55, ドアの向こうに 3

 

 

 

 
「ディア…ッカ?」
 
 
咳き込んだせいで少しだけ掠れてしまった声が、ミリアリアの唇から零れ出る。
その声にはっと我に返ったカガリが、セリーヌの緩んだ手から拳銃をたたき落とした。
 
 
「ディアッカはミリアリアを!俺は姫様とこいつを連れて行く!姫様は俺の後ろに!」
 
 
ラスティの鋭い声が聞こえた時、すでにセリーヌは彼によって拘束されていて。
口元を押さえたカガリもその声に反応し、ラスティの傍に駆け寄った。
と、その時再び艦に大きな衝撃が走り、ミリアリアの体は宙に浮いた。
 
「きゃ…」
「ミリィ!!」
 
そのまま倒れそうになった所を、ディアッカの逞しい腕に体ごと引き寄せられる。
潜入用なのか、ディアッカとラスティは見慣れない装備をしていて。
それでも、確かにそこにある愛しい人の温もりと声に、ミリアリアの足から力が抜けた。
 
「ごめんな…時間かかっちまった」
 
こんな状況の中でも優しく注がれる視線と声に、ミリアリアは小さく微笑みかぶりを振った。
 
「私は大丈夫。ディアッカが…無事で良かった…」
 
くしゃり、とミリアリアの髪をひと撫ですると、ディアッカはその細い体をしっかりと腕に抱えラスティとカガリを振り返った。
 
 
「姫さん、走れるか?」
「私は大丈夫だ!ミリアリアのおかげでそれほどガスも吸い込んでいない。」
「なら行けるな。…ラスティ、急ごう。様子がおかしい。」
「…だな。ミリアリア、AAからここへ移動して来た時のシャトルは?」
 
 
急に話を振られ、ミリアリアははっと顔を上げた。
「この艦のクルーが出て来て、曳航されて…けほ、格納庫に、あるはずよ。」
小さく咳き込むミリアリアに、ディアッカの眉が顰められた。
 
「じゃあ。さっさと脱出だな。ミリィ、しっかり掴まってろよ?」
「え?きゃ…!」
 
ふわり、とディアッカに横抱きにされ、ミリアリアは驚き小さく悲鳴を上げた。
 
「無理すんな。走れねぇだろ?」
「……うん。」
 
確かに、ガスのせいもあるのか先程から指先や足に少しだけ痺れを感じていて。
意地を張って足手まといになっては元も子もない、と思い、ミリアリアはディアッカの腕に体を預けた。
 
 
「ちょっと急ぐんで、失礼するぜ?セリーヌ・ノイマンさん?」
 
 
ひょい、と自分を肩に担ぎ上げたラスティに、セリーヌは目を見開いた。
 
「どう、して…どうして私を連れて行くの?!」
「どうして置いて行かなきゃなんねーんだよ?死んで罪を償う、とか言うつもりか?あんた。」
 
逆にそう問われ、セリーヌは言葉を失った。
 
 
「そんな簡単な話じゃねぇだろ?今回の件、黒幕についてあんたには山ほど聞きたい事がある。分かったらおとなしくしてろ。」
 
 
ラスティはそれだけ言うとディアッカとカガリを促し、格納庫へと走り始めた。
 
 
 
***
 
 
 
「これよ!私が乗って来たシャトル!」
 
 
艦長室から格納庫まで、ひとりのクルーと出会う事も無くミリアリア達はやって来ていた。
相変わらず不気味に揺れる艦の状況から見るに、攻撃の手は休まっていないようだ。
 
「よし。これなら三人乗っても余裕があるな。ディアッカはミリアリアとザクで先に出ろ!」
「ああ、分かった!」
 
ミリアリアを抱いたままのディアッカは、そのまま勢い良く床を蹴り、一気にザクのコックピットに向かった。
「誰にも会わなかったって事は…みんな、脱出したのかしら…」
不安げなミリアリアを自らの膝に乗せ、ディアッカは素早くザクを起動させながら頷いた。
「だろうな。これだけ攻撃されればそうせざるを得ないだろ。だけど、それにしちゃちょっと…」
「え?」
釈然としない、と言った風なディアッカの言葉に、ミリアリアは首を傾げた。
 
「いや、とりあえず今はここから脱出するのが先だ。辛いかもしれねぇけど、ちょっと我慢しろよ?」
「うん。私は大丈夫。」
「よし、行くぜ!」
 
操縦の邪魔にならないように気をつけながら、ミリアリアはディアッカにしがみつき、脱出の際に掛かるGに思わず目をぎゅっと瞑った。
 
 
 
 
『ディアッカ!無事か!!』
 
 
宇宙へ飛び出したディアッカとミリアリアの耳に飛び込んで来たのは、イザークの声だった。
「通信が…回復してるの?」
「そうらしいな。」
驚くミリアリアにディアッカは短く返事をし、巧みにパネルを操作して回線を繋いだ。
 
 
「イザーク!ミリアリアと姫さんは無事救出した!この後ラスティが操縦するシャトルで脱出して来るはずだ!」
 
 
小さなモニタに映し出されたパイロットスーツ姿のイザークは、ディアッカに寄り添うミリアリアの姿を確認したのか、ほっとした表情を浮かべた。
 
『ミラージュコロイドを解除してそちらに向かう!何やら様子がおかしい!』
「ああ、頼む!ミリィはスーツも着てねぇし、この状態で戦闘はキツいからな。アスランは?」
『既にそちらに向かっている。アスハ代表が気がかりなんだろう。』
「ちょ…ちょっと待って!ミラージュコロイド?それに戦闘って?」
 
