「ラクス!あれは国際条約で禁止されて…」
生真面目なアスランの言葉に、ラクスは微笑んだまま振り返る。
「分かっています。それでもーーー人命救助の為でも、いけませんか?アスラン。」
ラクスのブルーの瞳は、もう笑っていない。
キラが、天を仰いで溜息をついた。
「なるほど…。ニコルが月基地に奇襲した時のやり方に似ているな。」
イザークは、優しいチョコレート色の瞳の少年を思い出す。
「ミラージュコロイドを使えば、不明艦のレーダーに感知されることなく目的地まで辿り着けますわ。いかがでしょう、皆さん?」
「…帰還後、早急にシステムを取り外して下さい。分かりましたか?ラクス!?」
「もちろんですわ?アスランは本当に真面目ですのね。」
目を三角にしたアスランの言葉に、ラクスはにっこり笑って頷いた。
***
ミリアリアは、AAの医務室にいた。
あれから発作の兆候もなかったが、連日の寝不足やストレス、そして突然のAAの登場に、さすがのミリアリアもぐったりとしてしまったのだ。
そういえばディアッカ、昨日送ったメール気付いたかしら…。
ぼんやりとそんな事を考えていると、医務室のドアがノックされた。
「嬢ちゃん、入るぞー」
相変わらずのんびりした口調で現れたフラガに、ミリアリアは微笑んだ。
「お久しぶりです、フラガさん。」
フラガはベッドの近くにある椅子を適当に引っ張りだして、どかりと座る。
「ますます綺麗になったんじゃないの?あいつもいい嫁さんを貰ったもんだよなぁ。」
ミリアリアは、微笑んだまま目を伏せた。
「そうだと、いいんですけど。」
「そうに決まってるだろ?じゃなきゃ君はそんなに綺麗になんてならないさ。」
何処か呑気なフラガの言葉に、ミリアリアは少しだけ気が楽になった。
「…なんで、嬢ちゃんはこのタイミングでプラントから出たわけ?今回の事について、あいつは何て言ってたの?」
ミリアリアは顔を上げ、まっすぐにフラガを見つめた。
「ディアッカと…彼の守って来たものを私も守りたいからです。
いつウィルスが撒かれるか分からない中、私がいなくなることでカーペンタリアや罪の無いプラントの市民が助かるなら、って思って決めたんです。」
フラガは微笑んだ。
「それでも君はやっぱり、怖いんだろ?違う?」
ミリアリアは、ゆっくりと頷いた。
「…怖いです。ノイマンさんのお姉様がどんな思いで今回の事件を起こしたかも調べました。
ディアッカには必ず戻るなんて言ったけど、私、下手をしたら多分殺されます。
死ぬこともだけど、それよりディアッカに会えなくなることが、すごく怖いです。」
「…死ぬつもりで、出てきた?」
「いいえ。戻るつもりで出てきました。ディアッカと約束したから。
でも…もしかしたら、生きて戻れないかもしれない、って覚悟もしてきたつもりです。」
全く…。跳ねっ返りのくせに、なんでこういうとこはとことん悲観的なんだろうね。
フラガはくすりと笑った。
「なら、そうならないようにすればいい。違うかい?」
「え…?」
ミリアリアは、予想もしなかった言葉に首を傾げた。
「死ぬかもしれない、なんて思って動いたら、本当にそうなる。そんなことを考えるのは、ぎりぎりでいいんだ。
戦いの時に考えなきゃいけないことは、大切なものをどうやって守るか、だけじゃない。
どうやって生きて戻るか。それも同じくらい大切なんだ。
ストライクであんな真似をした俺が言えた義理じゃないが…少なくとも、俺達パイロットはそうやっていつも戦ってる。あいつも多分、そうだと思うぜ?
死んじまったら、守りたいものも守れない。そうだろ?」
いつか、どこかで聞いた事があるような気がする、フラガの力強い言葉。
ミリアリアの中で、何かが溶けて行くように心が軽くなる。
「頑張り過ぎなくていい。嬢ちゃんを守りたい気持ちは俺たちも同じだ。…もっと周りに甘えていいんだよ。」
ミリアリアの瞳から、ぽたり、と涙が落ちた。
「…私、ディアッカがいなくなったら、また一人になっちゃうって…。ほんとは、それが、こわくて…」
かつて、戦争で恋人を亡くしたミリアリア。
それを癒したのは他でもない、ディアッカだ。
それでも、ミリアリアの根底には喪失の恐怖が澱のように存在している。
だからミリアリアは、時に無鉄砲と言われても、考えなしと言われようとも大切なものを守る為に無茶とも言える決断をする。
フラガは優しくミリアリアの頭を撫でた。
「あいつを一番に思う気持ちはそのままでいい。でも、嬢ちゃんは一人じゃない。俺達AAのクルーや友達、それ意外にも嬢ちゃんを助けてくれるやつらはたくさんいるだろ?
この世界には、ディアッカ以外にも嬢ちゃんを大切な仲間と思う人間がたくさんいる。だから、必要以上に怖がらなくていいんだ。」
私は、ひとりじゃないの?
なぜか、トールが笑顔で頷く姿が見えた気がした。
ふわり、と温かい何かが頭を包む。
それはフラガの、頭を撫でる、大きな手。
「坊主を信じてるんだろ?だったら大丈夫。嬢ちゃんが選んだオトコ、だろ?」
ミリアリアは温かい手に少しずつ心が解されて行くのを感じ、こくりと頷いた。
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ムゥさんの言葉に、ディアッカと同じく張り詰めきっていた心を溶かされるミリアリア。
彼自身辛い目にあって来たからこそ、他者にも優しくあれるのかな、と思います。
このあと事態はどう動いて行くのでしょうか…。
2015,5,8up