した。
昔からこういうところは、本当に変わっていない。
赤から白へと軍服の色が変わり、昔のように癇癪を起こすことは格段に減ったが、その分様々な感情を内に溜め込む事を覚えてしまった親友を、ディアッカは頼もしいと思う反面、少しだけ心配もしていた。
それでも、シホと言うかけがえのない存在を見つけ、イザークはまた雰囲気が変わったように思う。
『隊長。ラクス様がお見えです。どうされますか?』
モニタの外から聞こえたシホの声に、ディアッカは目を丸くした。
「珍しいじゃん。ラクスから来るなんて。」
『ん?ああ…クライン派もあれだけ数が増えると一枚岩とは限らない。だから大事な話がある時にはここへ足を運ばれるようになったんだ。バルトフェルド隊長の提案でな。』
イザークはシホにラクスへの対応を命じ、「悪い、ちょっと待っていてくれ」とモニタの前から姿を消す。
ほどなくして現れた人物に、ディアッカは驚きの表情を浮かべた。
『こんにちは、ディアッカさん。』
それは、今しがた話題にしていたラクス・クライン本人、であった。
『…分かりましたわ。お二人の入国については、カガリさんにもお願いして協力を仰ぎましょう。オーブ側からの客人ということにすれば、様々なことに対するハードルが下がります。』
「ああ、それでいいと思うぜ。ラスティもアンジェラも、それぞれ複雑な事情を抱えてるしな。特にアンジェラは容姿の問題もある。すまないが、慎重な対応を願いたい。」
『もちろんですわ。早ければ明日にでも渡航可能なように手配いたします。お二人にもそのようにお伝えくださいな。』
イザークの椅子にちょこんと腰掛けたラクスは笑顔で頷いた。
プラントきってのアイドルと呼ばれ、普段からおっとりしているラクスだが、こういったことに対する配慮や対応はとても素早い。
脇を固めるバルトフェルドやダコスタが有能なことももちろんだが、これもまた彼女の本来の姿なのだろう。
『ところでディアッカさん。もう少しお時間はございますか?』
「え?あ、ああ。今日はもう急ぎの任務はねぇけど…」
唐突な問いかけに驚くディアッカをしっかりと見つめ、ラクスの表情がす、と真剣なものに変わった。
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ダコスタさんはかつてお父様に撃たれ拘束されたアスランを救出したりもしていましたよね。
(てか、中の方はディアッカと同じ…!声優さんって本当にすごいです)
なので、諜報員や護衛にも長けていると勝手に妄想し、今回ミリアリアの護衛をして頂きました。
にしてもダコスタさん、仕事が丁寧…(笑)
2016,5,13up