「お、ディアッカ。早かったじゃん?」
白衣で急がしそうに動き回るロイエンハイムのスタッフの中に佇むラスティを見つけ、ディアッカは大股でそちらへ歩み寄った。
「ろくに話も出来なくて悪かった。ロイエンハイムさんは?」
「そんなの気にするなって。ほら、あっち見てみ?」
ラスティが指差した先をディアッカは振り返りーー紫の瞳を大きく見開いた。
ベッドに腰掛け、ロイエンハイムに脈を測ってもらっているのは、カーペンタリアを発つ前にやっと意識を取り戻した、リアンと言う兵士だった。
「リアン…?」
ディアッカの口から驚きの声が零れる。
ベルリンでシンとやり合った、赤服の駐屯兵。
感染者の中でも重篤な症状で、ここを出るときようやく意識が戻った所だった。
リアンが気配に気付いたのか顔を上げ、ディアッカとシンの姿を目にとめる。
そして、ロイエンハイムと何か会話を交わすと、リアンはディアッカ達に向かい、にっこりと笑顔を見せた。
そして周囲で休んでいた兵士達に声をかけたのだろう。わらわらと起き上がり一斉にこちらを振り返る兵士達の姿を、ディアッカは信じられない思いでただ眺めていた。
「軍人だけあって、やっぱり回復も早いんだよな。ま、それもコーディネイトの成果のひとつなんだけどさ。」
のほほんとしながらも、ラスティの声にはどこか温かみがあって。
「ほら、中に入ってやれよ。ロイエンハイムさんが待ってる。」
「え?あ、ああ。」
ぎこちなく頷いたディアッカは、ごくりと唾を飲み込むとシンに目配せをし、隔離された部屋へのドアをくぐった。
「隊長、おかえりなさい!」
「エルスマン隊長、よくぞご無事で!」
次々とそう口にし、さっと敬礼を送る隊員達をディアッカはぐるりと見回しーーーふわりと嬉しそうに、笑った。
ディアッカのこのような笑顔を見たことがあるのは、もしかしたらミリアリアやイザークだけかもしれない。
それほどに嬉しそうな、優しい笑顔だった。
そんなディアッカを眺めながら、シンもまた微笑んだ。
「みんな、治療の途中で抜けてすまなかった。…辛かったと思うが、よく耐えてくれた。礼を言う。ありがとう。」
優雅な敬礼を返した後、ディアッカは真摯な表情になり隊員達に頭を下げる。
「やめて下さい、隊長!」
「そうですよ!隊長やここにいる医療班の方々がどれだけ俺たちの為に頑張ってくれていたか、みんな分かってます!」
途端にベッドの上でがやがやとざわめく隊員達に、今度はロイエンハイムが苦笑する。
そしてつかつかとディアッカの前までやってくると、ぽん、と肩を叩いた。
「顔を上げたまえ。君の頑張りは彼らが一番良く知っている。彼らは君を誰よりも信頼して、先の見えない治療にも耐えたのだからな。」
ディアッカはロイエンハイムの言葉に顔を上げると、少しだけ照れくさそうに微笑んだ。
「…いえ。俺だけじゃありません。あなた方の…そして父の助けが無ければ、ここまで早い回復は叶わなかったと思います。
本当に、ありがとうございました、ロイエンハイムさん。」
ロイエンハイムは安心したように頷いた。
「きっかけをくれたのは君の奥方だよ。ところで…その奥方とは無事に再会出来たかね?」
「はい。短い時間でしたが、色々と話も出来ました。」
「あ、だから隊長そんなに顔色がいいんですか?ザフトきっての愛妻家って評判、ほんとだったんですね!」
「なっ…おい!」
どこからともなく飛ぶ野次に、ディアッカはぎょっとした表情になる。
そしてその背後で、シンがたまりかねたように噴き出した。
「いい部下を持ったな、ディアッカくん。」
笑いを堪えながらかけられた温かい言葉に、ディアッカもまた苦笑しながら「はい。」と頷いた。
ひとしきり回復した隊員たちと話をした後、ディアッカとシンは場所を変え、ロイエンハイムと今後についての打ち合わせをする事になった。
30分後に隊長室で、と約束を交わし、ディアッカはシンとともに隔離棟を後にした。
「隊長が発ってから、あいつらどんどん回復したんです。一昼夜しないであんなに元気になって、俺もびっくりしました。」
「ああ、マジで安心した。やっぱ本職はすげぇよな。ロイエンハイムさんも親父も、あの医療チームもさ。」
「それに。みんな隊長の事心配してたんですよ?あんなに隔離棟に詰めっぱなしで、ちゃんと休めてたのか?ってみんなから聞かれました。」
シンの言葉に、ディアッカは胸が熱くなった。
そして、自分を信じて辛い治療に耐えてくれた隊員達に感謝しなければいけないのは自分の方だ、と思った。
ミリアリアと、話したいーー。
不意に沸き上った思いに、ディアッカは苦笑する。
嬉しかった事を聞いてもらいたい、だなんてまるで子供のようだ。
そして、それだけ自分は、ミリアリアと言う存在に支えられているのだ、と実感した。
と、シンの携帯端末に通信を知らせるアラートが入った。
「ーーーっ、隊長、本国から通信です。ラクス、様から…です!」
ディアッカははっと顔を上げた。
まさか、また何かあったのか?
「シン、先に行く。」
ディアッカはそれだけ言い残し、シンの返事を待たず駆け出した。
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突然の、ラクスからの通信。
2016,3,28up