56, 口封じ 2

 

 

 

 
マリュー達AAのクルーはブリッジへと戻り、一同はブリーフィングルームに移動していた。
 
 
「まずは皆、ありがとう。まさかラクスがミラージュコロイドを使うとは思わなかったが…。
それにしても、彼女の尋問までさせてすまなかったな、ディアッカ、ラスティ。」
 
 
カガリの言葉に、ラスティは微笑み首を振った。
 
「どーいたしまして。でも、たいした話は聞けなかったぜ?黒幕の素性について、彼女は本当に良く知らないようだし。
確かにワクチンは不明艦の中に持ち込み保管していたようだが、艦ごと木っ端微塵になっちまった。
念の為アンノウンのMSについても尋ねてみたが、あの顔は全く何も知らない、って感じだったよな、ディアッカ?」
「ああ。不明艦自体もプラントの宙港にあらかじめ用意されていたものらしいし、ブリッジクルーは金を積めば危ない橋を渡るジャンク屋や宇宙海賊もどきの集まりだったらしい。
あの分じゃ本当に、コーディネイターへの復讐だけが目的でこの計画に加担したんだろうな。」
 
ディアッカも腕を組んで溜息をついた。
 
 
「…アンノウンの機体。目撃情報はマイウス付近のみ、って話だったわ。どうしてそれが、あの艦に攻撃なんて…?」
 
 
ミリアリアがぽつりと落とした呟きに応えたのは、イザークだった。
 
 
「口封じ、とは考えられないか?」
 
 
そこにいた全員が、はっとイザークを振り返った。
 
「セリーヌ・ノイマンは黒幕の本名も居場所も知らないと言っていたな。唯一知っていたのは秘匿回線の通信コードだが、接触を試みた所既に不通になっていた。
彼女はナチュラルだし、プラントの内情に詳しい訳でもなかろう。だから黒幕はどうとでも自分たちの素性を誤摩化せた。
だが実動部隊となる不明艦のクルーに対してはそうもいかない。旧式だろうとあれだけの艦を宙港に配備し、それを動かす人材を集めるとなれば、それなりの力と金がなければ出来ないだろう。
当然黒幕の素性を知る人間も紛れていたはずだ。
もし仮にそいつが我々に捕捉されたら、そこからこちらに素性が漏れる恐れがある。
だったら、艦ごと消してしまえばいい。そう考えても不思議ではないんじゃないか?」
 
ブリーフィングルームに、沈黙が落ちる。
 
 
「アンノウンのMSと“あの方”が、裏で繋がってるって事、か。」
 
 
ディアッカの言葉に、ミリアリアは息を飲んだ。
確かに、そう考えればあのMSの行動に説明もつく。
だが同時に、ミリアリアは恐怖を覚えた。
旧式とは言え宇宙艦を用立て、アンノウンのMSまで所持出来るような人物に狙われているのだ、自分達は。
 
ーーいや、それだけじゃない。
 
艦が攻撃を受ける直前、セリーヌが口にした言葉。
 
 
『パナマ攻略戦に参加していた…ザフトの、クルーゼ隊の生き残りを、知っている、って…』
 
 
やはり自分が予想した通り、黒幕の狙いはクルーゼ隊の生き残りであるディアッカ、イザーク、アスランだったのだ。
だが、理由が分からない。
パナマに攻め込んだ部隊はたくさんいるはずなのに、なぜわざわざ元クルーゼ隊の三人を?
相手がナチュラルであればともかく、同じコーディネイターであるのなら、当時クルーゼ隊はザフトにおいて精鋭と呼ばれる部隊だったはずだ。
最後までクルーゼの元にいたのはイザークのみ。
だが実際、狙われているのはイザークを含む三人。
これは、どういう事なのだろうーー。
 
 
「そうまでして…そこまでして狙われる理由って、なんなのよ…?」
 
 
ぽつりと落とされたミリアリアの声に、ディアッカが怪訝そうな表情になった。
 
「ミリアリア?」
 
びくん、と体を震わせ、ミリアリアはディアッカを見た。
その顔は、真っ青だった。
 
「おい、お前…どうしたんだ?どこか…」
「ーーディアッカ。アスラン達も、ちょっと聞いてくれ。」
 
ミリアリアはカガリに視線を移しーー彼女もまた、自分と同じ事実に気付いているのだ、と察した。
「ミリアリアとセリーヌとの会話の中で…クルーゼ隊の名が出て来た。
黒幕の男は、パナマ攻略戦に参加していたクルーゼ隊の生き残りを知っている、と話を持ちかけてきたそうだ。」
「クルーゼ隊?!」
アスランが驚いたように目を見開く。
 
