コロニーから宇宙へと飛び出したディアッカを待っていたのは、アスランだった。
意識を失ったミリアリアを抱えたまま、器用にディアッカは通信を開く。
『ディアッカ!ミリアリアは大丈夫か?』
「いや、意識がないし出血もかなりひどい。帰艦したらすぐ医務室に運ぶ。」
『…そうか、俺からAAに連絡しておく。とにかく今はここから離れよう。』
「ああ。」
アスランにAAへの通信を任せ、ディアッカは操縦に集中した。
不意に、視界の一部が明るくなる。
思わずカメラをオンにすると、先ほどまで自分たちがいたコロニーが爆発とともに崩れ落ちて行くところだった。
これで、Gシリーズがプラントに落とされることはなくなった。
「ありがとな、ミリィ。」
そう言うとディアッカは腕の中で眠るミリアリアの額に、そっとキスを一つ落とした。
そしてカメラをオフにすると前を向き、ジャスティスの後を追いAAに向かった。
「ミリィ!」
AAに着艦したディアッカがハッチを開けると、キラが待ち構えていた。
再度ミリアリアをしっかりと抱き直し、ディアッカはザクから飛び出した。
低重力が幸いし、ミリアリアを抱いたままでも楽に進めそうだ。
「ディアッカ、ミリィは…っ!」
二人を目にしたキラの顔がこわばる。
ミリアリアはもちろん、ディアッカの軍服もかなりの血で汚れていた。
ずっとミリアリアを抱きしめていたせいだが、他人が見たらひどい有り様だろう。
「出血が酷い!アスランから聞いてるか?このまま医務室に運ぶ!」
「うん!」
「イザークは?」
「もう着艦してるよ。サイ達も無事。」
「そうか。」
ディアッカはほっと息を吐いた。
そうこうしているうちに、医務室に到着した。
キラが扉を開けると、マリューとフラガ、そして医師の姿があった。
「嬢ちゃん!」
「ミリアリアさん!なんてこと…」
フラガとマリューが叫び、立ち上がった。
「すぐにベッドへ!止血は済んでいるか?」
医師も予想以上のミリアリアの状態に少々慌てた様子だった。
「コロニーを出る時に簡単な止血は済ませてある!ここには輸血パックはあるのか?」
ディアッカがミリアリアの上着を脱がせながら医師に尋ねる。
「あるにはあるが…それ程多くはない。彼女の血液型は?」
「ABだ!足りるのか?」
「ギリギリだな…。輸血と造血剤で様子を見るしか…」
「それじゃ間に合わねえだろ!?」
父親の影響で、ディアッカにも多少医学の知識はある。
今のミリアリアは、唇の色も悪く、爪の色も白に近い。
体温の低下も心配だった。
そして、ふとある事に気づく。
「…艦長、プラントに回線つなげますか?」
マリューが顔を上げた。
「プラントに?」
「おい坊主、まさか嬢ちゃんをプラントに連れて行く気じゃ…」
ディアッカは苛ただしげに首を振った。
「そうしたいのは山々だけど、それは今じゃねぇよ。それより、ミリアリアの命がかかってる。艦長、許可を頂けますか?」
いつになく真剣な口調のディアッカをマリューは見つめた。
「プラントのどこに繋ぐのかしら?」
そうマリューが尋ねると、途端に渋い顔になりながらディアッカは答えた。
「まずは、フェブラリウスです。相手は、タッド・エルスマン。俺の、父です。」
「タッド・エルスマン!?あの!?」
驚いて声を上げる医師に、マリューとフラガも呆気にとられる。
「ナチュラルの間でもそこそこ有名なんだ、うちの親父。まぁそういうこと。」
「先生、どういうことだ?」
「彼の父親は、遺伝子学の権威です!我々医学者にとってはコーディネーターもナチュラルも関係ないですからね。私も信奉者の一人ですよ。」
それを聞いて、マリューは頷いた。
「許可します。すぐに通信を。コードはわかって?」
タッド・エルスマンはフェブラリウスのオフィスで、ディアッカからの通信を受けた。
「ディアッカ?珍しいな、しかし…無事で良かった。」
『久しぶり。親父もな。』
「おまえ、今どこにいる?」
『ちょっとした極秘任務中。でさ、至急聞きたいことがある。いいか?』
「…なんだ、言ってみろ」
『ナチュラルに、俺の血は輸血できるか?』
タッドは一瞬、耳を疑った。
「どういうことだ?」
『そのままの意味だ。血液型は一致してる。ただ、複雑な遺伝子操作をされてる俺の血液でも、ナチュラルに輸血して問題ないかが知りたい。』
タッドはしばし考え込んだ。
「お前が、なぜそこまでする必要がある?」
通信の向こうで、ディアッカがかすかに笑う声が聞こえた気がした。
『そこまでしても助けたい、大切なナチュラルだからだよ。
これじゃ、納得の行く答えになんねぇ?』
タッドは深く息をつき、執務用の椅子にもたれた。
「…そのナチュラルは、持病などはないか?」
『ああ、そのはずだ。ただ過呼吸症候群の診断は受けているが、現在特に服薬もしていない。』
「そうか、なら問題はないはずだ。」
『ほんとか!?親父!』
ディアッカの声がワントーン跳ね上がる。
今度は、タッドがくすりと笑みを漏らす番だった。
「お前とて不死身ではないんだ。あまり無理はするなよ。
…いちど、そのナチュラルの女性に会ってみたいものだな。」
ディアッカが一瞬黙り込む。
『なんで、女って…』
「一応父親なのでな、私も。ではそろそろ切るぞ。停戦協定のおかげで急に忙しくなった。」
『あ、親父!』
ディアッカが慌ててタッドを呼び止める。
『…ありがとう。今度、あいつが良くなったらフェブラリウスにつれてくからさ、その…』
タッドは今度こそ笑ってしまった。
あのディアッカをここまで変えた女性に、ますます興味が湧いてくる。
「楽しみにしている。ではな。」
通信を終えたディアッカは、マリュー達を振り返る。
「俺の血を、あいつに。血液型も同じABだ。親父も問題ないと言っている。」
医師が頷いた。
「すぐに準備を!」
2014,6,11up