ディアッカが腕時計に目をやると、時刻は午前10時になろうとしていた。
そういえば、イザークやアスラン達はどうしているのだろう?
ひとまず状況を整理すべく、ディアッカはラスティに向き直った。
「とりあえず、お前を見つけてプラントへの招聘を決めた事で、俺の任務はひとつ終了した。細かい段取りはこれからだろうけど…ラスティ、イザークと話は?」
「ああ、したぜ?とりあえず俺はロイエンハイム氏の護衛に戻る。ワクチンの量産化が決まれば氏はカーペンタリアを離れるから、護衛が済み次第、俺とアンジェラはプラントへ向かう事になってる。」
「アンジェラ…さん?」
首を傾げるミリアリアに、ラスティははっとした表情になると慌てて懐から何かを取り出す。
「やべぇ、忘れるとこだった。ミリアリア、これ。」
「え?私に?」
不思議そうな顔でミリアリアが受け取ったものはーー昨日カーペンタリアを出る際、ラスティがアンジェラから受け取っていた白い封筒だった。
「中身…出してみてもいい?」
「もちろん。」
ミリアリアがそっと封を開き、中身を取り出す一連の動作をディアッカもまたじっと見つめる。
「……ディスク?」
ミリアリアの小さな手には、一枚のディスクが握られていた。
「ザイルさんから、ミリアリアにって預かったんだ。」
「っ、ザイルさんから!?」
思いもかけないラスティの言葉に、ミリアリアだけでなくディアッカも驚き、弾かれたように顔を上げた。
「出来れば一緒に見てやれ、って言われたんだけど、俺もそこまで空気読めない真似したくないし。な、ディアッカ?」
「なっ…」
いきなり話を振られ、ディアッカは言葉に詰まる。
「んじゃ、俺ブリッジにいるわ。アンジーに定期連絡しねーとどやされるし。」
「…いや、でもお前…いいのかよ?ザイルさんがせっかく…」
「気遣いは嬉しいけどさ。誰だってすすんでお邪魔虫になりたくないっしょ?」
「な、邪魔だなんて、そんなことないわよ!ね?ディアッカ?」
慌てふためくミリアリアと戸惑い顔のディアッカに、ラスティはにやりと笑った。
「んじゃ妥協案。ディスクの中身見終わったら教えてくんない?そん時、聞きたい事とかあれば答えるから。アンジーに連絡しなきゃいけないのはマジなんだ。何もないとは思うけど、依頼主の状況も聞いとかねーとな。」
「う、うん…分かったわ。ディアッカもそれでいい?」
「ああ。じゃラスティ…」
「ゆっくり何度でも見てみて。そんな長い内容じゃないはずだから。じゃ、またあとで。」
しゅん、という空気音を残し、ラスティが出て行く。
残されたミリアリアとディアッカは思わず顔を見合わせた。
「ゆっくり何度でも、って…どういう意味かしら?」
「ん…まぁ、とにかく見てみようぜ?ていうか、俺、見てもいいのか?」
スカンジナビアのコミュニティのトップであるザイルがミリアリアに宛てたディスク。
中身がどんなものであるかなどディアッカには想像もつかないが、やはりミリアリア本人の許可も得ずにそれを見る事は躊躇われた。
「うん。ザイルさんが何をラスティに託したのかは分からないけど…。一緒に見て欲しい。いい、かな?」
「もちろんかまわねぇぜ。お前がいいなら、だけど。」
「いいわよ。あなたに隠すような事なんて何も無いし。」
そう言ってミリアリアは小さなモニタを引っ張り出し、備え付けのデッキにディスクをセットする。
てきぱきとデッキを操作する小さな背中を眺めながら、ディアッカはそっと胸に手をあてた。
“あなたに隠すような事なんて何もない”
その言葉がやけに胸に響くのは、それがミリアリアの口から出たものだからだろうか。
「…なんだか、荒い映像ね。これ、どこかしら…」
はっと我に返ると、モニタには自然豊かな風景が映し出されていた。
ディアッカはその景色をどこかで見たことがある、と感じ…すぐにそれがどこだか思い出し、つい声を上げた。
「これ…スカンジナビアだ。俺がシンと交渉に行った、スカンジナビアのコミュニティだぜ、ここ。」
「え?そうなの?」
目を丸くしながらも映像に魅入っていたミリアリアの体が、不意に大きくびくん!と揺れた。
「…う、そ…」
呆然とした声に、ディアッカは訝しげにモニタとミリアリアを交互に見やった。
モニタにはーーちぎれんばかりに尻尾を振る、一匹の犬が映し出されていた。
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余談になりますが、菫は動物が大好きです。
なので、サチについてはどこかでちゃんと書きたいと思っておりました。
あと一話、どうかお付合い下さい。
2016,2,4up