55, ドアの向こうに 2

 

 

 

 
「ディアッカ!右だ!」
 
 
ラスティの声が聞こえるとほぼ同時に、ディアッカは自分を狙い撃とうとした男に向け発砲していた。
イザークとアスランによってハッチ付近は破壊され、頃合いを見て飛び出したディアッカ達は一気に艦へと侵入を果たした。
かつて乗艦していたAAよりも古い構造の艦だったが、どこも造りは大体同じようなもので。
ディアッカは足を撃たれてもがいている男の胸ぐらを掴み上げ、かちゃり、とそのこめかみに銃を押し当てた。
 
 
「一度しか聞かない。人質はどこにいる?」
 
 
ディアッカの剣呑な視線と声に、男は足の痛みも忘れて「ひっ」と悲鳴を漏らす。
ぐい、とさらに力を込めて銃を突きつけると、男は震える手で奥を指差した。
 
「人質は…あ、あの女の部屋だ。ここをまっすぐ行った突き当たりを右に曲がった、艦長室…」
「そっか。サンキュ。」
「ぐわっ!」
 
手にした銃で男を殴りつけ昏倒させると、ディアッカは立ち上がりラスティを振り返った。
「お前…手荒いねぇ。せっかくの情報提供者だってのに。」
「うるせーよ。こっちは急いでんだっつーの。ほら、さっさと行こうぜ?」
「はいはい。…っと」
反対側から現れた新手の男達に向かって的確に銃を撃ち込みながら、ラスティは走り出したディアッカのあとに続いた。
 
 
 
「この部屋がそれらしいな。」
どこの艦も、艦長室と言うのは他の部屋と一線を画した造りになっている。
ドアの大きさしかり、内装しかり。
と、ディアッカは顔を上げた。
 
「なぁラスティ。なんか…匂わないか?」
「匂う?」
 
ラスティはくん、と鼻を鳴らしーー見る見るうちに表情が変わった。
 
 
「……ガス、か?」
「ガス?」
「畜生…おいディアッカ、すぐにこの部屋のドアを開けろ!」
「あ、ああ」
 
 
ディアッカは慌ててドアの横に設置されたパネルを操作するも、画面にはエラーの文字が空しく点滅するばかり。
その後何度か試みるも、ドアが開く事は無かった。
 
「だめだ!セキュリティロックが掛かってる!!」
「だったら速攻で解除しろ!このままじゃ死ぬぞ!」
「…は?」
 
ラスティは飲み込みの悪いディアッカに苛立ち、思わず声を上げた。
 
 
「この匂いは有毒性のあるガスだ!セリーヌ・ノイマンはミリアリアと姫様を道連れに死ぬつもりだ!!」
 
 
ディアッカの顔から血の気が引いた。
 
 
 
***
 
 
 
「どうして…そうしてそんな!?」
 
 
ミリアリアは俯いたままのセリーヌに駆け寄り、肩を掴んで大きく揺さぶった。
 
「だから!もう疲れたのよ!これだけの攻撃を受ければ、じきにこの艦は沈む。私に出来る事なんて、もう何もないのよ。」
「クルー達はどうするつもり?あなた、彼らの命を仮にも預かっているんでしょう?無責任な事を言って逃げるのはやめなさいよ!!」
 
ミリアリアはかっとなって思わず大声を出し、異臭に咳き込んだ。
「ミリアリア!?お前も何か口に…」
「だい、じょうぶ…」
息苦しさを感じながらも、ミリアリアは碧い瞳で射抜くようにセリーヌを見つめた。
 
 
「私だって…トールに会いたい、って何度も思った。このまま死んでしまいたい、そう思っていた時もあったわ。
でも…本当は分かっているんでしょう?例え死んでも、あなたはキールさんには会えない!!」
「それでも、もう生きていたくなんかない!もう嫌よ!ひとりは嫌!」
 
 
セリーヌがそう叫んだ時、不意にドアの向こうから大きな物音が聞こえた。
まるでドアをこじ開けようとするような振動に混じって聞こえてくるかちゃかちゃ、と言う音はロックを解除しようとキーを叩く音、だろうか。
「な、なんだ…?」
カガリが訝しげに眉を顰め、セリーヌは目を見開きドアをじっと見つめた。
 
「……どうやら、敵の侵入を許したようね。」
 
かたん、とデスクの引き出しを開け、セリーヌが取り出したものを目にし、ミリアリアとカガリは息を飲んだ。
 
 
それは、鈍く光る小さな拳銃、だった。
 
 
「セリーヌ、さん?」
「こんな事もあろうかと思って持ち込んでおいたの。まさか本当に役に立つなんてね。」
 
セリーヌはすっ、と銃口を自分のこめかみにあて、微笑んだ。
 
 
「外にいるのが誰かなんて知らないけれど…私の味方でない事は確かだわ。
きっとブリッジクルー達も脱出したんでしょう。これを作ったジャンク屋もブリッジにいたんだから、ロックを解除出来ないはずも無いしね。」
「そうじゃなくて!」
「言ったでしょう?あなた達を道連れに、私も死ぬって。あなたの夫もカガリ様の恋人も、私と同じように嘆き、悲しめばいい。それが私の復讐よ。」
 