ディアッカとイザークの会話を目を丸くして聞いていたミリアリアが、たまらず口を開いた。
 
『ミリアリア、詳細はあとだ。ディアッカ、気を抜くなよ?』
「命より大事なもん抱えてんだ、気なんて抜けるかっつーの」
 
二人の会話を目を白黒させて聞いていたミリアリアは、こんな時だと言うのに思わず頬を赤らめた。
 
 
通信が終わり、続いてラスティが操縦するシャトルの姿がコックピット内のモニタに映し出される。
そして、シャトルに向かって飛んで行く機体ーーアスランの姿に、ミリアリアは思わず頬を緩めた。
きっとアスランは、イザークからカガリがあのシャトルに乗っていると聞いたのだろう。
いつの間に現れたのか、イザークの乗るグフの姿も見える。
 
 
ああ、助かったんだ、私。
 
 
ひしひしとそんな実感が湧いて来て、ゆっくりと息を吐き出す。
と、その時ミリアリアの視界を、深緑色の何かが掠めた。
 
「っ…ディアッカ!MSがいる!!」
「MS?!フラガのおっさんのじゃなくてか?」
「違うわ!深緑色の…」
 
ディアッカがメインカメラをそちらに向けると、複数の箇所から炎を上げる不明艦がモニタに映し出された。
「どこにいるんだ?見間違いじゃ…」
その言葉を言い終えるより先に、デブリの後ろから素早く飛び出して来た二機のMSに、ディアッカは目を見開いた。
 
「なっ…どこのMSだ?あんなのザフトには…」
「…もしかして、マイウス付近で目撃情報があったアンノウンの機体じゃない?」
 
ディアッカはミリアリアと思わず顔を見合わせた。
ミリアリアが自分に送ってくれた所属不明のMSの情報は、確かに自分もこの目で確認した覚えがある。
 
 
「お前のメールにあった件のか?…くそっ、何だってこんな時に…」
 
 
ディアッカはすかさず不明艦から距離を取り、様子を伺う。
ミリアリアを乗せた状態では避けたい所だが、場合によっては、このまま戦闘にもなりかねない。
だが深緑色のMSは、ディアッカ達には目もくれずひたすら不明艦に向けて攻撃を仕掛け始めた。
 
「あれじゃ、もうもたねぇな…」
 
ぽつりとディアッカが呟いた時、燃えさかる艦から救命艇が射出されるのが見えた。
「ディアッカ!今飛び出したのって救命艇よね?」
「ああ、すぐに救難信号を出せばザフトの哨戒艇、に…っ!!」
ディアッカの言葉が途中で止まる。
深緑色のMSは二機。
その内の一機が、救出艇にライフルを向けたのだ。
 
 
「ミリィ、見るな!」
 
 
思わずミリアリアの頭を自分の胸に押し付けたディアッカの目の前で、白い光が炸裂し。
救命艇はあっけなく爆発し、消えた。
 
 
「うそ…でしょ」
 
 
ディアッカの腕の中でモニタを振り返ったミリアリアが、呆然と呟く。
救難信号は出ておらずとも、MSを操るものであれば当然知っているはずの救命艇の存在。
それを撃ち落とす事は道義に反する事であり、いくら相手が犯罪者といえどもしてはならない事であった。
かたかたと震えるミリアリアに回した腕にぎゅっと力を込めながら、ディアッカはぎり、と歯を食いしばる。
不明艦は既に爆発寸前の状態だ。これ以上攻撃する必要も無いだろう。
 
とすれば、奴らが次に狙って来るのは、自分たちかもしれないーーー!
 
深緑色のMSは、ゆっくりとこちらに向き直る。
ディアッカは息を詰めてMSの動静を観察した。
やはり距離を取って一連の経緯を目撃していたイザークやアスラン、そしてラスティも同じように考えているはずだ。
ミリアリアもまたそんな緊張を感じ取ったのか、ディアッカの腕の中で息を詰め体を固くしている。
 
 
と、二機のMSがゆっくりと動きーーこちらに、背を向けた。
「…なに?」
思わず声をあげたディアッカは、現れた時と同じく素早い動きで去って行く深緑色のMS達をただ呆然と見送った。
 
 
『ディアッカ!聞こえるか?』
 
 
アスランの声に、ディアッカははっと我に返った。
 
 
「ああ、聞こえてる。一体どこの所属だよ、あのMS?」
『分からない…。だが、こちらに何か仕掛けてくる気はないようだ。我々も一度AAに帰還しよう。』
「そうだな。この状況で宇宙空間に長居もできねぇし。了解した。AAに向かう。」
『ああ。AAにはこちらから通信を入れて事情を説明しておく。先に行ってくれ。』
「分かった。お前も急いで来いよ?」
『もちろんだ。それじゃ、切るぞ。』
 
 
ぷつり、と通信が途切れると、ディアッカは不安げに自分を見上げるミリアリアを安心させるように微笑んだ。
 
 
「…まずは、帰ろうぜ。AAに。体調は?」
「大丈夫よ。でも…どうしてあんな事…」
「今は考えんな。ちょっと急ぐから、何かあればすぐ言えよ?」
「…うん。」
 
 
ミリアリアは素直に頷き、ディアッカの胸に体を預けるとぎゅっと目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

再会もそこそこに、事態は急展開です。
そして、やっと生で(笑)会話する二人を書けて感無量の私がいます(遅筆ですみません;;)…。

 

 

戻る  次へ  text

2015,8,5up