カーペンタリアに戻ったディアッカを出迎えたのは、基地の司令官だった。
居住まいを正し、ディアッカは優雅な敬礼を送る。
「エルスマン隊、ディアッカ・エルスマン、ただいま帰投いたしました!」
「うむ。無事で何よりだ。」
「ありがとうございます。早速ですが、今回の件の報告が済み次第、隔離棟へ向かってもよろしいですか?」
「あ、ああ。もちろんだ。報告はジュール隊長からあらかた受けている。なんならすぐに隔離棟へ向かっても構わん。」
「はっ、ありがとうございます!」
背筋を伸ばして敬礼を送るディアッカに倣ってシンもまた美しい敬礼を送り、そのまま二人は隔離棟へと向かった。
「ああ、今戻った。大変な時にすまなかったな。ロイエンハイムさんは?…そうか、今そっちに向かってる。それで…」
携帯端末でてきぱきと必要な情報を聞き出し、脳内で整理しているであろうディアッカを、シンはそっと眺めた。
ミリアリアとはあの後きちんと話が出来たのだろうか。
ディアッカはコペルニクスからボルテールに移動してすぐにラスティを別室に下がらせ、いくつかの指示をシンや周りの兵士達に出しながらカーペンタリアに降り立った。
例え無事だったとは言え、ミリアリアの事が心配でないはずがないだろうに、その切り替えの早さにシンはディアッカの軍人としての有能さを改めて垣間見た気がした。
そして、かつての自分ーーオーブと言う国とアスハ家をただ憎み、自分の意志を持ったつもりで他者に動かされ、道に迷ったようになっていた自分を情けなく思った。
まだ、自分には出来る事がある。
カーペンタリアと言う地でディアッカと共に任務をこなし、シンは少しずつ前を向き、自信を取り戻して行った。
新しい出会いや発見。
過去の自分と向き合ったこと。
ずっと避けて来たルナマリアとの再会。
それでもまだ、自分には未熟な所がたくさんある。
何が正しいか、何が最善か。何より、自分の意志はどこにあるのか。
正しさだけが全てではない。自分で考え、決断することの大切さ。
二度目の大戦以降、自分が自分の考えで何かを決断すると言う事にひどく怯えている事を、シンは自覚していた。
だが、シンの事を見て、シンを頼って声をかけてくれる者もいる。
無理をする必要は無いけれど、自分が心を閉ざさなければこうして新しい何かに出会え、様々な価値観に触れられる。
そして、先を歩くディアッカの背中を追いかけながら、シンは痛切にこう感じていた。
ーー俺は、厄介者なんかに、なりたくない。なっちゃいけない。
自分を副官として頼ってくれるディアッカ。パーソナルカラーの機体を自分に与えてくれたジュール隊長。
もう一度関係を築き直したいと言ってくれたメイリン。トダカの件以来自分を気遣い何度も通信をよこすルナマリア。
そしてナチュラルとは思えない頭の回転の速さと洞察力で、優しく自分を励ましてくれたミリアリア。
シンはその全てに感謝し、前を見る。
それはかつて巧妙にシンを操っていたデュランダル議長の呪縛から、シンが解き放たれつつある事を示していた。
「ああ、そうだ。シン。」
「っ、はい!?」
上ずった声で返事をするシンをディアッカは不思議そうな顔で眺め、にやりと笑った。
「この後時間空いた時でいいから、コペルニクスに通信しとけよ?」
「は?コペルニクス、でありますか?」
「そ。……心配してたぜ?ルナマリア・ホーク。」
「なっ…!!」
途端に顔を真っ赤にするシンの姿に、ディアッカはくすりと笑った。
「お前のおかげで、ミリアリアと腹を割って話が出来た。サンキュ。背中、押してくれてさ。」
それではやはり、二人はちゃんと話し合う事が出来たのだ。
シンはまだ熱の冷めない頬を意識しながらも、ぎこちなく首を振った。
「べ、つに。自分は思った事をそのまま進言しただけです。」
「それでもさ。感謝してる。…お前ほんと、変わったよな。ジュール隊に配属されて来た頃とはまるで違うもんな。」
「……まぁ、いい上官に恵まれたもので。」
なんとか反撃の言葉を口にするシンに、ディアッカは思わず噴き出した。
そしてついつい苛めたくなり、意地悪な言葉を投げかける。
「ふーん。それって俺?それともイザーク?シホ?」
「っ…!」
焦って目を白黒させるシンに意地の悪い笑みを投げかけ、ディアッカはくるりと背を向け歩き出す。
「冗談だっつの。…で、隔離棟の様子、どうだ?」
今までと違う声色に、立ち止まってしまっていたシンは急いで思考を元に戻すとディアッカの後を追いかける。
「ご自分の目で確かめてみて下さい。ロイエンハイムさんもそう仰ってました。」
「自分の目で?…そりゃかまわねぇけど、まず防護服に…」
「必要ありません」
「は?」
きっぱりとしたシンの声に、思わずディアッカは振り返った。
「開発されたワクチンは、カーペンタリアの駐屯兵全員接種済みです。隔離棟の方も、ロイエンハイムさんの指示で除去作業が済んでいるので、ウィルスの駆除は完了しているとの事です。」
「…よし、急ぐぞ、シン。」
ディアッカは再び前を向き、隔離棟へと急ぎ足で向かった。
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再びカーペンタリアに戻ったディアッカ。
それを出迎えたシンもまた、少しずつ成長しています。
2016,3,27up