 
引き金に細い指がかかる。
ミリアリアは思わずぎゅっと両手を握りしめた。
だが次の瞬間、ミリアリアのすぐ脇をカガリが走り抜け、そのままセリーヌに飛びかかった。
 
「きゃあっ!!」
「ミリアリア、拳銃をこいつから取り上げるんだ!!」
「カガリ!?」
「安全装置が掛かったままだ!だから早く!!」
 
そう言った類いの知識が無いミリアリアと違い、カガリはセリーヌの手にした拳銃をつぶさに観察していたのだ。
安全装置が解除されなければ、引き金は引けない。
 
 
「ミリアリア、急げ!!」
 
 
ミリアリアはカガリの声にびくりと体を揺らし、暴れるセリーヌの元へ駆け寄った。
 
 
 
***
 
 
 
「ディアッカ!まだかよ!?」
「っ…ちょっと待てって!くっそ、こんな扉にどんだけややこしいロック仕込んでんだよ!」
 
 
ディアッカは必死でドアロックと格闘していた。
考えうる限りの手段を用い、何重にも仕掛けられたロックを解除して行く。
先程は微かに感じただけだった異臭が、今はもうはっきりそれと分かる程になって来ている。
AAのようなしっかりとした造りでないため、ドアの隙間からガスが微かに漏れているのだ。
だがその分、室内にガスが充満するにも通常より時間は掛かるだろう。
 
こうしてロックを解除している間も、室内からはセリーヌ・ノイマン、そしてカガリやミリアリアの声が小さく漏れ聞こえて来ていた。
 
 
『ミリアリア…安全装置…早く…!!』
 
 
室内から切れ切れに聞こえたカガリの声に、ディアッカも、そしてラスティも思わず息を詰めた。
中では一体何が起きているのか?
ミリアリアは無事なのか?
ディアッカの額に汗が浮かぶ。
 
「あと…少しで行ける。ラスティ、突入の準備を。」
「ああ、了解。落ち着けよ、ディアッカ。」
 
ラスティが銃を片手にドアにそっと寄り、いつでも飛び込める体勢を作る。
ディアッカは全神経を集中し、ロックの解除を続けた。
 
 
 
***
 
 
 
「離して!離しなさい!」
 
カガリの体の下でもがくセリーヌの手は、しっかりと拳銃を握りしめたままだった。
「セリーヌさんお願い!こんな事もうやめて下さい!」
ミリアリアはカガリに加勢する形で、セリーヌから拳銃を取り上げようと半分揉み合いのようになっていた。
と、セリーヌがきっ、とミリアリアを見上げ、金切り声で叫んだ。
 
「もう死なせてよ!キールだって私を置いて逝ってしまった!だからもう生きていたって…」
 
 
 
ーーおいて、いってしまったーー
 
 
 
セリーヌが発した言葉に、ミリアリアの頭に一気に血が昇ってーーーぱぁん、と乾いた音が室内に響いた。
 
「置いて逝った…?あなた、彼が好きでそうしたとでも思ってるの?」
「ミ、ミリアリア…?」
 
打たれた頬を押さえて絶句するセリーヌと、そんな彼女を押さえつけたまま呆然とするカガリを前に、拳銃の存在も忘れたミリアリアは拳を握りしめ、思い切り叫んだ。
 
 
「あなたの大切な人がどんな思いで死んで行ったか分からないの?あなたを置いて逝きたいなんて思うわけないじゃない!
だからって一緒に死にたいなんてもっと思っていなかったはずよ!
彼の事を本当に愛していたのなら、あなたを守りたくて戦いぬいた彼をこれ以上貶めないで!!」
 
 
そう、セリーヌの婚約者である彼も、大好きだったトールも、あの戦争で死んでしまった。
その悲しみを、絶望を、ミリアリアは嫌という程知っている。
それでも、彼らは死にたくて死んだ訳ではない。
決死の覚悟で、守りたいものを守る為に戦ったのだ。
それだけは、分かって欲しい。
叫んだ事によりガスを吸い込み、たまらず咳き込みながらもミリアリアは碧い瞳に強い意志を込め、じっとセリーヌを見つめた。
 
「…キール」
 
ミリアリアに打たれた頬を押さえながら、セリーヌがぽつりと婚約者の名を呟く。
すると、それが合図だったかのように、ばん!と大きな音が室内にいた三人の耳に飛び込んで来て。
 
 
「ミリアリア!!」
 
 
ミリアリアの心を震わせる、自分の名を呼ぶ声。
室内になだれ込んで来たディアッカとラスティを、ミリアリアは信じられない思いで見つめた。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

ようやく、ようやく!再会、です!!

 

 

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2015,8,5up