 
「アスラン、イザーク、ディアッカ。2年前から調査を続けている“あの方”は、お前達が所属していたクルーゼ隊に何からの因縁がある人物ではないか、と私は思っている。」
 
 
カガリの言葉に三人は絶句し、ラスティもまた驚愕の表情を浮かべた。
 
 
「クルーゼ隊…って、それは確かなのか?カガリ!」
最初に口を開いたのはアスランだった。
「ああ。相手の男がそう言っていたそうだ。それに、元クルーゼ隊の一員というのはお前ら三人の共通点でもあるだろう?
ここにいるラスティも条件は同じだが…ヘリオポリスで離脱してしまっているからな。」
「…つっても、クルーゼ隊いた頃の俺達は赤服とは言えルーキーで、在籍期間も短い。そもそも同じコーディネイターに部隊絡みで恨まれる覚えなんて…」
納得が行かない、と言った表情で黙り込むディアッカに、ラスティが溜息をついた。
 
 
「ラクスからも聞いたかもしれんが、我々も黒幕について、ある程度の目星はつけている。
だが、すまん。これは非常に繊細な問題で…確証のない話は私も出来ないし、したくはないんだ。
時期が来れば、必ず全て説明する。だから、もう少しだけ待って欲しい。」
 
 
そう言って目を伏せるカガリをイザーク、そしてミリアリアもじっと見つめていた。
 
カガリとラクスは恐らく、黒幕の正体についておおよその見当をつけている。
だが、何らかの理由でそれを口にする事を拒んでいる。
黒幕の正体は非常に気になるものであったが、ここで無理を言ってそれを聞き出すよりも、今は彼女達を信じて、まずは自分達の身を大切にしよう、とミリアリアは結論づけた。
 
 
「カガリとラクスは、“あの方”について調べてくれていたのよね?ずっと。
そして今回の事件で、調査は進展するはずよ。相手の狙いもはっきり分かったんだもの。
ただ…狙われる理由が分からないけれど。」
「ま、単純に考えりゃクルーゼ隊に恨みを持つ者の犯行、ってとこだけど、肝心の隊長は戦死してるし、結局隊自体も停戦前に解散してるんだろう?
ややこしい話だよな、全く。」
「そうね…でも、このまま黙っている訳にも行かないわ。」
ミリアリアはカガリに、そして戸惑い顔のディアッカ達に視線を移した。
 
 
「セリーヌさんや不明艦がああなってしまった以上、相手もまた様子を見ているはずよ。
アンノウンのMSだって、そうそうすぐに宇宙に飛び出してくるとも思えない。
だから、私達はあるべき場所に戻るべきなんじゃないかしら。
相手は二年待ったんだもの。すぐではないにしろ、またいつか動きがあるはずよ。私達は、それに備えなければ。」
 
 
ミリアリアの冷静な判断に、イザークは頷いた。
 
「ミリアリアの言う通りかもしれん。相手は容赦なく仲間ごと宇宙の藻屑にして口封じをするような奴らだからな。
今はこれ以上考えても答えは出ない。本国に戻り次第ラクス嬢に経緯を報告し、調査を行おう。」
 
そう言うとイザークは立ち上がった。
 
「俺はザフト側の代表としてクサナギに向かう。プラントの宙域でこれだけの騒ぎがあったとなれば、軍上層部も黙ってはいないはずだ。
まずはこの件についてラクス嬢と連絡を取り、軍上層部との話をまとめてくる。ディアッカ、お前は?」
「ああ…カーペンタリアにまずは連絡、だな。こちらの状況の報告と、あとはシンに一任してる任務についても話をしないと。」
「了解した。ではアスハ代表。これで…」
「ああ。…すまないな、イザーク。色々とありがとう。調査が進展したら、必ず報告する。」
「そうしてもらえると助かる。こちらも動きが取りやすくなるだろうし、ディアッカはまだしばらく地球暮らしだからな。」
 
ちらり、と視線を送って来たイザークに、ミリアリアは複雑な表情で微笑んだ。
 
 
「しかし…不幸中の幸いだったのかもしれんな。セリーヌ・ノイマンが黒幕について多くを知らなかったのは。」
 
 
イザークは軽く溜息をついた。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

セリーヌの言葉から、自分の予想が当たった事を確信するミリアリア。
カガリとラクスは黒幕の正体について、どこまで知っているのでしょうね…。
そして…再会したと言うのにDMの絡みが少なく心苦しいですorz
次こそは…ご期待下さい!(言っちゃったよ(●´艸`))

 

 

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2015,8,22up