「シン。悪いけど頼むな。」
ディアッカはラスティとともにボルテールの格納庫にいた。
ディアッカの機体では地球から直接宇宙へは上がれない為、カーペンタリアの上層部はボルテールの発進を許可した。
黒いザクは既にメンテナンスも終わり、パイロットを乗せ発進するのみだ。
シンは赤服、二人はパイロットスーツを纏っている。
ディアッカはともかくとして、ラスティは今や民間人と同じ扱いだ。
緑色のパイロットスーツを纏ったラスティは、少しだけ窮屈そうにしている。
「はい!あの、上層部には…?」
「ラクスが話をつけてくれたそうだ。今回の事件は俺の妻であるミリアリアも、そしてオーブも絡んでる。そのせいもあって、俺がここを出る事はすんなり認められた。まさかボルテールまで気前よく使わせてくれるとは思ってなかったけどな。
ただ、ケリを付けたらまたこっちに戻る事になってる。だからそれまで、ロイエンハイムさんと話し合って復興支援の任務の方、お前の裁量で進めてくれ。」
「俺が?!…で、ありますか?」
驚いた表情を浮かべるシンの頭を、ディアッカはぽんぽんと叩いた。
「お前は地球育ちでもあるだろ?そう言う点では俺よりも細かい所に目が届くはずだ。頼んだぜ?」
「……了解しました。あの」
「ん?」
シンは赤い瞳で真っすぐディアッカを見つめた。
「ミリアリアさんと…アスハ代表を、必ず助け出して下さい。ルナも出来る事は協力すると言ってましたから。」
ディアッカは笑顔になり、頷いた。
「ああ、分かってる。」
あれほどまでにオーブと言う国を憎んでいたシン。
だがジュール隊に配属され、ディアッカの副官としてカーペンタリアに降りてきて、これまで知らなかった色々な事実と向き合い、シンは本当に成長した、とディアッカは改めて思った。
そうでなければ、ミリアリアだけでなくカガリの名を出し身を案じる事などしないだろう。
恋人であったルナマリア・ホークとの関係も一時期とは違い、良好なようだ。
「君たち。体調はどうかね?」
格納庫に現れたロイエンハイムとアンジェラに、ディアッカは笑顔で頷いた。
ロイエンハイムはワクチンを投与したディアッカ達の体調が万が一急変したときの為、艦に同乗していたのだ。
彼の護衛であるアンジェラもまた、共に宇宙まで上がって来ていた。
「副反応の事なら、俺は特に何も問題ありません。ラスティ、お前は?」
「問題ないぜ?アンジーは?」
「私も大丈夫。何ともないわ。」
あの後隔離棟でディアッカ達はワクチンを投与された。
シンとアンジェラも同時刻にワクチンを投与し、問題が無ければカーペンタリアの全兵士に一両日中にワクチンが行き渡るであろう。
「アンジー、途中で抜けて悪いけど頼むな。」
「ええ。…報酬はその分多く頂くけどね。」
真面目な顔で答えるアンジェラに、ラスティはつい苦笑した。
「そうだ。頼んどいたやつは?」
「ああ…ごめんなさい。これよ。」
す、と差し出されたアンジェラの綺麗な手から白い封筒を受け取ると、ラスティは笑顔で礼を言った。
「ラスティ、それ…」
「ん?ないしょ。」
どこかいたずらっぽい笑みを浮かべると、ラスティはぽん、とディアッカの肩を叩いた。
「さて。行きますか?」
「ああ。」
ディアッカは黒いザクを見上げ、大きく息を吸った。
そしてまさに一歩踏み出した、その時。
『エルスマン隊長!本国より緊急の通信です!』
格納庫内に響き渡ったアナウンスに、ディアッカの眉が顰められた。
***
『ディアッカ!間に合って良かった…』
そう言ってほっとした表情を見せるのは、プラントにいるシホ・ハーネンフースだった。
「シホ?何かあったのか?」
滅多に見る事の無い焦りの表情を浮かべたシホに、ディアッカの胸がざわついた。
『30分程前に、隊長達がこちらを出たわ。ワクチンは接種済みよ。』
「ああ。こっちも今出る所だ。それで?」
『確定事項ではないけれど…あちらに何か動きがあったかもしれない。AAへ通信が繋がらないの。』
「なに?!」
『メイリンがずっと張り付いてチェックを続けているけど…恐らく強い電波妨害のせいね。それも、人為的に起こされたものよ。』
「…あっちが仕掛けて来てるって事かよ、くそっ!」
『アマギ館長も試しに不明艦への通信を試みてくれたんだけど、それも繋がらないそうよ。もちろんAAにもね。
あちらの狙いが何なのかは分からないけれど、とにかく急いだ方がよさそうね。
あなたは途中、コペルニクスで補給を受けるんでしょう?』
「ああ、その予定だ。ボルテールはあまり地球から離れられないからな。」
『それまでに、私達も出来る範囲で原因を探ってみるわ。コペルニクスに到着したら、補給の間に一度私に連絡を貰えるかしら?』
「分かった。イザークにはもう連絡したのか?」
『ええ。ぎりぎり間に合ったわ。あなたがコペルニクスから出るまではこちらからの通信が繋がる宙域で待機してくれるそうよ。』
ディアッカは、シホの的確な判断に心から感謝した。
「了解した。あとでまた連絡する。」
『ええ。それじゃ。』
ぷつり、と通信が途切れ、それと同時にディアッカの胸に嫌な感覚が沸き上った。
「ーー急ごうぜ、ディアッカ。」
はっと我に返り、ディアッカは後ろに立っていたラスティを振り返ると、力強く頷いた。
「補給の件、隊長が出たらすぐルナに連絡をしておきます。…ご武運を。」
シホとのやり取りの一部始終を隣で聞いていたシンに敬礼を送られ、ディアッカはにこりと微笑み頷いた。
そうだ。俺達にはたくさんの仲間が、助けになってくれる味方が、いるーーー。
胸に渦巻く不安を断ち切るように、ディアッカはラスティを促しザクへと乗り込む。
「エルスマン隊、ディアッカ・エルスマン、発進する!」
久し振りに感じる強いGに顎をぐっと引き、ディアッカは空へと飛び立った。
そしてまさに同じ頃、ミリアリアもまたシャトルに乗り込み、AAから不明艦へと向け出立した。
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ミラージュコロイドと言う切り札を持ち宇宙へと飛び立ったイザークとアスラン。
心に不安を抱えながらもラスティとともにボルテールを飛び立つディアッカ。
そして、ワクチンが完成した事を知らないままセリーヌの元へと向かったミリアリア。
同じ時間軸で少しずつすれ違いながらも、事態は進んで行きます。
…またも御都合主義全開だったり、詳しい方から見たら矛盾や疑問だらけの展開かも
しれませんが、どうかご容赦下さい;;
2015,6,29up