ミリアリアの与えられたリミットまで1時間を切った。
マードック達はミリアリアの乗るシャトルの準備に追われている。
そして、サイとミリアリアはAAの展望室にいた。
先程の通信の後、セリーヌ・ノイマンは本当にこの宙域一帯に電波妨害を仕掛けたようで、通信は全て遮断されていた。
ワクチン生成の進捗具合もプラントやカーペンタリアの様子も、こちらから確認する事は出来なくなった。
それに、カガリの身の安全を考えると、むやみに通信を試すわけにもいかない。
ミリアリアは無言で展望室の窓にそっと手を触れさせ、深呼吸を繰り返した。
ーーディアッカは、絶対に来てくれる。
医務室でのフラガの言葉に、ミリアリアは改めて目を覚まさせられた気がした。
私は、ディアッカに、もう一度会いたい。
神様に、そしてトールに誓った。
私の帰る場所は、ディアッカの所なんだからーー。
ワクチン開発から五日になろうとしている。
ディアッカは今、どこで何をしているんだろう。
ミリアリアは、左手薬指に収まる指輪をそっと撫でた。
「ねぇ、ミリィ。」
突然サイに話しかけられ、ミリアリアはびくりとした。
「え、な、何?」
サイは切なげに微笑んだ。
「…フレイも、セリーヌ・ノイマンと同じ思いだったのかな。」
ミリアリアは驚き、サイに向き直った。
「フレイと…セリーヌさんが?」
サイはぽつり、ぽつりと語った。
ミリアリアがディアッカに襲いかかった、あの日の事。
自分を突き放したサイに、フレイが言った言葉。
『分かってたくせに!私、本当は今でもあなたを…』
「フレイが…父親を殺したコーディネイターへの復讐のためにキラに近づいた事は、気付いてたんだ。なんとなく。」
サイは遠い目をする。
「それでもさ。そんな単純に割り切れないよね。一応、婚約者だった訳だし、少なくとも俺はフレイが好きだった、からさ。」
「…うん。」
「キラがコーディネイターじゃなきゃ、ってその時は思った。醜い嫉妬さ。だからあの時無断でストライクにも乗った。まぁ結局、何も変わらなかったけどね。」
ミリアリアは、ナチュラルらしからぬ美貌の、赤い髪の少女を思い出す。
その出自から地球軍の広告塔にされかけ、クルーゼに捕らわれた挙句、騙されて死んでいった、大切な友達。
「…ごめん。なんで俺、ミリィが大変な時にこんな話してるんだろうね。」
自嘲気味に苦笑するサイをミリアリアは見上げ、そっと呟いた。
「確かにサイの言う通り…コーディネイターを憎んで、復讐したいと思っていたのかもしれない。
…でもね、サイ。フレイだってあなたの事、好きだった事に間違いは無いと思うわ。」
サイははっと顔を上げた。
「フレイはきっと、悲しみと…憎しみに飲み込まれてしまったのよ。目の前でたったひとりの肉親を殺されて、身近にいたコーディネイターであるキラに憎しみの矛先が向かってしまった。
…キラもきっと、その事を薄々分かってたんじゃないか、って思うわ。」
「キラも…分かってた?」
「うん。最初は違ったかもしれない。でもキラはそれに気付いた上で、黙ってフレイの感情を受け止めていたんじゃないかな、って今になって思うの。自分は…コーディネイターだから、って。」
呆然とするサイに、ミリアリアは切なげな表情を浮かべたあと言葉を続けた。
「私も、たまに思う。どうしてあの時、もっとフレイの話を聞いてあげられなかったんだろうって。
私だって、トールが死んでしまった時、あれだけ絶望に打ちのめされた。
捕虜であったディアッカを刺し殺そうとするくらい追いつめられて、ただ悲しくて、悔しくて、コーディネイターが憎かった。」
サイはあの時の情景を思い出す。
後ろ手に拘束されて額から血を流すディアッカ。
その体に乗り上げるようにしてナイフを振りかざすミリアリア。
必死で止めに入ったサイの腕の中で泣きわめいていたミリアリアを複雑な表情で眺めるディアッカ。
そして不意に現れたフレイの手には拳銃があり、その銃口はディアッカに向けられていて。
だが、抵抗すら出来ないでいたディアッカを庇ったのは、何も出来ず愕然とするサイの元から飛び出したミリアリアだった。
「私は、ディアッカや他のみんなに支えられて、また前を向く事が出来た。
あの事件の後フレイと話は出来なかったけど…あの時もっと勇気を出して、きちんと話をするべきだったな、って艦を降りたあと後悔したわ。」
「……俺も、さ。フレイの乗ったポッドが目の前で撃ち落とされるのを見た時、頭の中がただ真っ白になって。
でも、それだけだった。好きだったのは間違いないのに、涙ひとつ出なかった。
あの時はみんな余裕が無かったし、それどころじゃなかったって頭で理解は出来ても、やっぱり後悔した。フレイの話、ちゃんと聞いてやれないままだったこと。」
展望室に沈黙が降りる。
「……それでも、私達はこうして生きてるわ。」
ミリアリアのきっぱりとした声に、サイははっと息を飲んだ。
「サイは、もうあんな戦争が起きないようにって国際政治学科に転向したんでしょ?
そしてオーブの特別参事官補佐になって、ナチュラルとコーディネイターがもう争わないように、って努力してる。
フレイ、きっとすごく喜んでると思う。フレイだって、戦争を終わらせたいって想いは同じだったと思うから。」
「ミリィ…」
「だからね、私も出来る事をしてくるわ。武器もろくに扱えない私でも、言葉でなら戦える。キャリアは短いけど、これでも戦場ジャーナリストだったんだから。
フレイの時のように後悔はしたくないから…何としても、きちんと彼女と向き合って話をしてくるわ。
それに…ディアッカは必ず来てくれるから、私の事は心配しないで?」
そう言って微笑むミリアリアは、とても綺麗で。
サイもまた微笑み、そっと茶色の跳ね毛に手を伸ばした。
「無茶したらディアッカに言いつけるからね。」
「…うん。ありがと、サイ。一緒にいてくれて。」
「何年友達やってると思ってんのさ?当たり前でしょ。」
「ふふ。そうよね。」
二人は顔を見合わせ、くすくすと笑いあう。
その時館内放送が入り、ミリアリアの乗るシャトルの準備が整った事が告げられたーー。
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サイミリの会話。
ずっと気になっていたフレイの事について率直に語り合う二人。
こんな時だからこそ出来た事なのかもしれません。
既に気持ちの整理はついていても、やはりそれとは別に『後悔』という
感情ってどうしてもしこりのように残りますよね…。
2015,6,29up