63, 前を向いて 3

 

 

 

 
『ディアッカさん、お忙しい所申し訳ありません。』
 
 
モニタの向こうでピンク色の髪を揺らしながらふわりと微笑むのは、ラクス・クライン。
隣には柔らかく微笑むキラが立っていた。
 
「いや。こちらこそなかなか連絡出来ずすまなかった。…今回の件、改めて礼を言う、ラクス。ありがとう。」
『やはりそう呼んで頂く方が居心地がよろしいですわ。こちらこそ、大変な中カガリさんとミリアリアさんの救出、ありがとうございました。』
 
先日までラクスに対し一応の敬称を付けて呼んでいたディアッカだったが、本人の希望により今は以前より親しみのある呼び方に変わっていた。
これもまた薄い壁、と言うものだったのかもしれない。
ラクスは確かに今やプラントにおいて絶対的とも言っていい象徴のようなものだ。
イザークはずっと昔からラクスに対し敬意に近い念を抱いていており、現在に至るまでそれは変わっていないようだったが、ディアッカは少し違った立ち位置でラクスと関わっていた。
ーーこれが、自然な姿なのかもしれないな。
よく考えればミリアリアはラクスの事もカガリの事も名前で呼んでいる。
立場は天と地程違うにも関わらず、だ。
同性だからなのか、と対して深く考えもしていなかったが、それは彼女達の間にある信頼関係がそうさせているのだ、とディアッカは改めて感じた。
 
「いや。こっちこそ便宜を図ってくれて助かった。ところで、その…ミリアリアの様子は?」
 
躊躇いがちな問いかけに、ラクスはくすりと微笑んだ。
 
 
『ご安心下さい。ミリアリアさんもクサナギも無事こちらに戻られましたわ。今頃は領事館で事後処理に追われていらっしゃると思います。』
「な…あいつ仕事してんのかよ?!」
 
 
あれだけ休めと言ったはずなのに、とディアッカは眉間に皺を寄せた。
 
『そんなに怖い顔しないでよ、ディアッカ。ミリィの性格、分かってるでしょ?』
「う…まぁ、そうだけどさ…」
 
キラの穏やかな声に、ディアッカは渋々溜飲を下げる。
確かに、サイとアマギだけ働いている中、自分だけ休みます、などとミリアリアが言うわけがない事くらいディアッカにも分かっていた。
だが護衛の話も立ち消え、ただでさえミリアリアは身辺に注意をしなければならないのに!
と、ディアッカは肝心の用件を思い出し、思わず身を乗り出した。
 
「ラクス、そっちで何かあったのか?」
『はい?…いいえ、なにもありませんわ。』
「そ、か。じゃあなんで…」
『ラクス、ディアッカに伝えなきゃいけない事があるでしょ』
 
キラから促され、ラクスはそうでしたわ、と手を叩きモニタ越しにディアッカへと向き直った。
『余計な話をしてしまいましたわ。今回は、ディアッカさんが戻るまでのミリアリアさんの護衛の件でご連絡いたしました。』
「…ああ、俺もその話がしたいと思ってたんだ。ラスティはこっちに戻って来ちまったし…」
『はい。残念ですが仕方の無い事ですわ。それで、わたくしの方でも考えまして、最適と思われる方を見つけましたの。』
「最適?」
ディアッカは首を捻った。
最適、と聞いて思い浮かぶのはイザークかシホだったが、彼らは別の仕事がある。
では一体、誰がミリアリアの護衛を務めるのだろう?
 
