キラは談話室の扉を開けた。
「ディアッカは無事戻ったのか?」
イザークが立ち上がった。
キラがふわりと笑う。
「うん。ディアッカもイザークの事聞いてきたよ。ほんと仲良いんだね君たち。」
「…ふん、ただの腐れ縁だ。」
そう言って顔をふいと逸らしたイザークだったが、内心はまんざらでもなさそうだ。
「キラ、ミリィは?」
サイとカズイが心配そうな顔でこちらを見ていた。
キラは、思わず目を伏せた。
「…わからない。」
「おい、何だそれは!」
イザークが詰め寄る。
そこへちょうどアスランが現れ、慌ててイザークを止めに入る。
「落ち着け、イザーク!俺が説明するから!」
談話室を、重苦しい空気が満たした。
「今、二人は医務室にいる。彼女の出血が予想以上で…。このままではまずい、らしい。
AAにある輸血パックじゃとても足りないらしくて、ディアッカの血を輸血することになった。」
誰かが息を飲むのが分かった。
「ディアッカの方は、あと1時間ほどで処置が終わるそうだ。
あいつの希望で、かなりの量を採るらしいからしばらくは休養が必要だろうけどな。」
イザークはぎゅっと拳を握りしめた。
「…あいつに、会えるのか?」
アスランは困ったように微笑んだ。
心配なら心配と言えばいいものを。
イザークは相変わらず、こういうところは素直じゃない。
「処置が終わったらな。」
「あの…ミリィの傷の具合は?」
おずおずとカズイがアスランに尋ねた。
「今、ディアッカの採血と並行して医師が処置を行っている。傷自体は難しいものではないが、動いたことで、傷ついた血管をさらに傷つけたらしい。
今は傷よりも出血性ショックが心配だそうだ。」
「そっか…。」
「ラクスが、エターナルの軍医をこちらによこすそうだ。きっと…大丈夫だ。」
アスランはそう言うと、皆を安心させるように微笑んだ。
キラがカズイの肩を叩いた。
「ミリィは大丈夫だよ。ディアッカがついてる。だから信じて待とう。」
ディアッカは人の気配を感じ、ゆっくりと目を開けた。
そっと首を動かすと、椅子に座ったまま膝の上の端末を見つめるイザークの姿があった。
「…よぉ、こんな時まで仕事してんの?お前」
その声に、イザークが弾かれたように顔を上げる。
「ディアッカ!気がついたのか」
「あー、まぁな。」
緊張の連続で、知らぬうちに疲労が溜まっていたのだろう。
採血の途中で眠ってしまったらしい。
まだぼんやりとする頭で、ディアッカは自分がなぜここにいるか思いを巡らし…突然がばっと起き上がった。
「…っ!あいつは?…いってぇ…」
「この馬鹿者!針が抜けるぞ!」
ディアッカはかなりの量の血を抜いたため、造血剤の点滴を受けていたのだ。
イザークが慌ててディアッカの肩を掴み、ベッドに押し付ける。
「平気だこんくらい!」
そう言って再度起き上がろうとしたディアッカだったが、次の瞬間ぐらりと視界が揺れ、目の前が白くなる。
「いくらコーディネーターでも、あれだけの血を抜かれたら平気でなどいられるか!おとなしく寝ていろ!」
「イザーク、あいつは?ミリアリアは?」
起き上がることを諦めたらしいディアッカが、それでも真剣な表情でイザークにそう問いかけた。
「…安心しろ。輸血は無事終了した。傷の縫合も終わって、彼女も落ち着いている。」
ディアッカは、大きく息を吐き出した。
「…そう、か。良かった…」
そこまで言って、ふとディアッカは眉を顰める。
「イザーク、縫合って…」
イザークは端末をサイドテーブルに置くと、ディアッカに向き直った。
「そもそも、彼女がバスターを選ぶことに無理があったんだ。」
「…操縦が原因か?」
「そうらしい。サイの話によれば、あいつらは全員MSの操縦など未経験だ。
それを、MSに組み込まれているマニュアルだけ読んで操縦したらしい。」
ディアッカは額に手をやった。
「マジかよ…」
「ミリアリアも、マニュアルを元にライフルまで動かしたんだろうな。
非力な彼女が扱うには、かなり無理をしたんだろう。
OSがナチュラル用だったからできた技だ、と当人たちは言っているが…」
「あー、あいつらマジで、ナチュラルにしては出来る奴らだし?
じゃなきゃあのキラと同じレベルで話なんてできねーだろ。」
「茶化すな。…キラにあいつらの事を少し聞いてみたんだが、サイは2年、ミリアリアとカズイ・バスカーク、亡くなったトール・ケーニヒは3年学業をスキップしているそうだ。」
「3年?て言うと…」
イザークは重々しく答えた。
「ナチュラルの軍人が士官学校に入学する年齢が16歳、だそうだ。
これでだいたい分かるだろう?」
ディアッカは眉をあげた。
「あいつら…普通にエリートじゃねぇかよ。」
「でなければ、偶然乗せられた戦艦ですぐにCICや管制など出来んだろう。
ちなみにトール・ケーニヒは副操縦士席だったらしいぞ。」
「…それで、戦闘機にも乗っちゃったわけだ。」
ディアッカはそう呟くと、腕を顔に乗せて目を閉じた。
「イザーク。あいつはどこにいる?意識は戻ってるのか?」
「いや、まだだ。容体は安定しているから、時間の問題だろうがな。」
「じゃあ、俺行かないと。」
そう言うとディアッカは再び起き上がる。
ぎょっとしたイザークが止めようとするが、「だいじょーぶ。点滴ごと移動する」
とディアッカは笑った。
「あいつと約束したんだ。次に目が覚めた時、必ずそばにいるって。」
イザークは溜息をついた。
「…彼女は隣の個室だ。気の済むまでいてやればいい。」
「サンキュ、イザーク。」
「だが。」
そこで言葉を止めたイザークを、ディアッカが訝しげに見やった。
「先程、アイリーン・カナーバからエターナルに連絡があった。
俺たちに帰還命令が出ている、そうだ。
ラクス嬢は、お前が被弾した事にして時間を稼いでくれている」
「…歌姫さんにも、感謝しねーとな」
そんなディアッカの軽口を無視して、イザークは先を続けた。
「近いうち、俺たちは本国に戻らねばならん。それを、忘れるな。」
ディアッカは紫の瞳をイザークに向けた。
「ああ、分かってる。ちゃんと考えてるさ。」
そしてゆっくりと立ち上がり、ドアに向かって歩き出した。
「あとひとつ。」
イザークの言葉にディアッカは歩みを止める。
「停戦協定の締結のため、オーブから使節団がプラントに向かっている。
代表は、カガリ・ユラ・アスハ。
その途中、特別参事官補佐であるサイを迎えにこの艦に立ち寄るそうだ。」
「今度はオーブの姫君の登場ってわけ?」
振り返らずにディアッカが呟く。
「ああ、そうだな。これで世界はまた動き始めるだろう。平和に向かってな。」
イザークのその言葉を聞き終わるとともに、ディアッカは何も言わず、部屋から出て行った。
2014,6,11up