「地球へ?」
イザークが驚いたように言った。
マリューやラクス達は一足先にブリッジにもどり、ここには元クルーゼ隊とミリアリアのみが残された。
ディアッカはミリアリアの右隣に陣取り、ぴったりと体を寄せていた。
その他の椅子にイザーク、アスラン、ラスティが座っている。
「ああ。テロリストの移送、オーブ軍だけじゃ不安だしな。
護衛の仕事はここまで。キサカさんと交代して、俺は護送艦と地球に戻るよ。」
「しかし…!」
情に厚いイザークは、なかなか納得できないのだろう。
「言っただろ?まだ家族とか思い出せないって。
今俺が思い出してるのは、アカデミーのこと、お前達とクルーゼ隊にいたこと、ヘリオポリスに降下したこと、Gの格納庫で撃たれたこと、それだけだ。」
「…これから、どうするんだ?」
ディアッカのそんな問いに、ラスティは愉快そうに微笑んだ。
「今までと変わんねぇよ。地球で傭兵やりながら生きてく。
俺は、地球で目が覚めた時に生まれ変わったんだ。
記憶がないのも、生まれ変わったから当たり前。
そう思って、ここまで来たんだ。」
「…そ、か。」
それが、ラスティの導き出した答えなら。
ディアッカはそれ以上何もいうまいと思った。
「ラス、今どこで暮らしてるの?コミュニティは、もう…」
ミリアリアが心配そうに尋ねる。
「ダストコーディネイターのコミュニティはあそこだけじゃないぜ?まぁ、それだけ捨てられた存在が多くいるってことで、複雑な話だけどな。」
そう言って、ラスティはイザークに顔を向けた。
「イザーク、プラント戻るんだろ?ディアッカも。」
「あ、ああ。もちろんそうだが…」
突然の話題に、イザークも目を白黒させる。
と、ラスティの顔から笑顔が消えた。
「向こうで偉くなったらさ、ダストコーディネイターの事を世間に公表して欲しい。」
イザークが目を見開き、ミリアリアが息を飲んで顔を上げた。
「ミリアリアが取材した内容が握りつぶされた事は姫様に聞いた。ミリアリアがテロのショックで病んだことも。
それだけ、ダストコーディネイターの現状は酷かったんだ。」
ディアッカが、かすかに震えるミリアリアに気付きそっと手を握る。
ミリアリアはその手を見て、安心したようにそっと微笑んだ。
「だが、この事はコーディネイターなら知っておかなければいけないことだ。
コーディネイターの未来のためにも。だから頼む。イザーク。」
そうしてラスティは頭を下げた。
「…やめろ、ラスティ。」
イザークの声が部屋に響く。
「承知した。俺は必ず、プラントを動かす立場になってみせる。そして、ダストコーディネイターの件は、大々的に問題提起させてもらう。
その代わり…その時はお前もプラントに来い、ラスティ。」
ラスティは顔を上げる。
「交渉なんて、出来たんだ。お前。」
「…普段はディアッカに任せているだけだ!」
ミリアリアは思わずくすりと笑う。
「そうがなるなよ。…分かった。必ずその時はプラントに行く。
そしてその時記憶がどうであろうと、家族にも連絡を取るよ。約束する。」
ラスティはそう言うとミリアリアに声をかけた。
「取材したデータ、まだあるだろ?」
「もちろん。ロックもキラに頼んで厳重にしてあるし、もしもの時のコピーもバッチリよ。」
「さすが。ディアッカもすげぇオンナを捕まえたもんだよな。」
「手離すつもりはねぇからな。狙うなよ。」
次の瞬間、「バカっ!」と隣の“すげぇオンナ”から怒鳴られるディアッカを見て、ラスティはひとしきり笑ったのだった。
「ではラスティ、テロリストの護送、よろしく頼む。」
「了解致しました、姫君もお気をつけて。」
2時間後。
ブリッジに集合した面々は場所を格納庫に移し、ラスティは護送艦に同乗して地球へ戻るところだった。
「ラス、気をつけて。」
ミリアリアはそれだけ言うと、泣きそうな顔でラスティを見つめた。
「ミリアリアもな。」
ラスティはにこりと微笑む。
アスラン、イザーク、ディアッカも見送りに来ていたが、あまりにもあっさりした別離に言葉が出ず、黙ってその場に控えていた。
「では、出立してくれ。」
カガリの言葉に、ラスティはふわりと身を翻してシャトルの搭乗口に向かう。
「…ラスティ!」
アスランがラスティを呼んだ。
搭乗口に辿り着いたラスティは、くるりとこちらを振り返る。
その顔は、ひどく真剣で。
ミリアリアの知らないラスティが、そこにいた。
「…お前たち、死ぬなよ。ミゲルとニコルの分も、生きろ。必ず生き抜け。」
そう言って、右手を上げ。ザフト式の敬礼を、した。
「あいつ…ニコル達の事…」
ディアッカが小声で一人呟く。
そして、アスランが、イザークが、ディアッカが。
ラスティに応えるように、敬礼を返した。
その姿に、いつものようににこりと微笑み。
ラスティの姿は扉の向こうに消え、シャトルはAAから飛び立って行ったのだった。
![]()
彼らにしか分からない想いが、きっとあるはずと思って書きました。
2014,6,11up