I’ll never forget you,but… 3 -いるはずのない人-

 

 

 

 
エターナルで重ねられた協議の結果、AAは艦隊修理の為プラントへの入港が決まった。
これには賛否両論あったようだが、やはり宇宙空間にある要塞よりもきちんとした宇宙港の方が作業も捗るという判断であろう。
ミリアリア達クルーは一旦AAから降ろされ、なんとザフト軍本部内にある宿舎を仮の宿として提供された。
停戦、そしてAAの入港によって反ナチュラル派の動きが活発化しているであろう今、より安全が確保出来る場所を用意すべき、と言うラクス・クラインの一言によって決定されたらしい。
つい最近まで敵陣だったザフト軍本部内であれば、少なからずナチュラルを敵視する人々もいるのではないか、とミリアリアは思ったものだが、マリューは困ったように微笑み、ラクスの考えを教えてくれた。
 
 
「ラクスさんの指示で、宿舎にはジュール隊やクライン派を中心とした護衛の兵士達を常駐させてくれるそうよ。
宇宙港やプラントの街中では、いざという時の対応が難しい場合もあるでしょう?特に街中なんて、むやみに発砲して一般市民が巻き添えになったらそれこそ大問題だわ。」
「それならばいっそ、軍本部に、って事ですか?」
「ええ。AAにはプラントの整備士達も多く出入りする事になるし、チェックも甘くなる。結局一番目が届きやすいのがここなのかもしれないわね。」
 
 
ナチュラルである自分達は、プラントにおいてやはり異質な存在だ。
移動ひとつとっても危険が伴うであろう事は、ミリアリアにも想像がついた。
 
「ここでだって、仕事が無いわけじゃないわよ?特にミリアリアさん、宇宙空間と違ってここはしっかり通信も繋がるし、本来の仕事も捗るんじゃない?」
 
そう言って悪戯っぽくウインクをするマリューは、艦長席に座っている時より少しだけ幼くて、そしてやはり綺麗で。
無くしていた記憶とともに戻って来た最愛の恋人の存在も、その美しさに一役買っているのだろうな、とミリアリアは思い、自分はどうだろう、と同じ施設内にいるはずの恋人に思いを馳せた。
 
 
 
 
「ミリィ、ディアッカが来るって。それまでゆっくりしてたら?宿舎に戻ったらまた仕事するんでしょ?」
 
 
呆れまじりの苦笑を浮かべたキラに、ミリアリアは苦笑いで頷いた。
 
「フリーのジャーナリスト、なんて聞こえはいいけど…今こんな時期だから需要があるのよね、きっと。
プラントにいるなんて知れたら大変な事になるわ、きっと。」
「え、ミリィ言ってないの?」
「言うわけないじゃない!そもそもAAに乗艦してた事すら言ってないわ。ターミナルを通せばやり取りは可能だし。」
「でも、ラクスの独占インタビューなんて送ったら、思いっきり居場所ばれちゃうでしょ?」
「今日のインタビューはまだ送らないわ。この時期に発信しても混乱を招くだけだし。今回まとめた記事は、私なりの観点から見た戦争のあり方…ってとこかしら。」
「ミリィの記事は簡潔だけど伝えたい事をしっかり表現出来ていて分かりやすいよね。すごいと思う。」
「ふふ、ありがとう。昔、散々誰かさんのレポート代筆してたおかげかしら?」
「まぁ、キラはミリアリアさんに宿題をやらせていたんですの?」
「ちょ、ラクス!人聞き悪いよ!」
「あら、今からサイにメールして聞いてみてもいいのよ?」
「ミリィ!もう!僕に文才が無いの知ってるでしょ?!」
 
お茶を運んで来たラクスが興味津々と言った様子で話に加わり、キラは柄にも無く慌てふためいていて。
こんなに穏やかで楽しい時間は久し振りだな、とミリアリアはつい微笑んでいた。
そう、まるでヘリオポリスにいた頃のような、穏やかな雰囲気。
ラクスにカレッジ時代のキラの様子を話しながら、ミリアリアは久し振りに声をあげて笑った。
 
 
「失礼します、ジュール隊イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマンです。」
 
控えめなノックに続いた声に、ミリアリア達はおしゃべりを中断してドアを振り返った。
 
「どうぞ、お入り下さいな。」
 
ラクスが涼やかな声で返事をすると、かちゃりとドアが開き、キラと同じ白服に綺麗なストレートの銀髪をさらりとなびかせたイザーク、そして先日拝領したばかりだと言う副官用の黒服に身を包んだディアッカが入って来た。
 
 
「あらあら、お二人でいらして下さいましたのね。ちょうど良かったですわ。」
 
 
ラクスが立ち上がり、にっこりと微笑んだ。
その横顔を見上げながら、やっぱり綺麗だな…とミリアリアは改めて思う。
プラント一の歌姫とも呼ばれ、アイドルとして人気を博していたのも無理はない。
閣議でのラクスはいつも凛とした表情を崩さないが、こうしてリラックスしている時は無邪気な笑顔を見せる。
ーーヘリオポリスにいた頃は、私もこんな風に笑えていたのだろうか。
目の前に立つディアッカから何となく視線をずらしたまま、ミリアリアはふとそんな事を考えた。
 
 
「お茶をたくさん作り過ぎてしまいましたの。宜しければミリアリアさんをお送りする前にお二人もいかがですか?」
 
 
ラクスの言葉にディアッカは目を輝かせ、イザークは少しだけ頬を紅潮させた(そう言えば昔ディアッカから、彼はラクスのファンだと聞いた気がする!)。
そして、「しかし…」と難色を示したものの結局は押し切られ、執務室は和やかな雰囲気に包まれたのだった。
 
 
 
