27,誓い 1

 

 

 

ディアッカが身支度を整え、ミリアリアのいる部屋のドアを開けると、そこには先客がいた。

 
「あ、捕虜さん!」
カズイの声にサイが振り返り、驚いたように目を見張った。
「さすがだね、ディアッカ。3日で歩けるようにまでなるなんて」
今度はディアッカが驚く番だった。
「3日?あれからそんなに経ってんのかよ?」
イザークが枕元に詰めているはずだ。
思いの外、心配をかけてしまったらしい。

 

 

「ミリィの様子、見に来たんだろ?俺たちはもう行くよ。」
そう言ってサイが立ち上がり、カズイはディアッカに椅子をすすめた。
「ここ、どうぞ。ここなら点滴のスタンドも邪魔にならないよね?」
カズイに礼を言おうと思ったディアッカだったが、ふと思い出して声を掛ける。

 

 
「あのさ、俺もう捕虜じゃねぇんだけど。」

 

 
カズイは、しまった、という顔をして目を泳がす。
「あ、え、じゃあ、元捕虜さん?」
「…カズイ。ミリィが起きたら殴られるよ。」
絶句したディアッカの代わりに、堪えきれないと言った様子でくすくすと笑いながらサイがカズイに声をかけた。
「ディアッカ、カズイはAAがオーブを出る直前に退艦してるから、お前とちょうど入れ違いなんだよ。」
ミリアリアも以前そう言っていたことをディアッカは思い出した。
確かに、彼の姿をAAで見た覚えがほとんどない。

 
「そういうこと。…でも俺、艦を降りた後バスターがAAを守ってくれたの見てたよ。」
意外な言葉にディアッカは驚いた。

 

 

「俺は、あの時勇気がなくてさ。結局逃げちゃったんだけど。
AAを、みんなを助けてくれて、ありがとう。」

 

 

そう言うとカズイは右手を差し出した。
「えーと、カズイ・バスカークです。モルゲンレーテの関連企業でエンジニアをしてます。よろしくね。」
ディアッカはまたも呆気に取られ、そして破顔した。
「ザフト軍、ジュール隊副官、ディアッカ・エルスマンだ。ディアッカでいい。よろしくな、カズイ。」
そして右手を出す。
二人は、固い握手を交わした。

 

 

「ミリィの言ってた大切な人って、ディアッカの事だったんだね。」
「は?」
「カズイ。ミリィに本気で怒られるぞ。」
サイがそう言ってたしなめると、うわ、それは怖いかも、とカズイが苦笑いする。
「ディアッカ、カガリの事聞いた?」
サイがディアッカに向き直った。
「ああ、プラントに向かってるんだろ?姫さんも相変わらず行動派だよねぇ。」
そうディアッカが返すと、サイも笑った。

 

 

「カガリも結構自重してるんだよ、あれでも。じゃなきゃ、アスランは今ここにいないって。」

 

 

どういうことだ?
ディアッカが首を傾げると、サイは寂しそうに微笑んだ。
「…カガリは、変なところだけ聞きわけが良すぎるんだよ。
目指す場所が同じだって、人の気持ちなんて、そんな簡単に割り切れるものじゃないのにさ。」
「サイ…」
「っと、ごめん。また今度ゆっくり話そう。今はミリィのそばにいてあげて?」
サイはそう言うとカズイを促し、部屋を出て行った。

 

ディアッカはカーテンを開けると、先程カズイが用意してくれた椅子に座った。
点滴のスタンドも、邪魔にならない位置に設置する。

 

 

ミリアリアは、静かに眠っていた。
顔色はまだ多少青白いものの、呼吸も安定しており唇の色も戻っている。
だが、肩口の包帯が痛々しい。
「ミリィ…」
ディアッカは、眠り続けるミリアリアにそっと唇を重ねた。
暖かい。
「そばにいてやるから、早く目ぇ覚ませよ。」
そう言って、無造作に投げ出されている右手をそっと握り締める。
離さない。もう二度と離れたくない。
だが自分は、いずれ近い将来プラントに戻らなくてはならない。

 

 

「お前は、なんて言うんだろうな。」
目を閉じて、握り締めたミリアリアの手にディアッカは頬を寄せた。
「俺のそばに、ずっといて欲しい、なんて言ったらさ…」

 

 

ディアッカの手が、きゅっ、と握り返された。

 

 

「そばに、いるわよ?」

 

 

 

ディアッカは目を開き、ゆっくりと視線をミリアリアの方に向けた。

 

 

そこでディアッカが目にしたのは、美しい碧い瞳。

 

ミリアリアが、ディアッカを見てふわりと微笑んだ。

 

 

「ミリィ!お前…」

 

ディアッカは我にかえり、ミリアリアの顔を心配そうに覗き込んだ。
「もう、大丈夫よ。起きられる、かな…」
そう言ってもぞもぞと起き上がろうとするミリアリアの背に、ディアッカは慌てて手を添えた。
「お前、無理すんなって!傷が開いたらどうすんだよ」
「動かさないように気をつけてるわよ。大丈夫。」
そう言ってミリアリアはそっと体を起こした。
「待ってろ、今誰か呼ぶから…」
そう言って内線に手をかけようとするディアッカだったが、ミリアリアの「待って」という言葉に動きを止めた。

 

 

「ディアッカと、もうちょっとだけ、二人でいたいから。」

 

 

そう言うとミリアリアは、右腕だけをディアッカに差し出した。
それを見たディアッカは、やはり自由になる右腕だけを使い、ミリアリアをそっと抱きしめた。

 

 

「良かった、ディアッカが無事で。」

 

 

ミリアリアはディアッカの胸に顔を埋め、そう呟いた。
「良かった、じゃねぇよ…無茶ばっかりしやがって…」
「ごめんね。でも、あの時ディアッカに向けられた銃に気付いて、体が勝手に動いてたの。」
ディアッカはミリアリアの髪にそっと顔を埋めた。

 

 

「俺は…お前が撃たれて目の前で攫われて行く時も、バスターのコックピットで血塗れだった時も、頭がおかしくなるかと思った…」
ディアッカは、ミリアリアを抱く腕に力を込めた。
「ありがとな、ミリィ。守ってくれて。」
ミリアリアは、予想していなかった言葉を与えられて目を見開いた。
「でもさ、もう、二度とあんなことすんな。俺の身がもたねぇ…」
「ディアッカ…」
ディアッカはふてくされたような声で、言葉を続ける。

 
「俺にも、守らせろよ」

 
「え?」
「俺だって、お前が俺のことを大事に想ってるのと同じくらい、お前のことを大切に想ってんだからな?
いいかげん、わかんだろ?」

 

 

ミリアリアはふわりと笑った。
「うん。…ごめんね、心配かけて。ディアッカ、これからもずっと、私を守ってね?」
「…ああ、守るよ。ずっと。」
そうして二人は見つめ合い、そっと唇を重ねた。

 

 

 

 

016

あ、甘い…。でも、こうであってほしいんです(願望)。

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2014,6,11up