「イザーク…ラス、ティとの約束、覚えててくれたのね」
一瞬口ごもるミリアリアに気付き、ディアッカはつい笑みを浮かべた。
2年以上も前に口にした小さな嫉妬の言葉をミリアリアが覚えていてくれた事に、くすぐったい気持ちになる。
「…ああ。ラクスもずっとこの件は気にしていたみたいだ。
イザークとの間でどんな話をしたかは知らねぇけど、二人は地球からダストコーディネイターをプラントに招聘し、議会で証言させたいと考えているらしい。
で、簡単に言うと俺はダストコーディネイターのコミュニティに出向いてそれを彼らに依頼して、話をまとめる役だった、って訳。」
「コミュニティに出向いて、って…彼らの居場所はそう簡単に掴めないはずよ?」
「ああ、フラガのおっさんの伝手を辿った。んで、スカンジナビア共和国にあるコミュニティを紹介してもらったんだ。
今はラスティもそこに在籍している。」
「そう…あそこはニールさんと繋がりがある場所だから、ラスティが居着いても不思議じゃないものね。」
さらりとそう口にしたミリアリアは、きっとあのコミュニティの事も知っていたのだろう。
『ラスティの居場所。ミリアリアなら分かるかもしれない』
イザークの言葉を思い出し、ディアッカはゆっくりと息を吐き出すと、真剣な表情でミリアリアと向かい合った。
「あの、さ。」
「え?」
「お前、ジャーナリストの仕事から離れた事、後悔してるか?」
驚いた表情で、ミリアリアがディアッカを見上げる。
何と答えるべきか、一瞬躊躇しきゅっと唇を噛み締め、視線を彷徨わせて。
ーー今この胸にある感情をそのまま伝えよう、とミリアリアは決め、口を開いた。
「…後悔はしていない。でも、やりきった、とも思ってはいない。うまく…言えないけど…」
困ったような表情のミリアリアに、ディアッカは少しだけ微笑んだ。
「……俺さ。そんなつもりは無かったけど、甘えてたんだ。お前に。」
「甘えてた?どういうこと?」
そっと胸に引き寄せられ、再びディアッカの温もりに包まれながらもミリアリアは問い返した。
「プラントに着いてすぐ、お前は言った。ラクスにターミナルの許可証を預けた、って。
戦場カメラマンもジャーナリストも、今は必要ない。
俺と一緒にいる以上、今はそっちの仕事に戻る気は無いから、ってさ。
俺はその言葉をそのまま鵜呑みにして…本当にそれでいいのか、お前に確かめる事もしなかった。
そして俺は、その言葉に甘えてたんだ。だから…人づてに知った事はあっても、離れている間お前が何をして、どんな事を思って活動していたかを自分からは聞かなかった。何となく、聞いたらいけない気がして。」
「…うん」
「でもさ、何となく、なんて今思えばただの言い訳だ。
俺はお前を守りたい、お前の喜怒哀楽全て受け止められる男になりたい、そう思ってた。
それなのに肝心の、離れている間の出来事を俺は聞けなかった。
それをお前に聞く事で、辛かった事を思い出させちまうかもしれない、って、変な気を使ってた。
それに…聞いたらお前が俺の傍からまたいなくなりそうで、怖くて、さ。
だから逃げてた。お前が口にしないのをいい事に、ずっとその話題を避けて来た。」
紫の瞳がミリアリアを捕らえ、二人はじっと見つめあう。
「…すげぇ情けない話だけど。ごめんな。お前の気持ちに甘えっぱなしで、逃げてて。」
ミリアリアはぶんぶんと首を振る。
その碧い瞳には、いつしか涙が溜まっていた。
「甘えてたのは私も同じよ。あなたの心配する顔を見たくなくて…元々反対されていたって負い目もあって、聞かれないのをいい事に、私も逃げてた。
許可証を手放した以上、無理に話す必要も無いって…それでいいんだって思おうとしてた。」
頬に伸ばされた小さな手を、ディアッカはきゅっと握りしめる。
話を聞く事で、また、辛い思いをさせてしまうかもしれない。
今じゃなくてもいいのかもしれない。
今聞きたいと思うのは、我侭で、身勝手な感情なのかもしれない。
それでもこうして互いに隠し持っていた本音を伝え合う事が出来た、二人が初めて出会ったこの場所で。
自分の知らないミリアリアを、知りたい。
ミリアリアが一人で抱えてきた辛い出来事もたくさんの思い出も、受け止めて、一緒に抱えたい。
「ミリアリア。俺と離れていた間の事…聞かせてくれないか?」
「……え?」
ミリアリアがびくりと体を震わせ、驚いた表情を浮かべた。
「キラから聞いて…テロに巻き込まれたお前が過呼吸を発症した事は知ってる。
一番辛い時に傍にいてやれなかった事も、どうしようもなく後悔してる。
ダストコーディネイターの存在を公表する事で、必然的にお前にも証言台に立ってもらう事になると思う。
また辛い思いをさせちまう上に…今ここでその当時の事を話してくれ、だなんてふざけんなって思うかもしれねぇ。
それでも、ごめん。知りたいんだ。お前が何を思って戦場を駆け巡っていたのか。」
「…どうして、知りたいと思ったの?」
まっすぐに自分に向けられた視線を、ディアッカはしっかりと受け止めた。
「……スカンジナビアでお前の写真を見た。少しだけど話も聞いた。その時、思ったんだ。
お前は一体何を思いながら、どんな表情でこの写真を撮ったんだろう、って。
そう思ったら、俺はお前がやり遂げて来た事、ほとんど知らないし写真も見た事が無い、って気付いた。
いい思い出ばかりじゃねぇかもしれないけど…辛い事、思い出させちまうかもしれないけど、その辛さも一緒に受け止めるから。
だから、聞かせて欲しい。お前が経験して来た事。」
ミリアリアはじっとディアッカの顔を見つめーーーこくり、と頷いた。
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ミリアリアを慮りながらも、隠された本音を吐露しあい初めて自分から
別離の間の出来事についての話を聞きたい、と懇願したディアッカ。
それを受け入れたミリアリアは、ディアッカにどんな事を語るのでしょうか…。
2015,9,10up