 
「今日は任務の一環?」
当然のようにミリアリアの隣に陣取ったディアッカからそう尋ねられ、ミリアリアは苦笑して首を振った。
 
「ううん。軍の任務じゃないわ。個人的な仕事の話。」
「へ?それって…」
「ラクスに取材をさせてもらってたの。と言っても今すぐ世に出すものじゃないわ。これでもオーブの軍人だもの、正式な停戦協定が結ばれるまで余計な事は一切漏らさないわよ。」
「ってお前、ジャーナリストの仕事続けてたのか?」
 
驚いたようなディアッカの声に、ミリアリアは目を丸くした。
 
「え、ええ…。私、特にどこかの通信社に所属してるわけじゃないの。フリーでいた方が自由もきくし、だからAAにも思い立ってすぐ乗艦出来たし。」
「じゃあ…またどこかに取材とか行く訳?」
「それは分からないわよ。停戦したんだから。でも…だからって争いが全く無くなったわけじゃないし、今は何とも言えないわ。」
「でも、もしかしたらまた危険な場所に行くかもしれないんだろ?」
 
そう言って眉を顰めたディアッカに、ミリアリアの頭の中でかちん、と音がした。
「あのね。進歩の無い話ならしないでくれる?私は…」
少しずつ険悪な空気を漂わせ始めた二人に、周りは口を挟む事が出来ない。
その時、コンコン!とやや大きなノックの音が室内に響き渡り、ラクスが「どうぞ」と穏やかに返事をした。
 
 
「失礼します。…と、これは邪魔をしてしまったかな?」
 
 
そう言っておどけたように肩を竦めたのは、オーブの軍服に身を包んだ“砂漠の虎”。
アンドリュー・バルトフェルドだった。
 
「バルトフェルド隊長、こんにちは。何かあったのですか?」
「いや、伺う前に一度連絡を、と思ったのですが、ちょうど時間があったもので直接参上してしまいました。出直した方が宜しいですかな?姫。」
「いいえ。難しいお話でなければ大丈夫ですわ。奥の部屋でお待ち頂けますか?」
 
そう言ってにっこり微笑むラクスに、バルトフェルドは少しだけ困ったような表情を浮かべた。
「そう時間は掛からないのですが…ちょうどジュール隊長もおられる事だし、手間が省けたのですがね。」
「…私、ですか?」
カップを手に成り行きを見守っていたイザークが、驚いたように顔を上げた。
険悪な空気になりつつあったディアッカとミリアリアもまた、話の腰を折られるような形になりそれぞれカップをソーサーに戻す。
 
「ザフト軍の上層部から新兵が派遣されてきましてね。いずれも緑服の一般兵ですが、AAクルーの護衛の任務を受けています。
姫にも一度顔見せをと思い、お連れした次第です。出来ればジュール隊長にも、ですがね。」
 
確かに、ラクスとイザークが揃っているこの場所でなら顔見せも一回で済むし、貴重な時間を無駄にせず済むだろう。
ミリアリアはさっと立ち上がり、ラクスに暇を告げた。
これ以上ディアッカと話していても、いいことはない。そう思っての判断だった。
 
 
「ごちそうさまでした。私、宿舎に戻ります。ラクスはバルトフェルド隊長を。」
「な、おい…」
「…そうですわね。まだAAの修理には時間も掛かるようですし、改めてお誘い致しますわ。では、ミリアリアさんを…」
「あ、カップだけでも片づけて行くわ。バルトフェルド隊長、私には構わずお話を進めて下さい。カップを下げたらすぐ退出しますので。」
「ああ、すまないね、ハウ三慰。今度とっておきのコーヒーをご馳走するよ。」
「ありがとうございます。期待してますね。」
 
 
独特、と言う表現がふさわしい砂漠の虎のコーヒーだったが、ミリアリアは笑顔で頷き、ちょうど空のカップを手にしていたキラに声をかけた。
 
「キラ。それ空っぽでしょ?一緒に片づけるから。」
「あ、うん。ありが、とーーー」
 
キラの声が不自然に途切れ、ミリアリアは訝しげにその顔を見上げた。
と、次の瞬間キラの手からカップが滑り落ち、陶器の割れる音が部屋に響き渡る。
「キラ?どうしたの?」
見上げていたキラの顔から、さぁっと音が聞こえそうな勢いで血の気が引いて行き、みるみるうちに真っ青になった。
「ちょ、キラ?具合でもーー」
「…ル」
「え?」
小さなキラの呟きは、ほとんど聞き取れない。
揺れ動く紫の瞳はバルトフェルドがいるドア付近に向いており、ミリアリアは何事かとそちらを振り返る。
 
 
 
「ーーーーっ」
 
 
 
手にしたカップががちゃり、と嫌な音を立てる。
ミリアリアは、息が止まってしまいそうな程の衝撃に言葉を失い、キラと同じようにある一点を見つめて固まった。
 
 
そこにいたのは、バルトフェルドが連れて来たのであろう、緑服に身を包んだ新兵。
それほど背は高くなく、焦げ茶色の緩やかな癖毛、穏やかな表情、優しげな瞳。
 
 
そう、そこにいたのは、キラの親友でありミリアリアのかつての恋人であったトール・ケーニヒ、にそっくりの青年、だった。
 
 
 
 
 
 
 
007

 

 

な、長くなってしまいました…;;
キリが悪かったのでついorz
最後の最後でやっと!リクエストに準じた展開まで持って行く事が出来ました!
トールそっくりのザフト兵士、登場です。
ミリアリアだけでなく、キラもまた違う意味で衝撃を受けるだろうなと思い、
こう言った展開になりました。
しかも彼はAAクルーの護衛。
さて、どうなるのでしょう…。
そして、同じくこの場にいたディアッカは?

 

 

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2015,11,6up