 
『バルトフェルド隊長ともご相談しまして…ダコスタさんに、ミリアリアさんの護衛をお願いする事にいたしました。』
 
 
にっこりと微笑みながら宣言されたその内容にディアッカは絶句し、あとから追いついて後ろに控えていたシンはきょとん、とした顔になった。
 
「な、え、ダコスタ?!」
「はい。彼は先の大戦から諜報員としてもご活躍されておりますし、実力もございます。そこはバルトフェルド隊長のお墨付きですわ。ディアッカさんも、全く知らない方よりも面識のある方のほうが安心出来ますでしょう?」
「いや、そりゃそうだけど…ダコスタかよ…」
 
マーチン・ダコスタはかつてディアッカがイザークとともに身を寄せたバルトフェルドの隊の副官だ。
エリート意識の強かった当時のディアッカは、このダコスタと言う男が少しばかり苦手であった。
慣れない地球での戦いでの無様な戦果を見られているせいもあるのかもしれない。
そのせいで、現在においても、たまに顔を合わす事はあるが挨拶程度の接触しかしていない。
ダコスタは現在もバルトフェルド隊の副官を務めている為、共に出動する時などは彼から連絡が来る。
しかしそれについては、イザークやシホが主に対応していた。
さりげなく接触を避けるディアッカの心中に、二人も気づいていたのかもしれない。
 
 
『何か問題でも?』
 
 
きょとん、とした表情で首を傾げるラクスに、ディアッカは慌てて首を振った。
「いや、何も。だけど…いいのかよ?あいつだって一応副官の職に就いてるんだろ?」
『バルトフェルドさんがいいって言うんだから、いいんじゃない?』
どこか愉快そうな表情のキラを、ディアッカは軽く睨んでおいた。
おっとりしているようで鋭いキラは、きっとディアッカのこの感情に気付いているのだろう。
プラントに戻ったら、一度こいつとも話をしねーとな…。
そんな事を考えていると、ラクスが口を開いた。
 
 
『ところで。ダストコーディネイターの件、ご苦労様でした。地球からいらっしゃるのはお二方、で宜しかったでしょうか?』
「ああ。今やってる仕事が終わり次第プラントに向かうそうだ。俺の帰還とどっちが早いか、ってとこだな。」
『復興支援の方も、色々とお話が進んでいますのね。イザークさんのおっしゃる通り、ディアッカさんは有能でいらっしゃいますのね。』
「お褒めに預かりどうも。ていうか、イザーク…?」
『はい。あいつならどちらの任務も必ずやり遂げる、と太鼓判を頂きましたわ。』
 
 
イザークが、そんな事を?
ディアッカは一瞬絶句したあと、少しだけ頬が紅潮するのを感じながらも、何気なく会話を再開させた。
 
「まぁ…なるべく早いとここっちも片づけて帰還したいんだけどな。」
『そうですわね…。まだ黒幕について分からない事もございますし、何よりミリアリアさんの身がご心配でしょう。
何かございましたらダコスタさんもバルトフェルド隊長もすぐに動いて下さいます。もちろん、イザークさん達も。
ですからディアッカさんはどうかご自分の任務を全うされて下さい。』
「ああ。そのつもりだ。せいぜい仕事に没頭するさ。…ラクス、キラ。ミリアリアを頼む。ダコスタにもそのように伝えてくれ。」
『わかりましたわ。必ず伝えます。』
『ディアッカも気をつけてよね?あんまり焦ると良くないよ?…アスカくん、ディアッカを頼むね。』
 
突然キラから名を呼ばれ、シンはびくん、と肩を震わせた。
かつて散々刃を交えた、フリーダムのパイロット。
だが、モニタに映るキラはかつてオーブで出会った時と同じ、優しい目をしていた。
 
 
「……はい。自分はエルスマン隊長の副官ですから。出来る限りの手伝いはさせてもらいます。」
『…うん。そうだよね。ありがとう。』
 
 
まっすぐモニタを見つめそう答えるシンに、キラは柔らかく微笑んだ。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

キラとシンの会話って、難しくてなかなか書けなかったりしています。
この二人の関係性も、とっても微妙なものですよね。
キラが内包する繊細さは未だ健在だと思うのです。
一方、これまで二度目の大戦を引きずって来たものの、少しずつ変わって来ているシン。
二人の触れ合いを今後もどこかで書いて行ければと思います。

そして、Happy birthday to Dearka!!!(お祝い小噺は遅刻しますがアップします;;)

 

 

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2016,3,29up