49, 歌姫の策略 1

 

 

 

 
一方プラントでは、突然ザフト宙域に現れたAAの騒動から数時間後、イザーク達関係者がラクス・クラインの執務室に集まっていた。
メイリンとキラは手元の端末を操り、今後の盗聴を阻止する為、懸命に対策を練っていた。
アスランはオーブの駐屯部隊と通信し、ラクスは何かの書類に目を通している。
と、通信を知らせるアラートが鳴り、一同ははっと顔を上げた。
メイリンと目を見交わし、ふわりと微笑んで頷いたキラが端末を操作し、少しだけ目を見開いた。
 
 
「ラクス。AAと通信が繋がってるんだけどどうする?ハッキングの可能性を考慮するとサウンドオンリーにしか出来ないんだけど…」
「ありがとうございます、キラ。お話させて頂きますわ。」
「ヤマト准将、あとは私がやります!」
メイリンが立ち上がり、てきぱきと端末を操作した。
 
 
 
***
 
 
 
「お久し振りですわ、ラミアス艦長。」
『こちらこそ、お久し振りです、ラクスさん。』
 
 
AAの艦長、マリュー・ラミアスは憂いを含めた笑顔を浮かべた。
「ミリアリアさんの様子はいかがですか?サイさんも…」
『彼女は医務室です。ひどく憔悴していたので、休ませました。サイ君も無事です。』
マリューの言葉に、キラが少しだけほっとした表情になった。
 
『ミリアリアさんから、アーノルドのお姉様の情報を見せてもらいました。キラくんとディアッカくんにも同じものを送っているそうよ。キラくん、今確認出来るかしら?』
 
キラが自身の端末を流れるような手つきで操作し、目当てのファイルを開いてラクスの執務机に置いた。
『そのファイルに詳細は書かれていますが…彼女の婚約者は先の大戦時、パナマでのザフト軍との戦いで戦死しています。
投降の意志は示したものの、聞き入れられないままだったそうです。』
マリューの言葉にイザークが顔を顰めた。
あの場にいたのは、この中でイザークただ一人。
目の前で繰り広げられた虐殺と言っていい行為は、今もイザークの心にじくじくとした痛みをもたらせる。
 
 
「それで、わたくしたちコーディネイターを…」
ラクスが痛ましげに呟いた。
 
 
『誰かが彼女に今回のバイオテロの計画を持ちかけたのは間違いないでしょう。
一介の企業に属する研究員に、宇宙艦やクルーの調達など出来るはずもありませんし、それなりの力を持つものが後ろについていると考えて間違いはないと思われます。
ベルリンでの件はともかく、それでなければ簡単にプラントへ入港すら出来ないでしょうしね。』
「そして、カガリを人質に取り、ミリィをおびき寄せた…」
キラの顔が曇った。
 
「ラミアス艦長。」
黙って話を聞いていたアスランが口を開く。
「セリーヌ・ノイマンは、カガリと…ミリアリアをどうするつもりだとお思いですか?」
ラクスの瞳がすっと細められ、キラが思わず息を飲んだ。
 
 
『彼女は…婚約者を殺された復讐をしようとしているのではないか。そう私は考えているわ。
婚約者の死後、心を病んで療養生活を送っていたそうだし、そのショックは計り知れないでしょう。
そして静養していたならば、ミリアリアさん達の婚約や結婚式の様子も容易に知り得たでしょうね。
ただ、民間人である彼女一人で今回のような事が出来る訳が無い。そこが引っかかるのよ…。
どうやってここまでの力を持つ協力者を得たのか。』
 
 
マリューの迷いの無い言葉に一同は息を飲む。
「復讐…」
ぽつりとそう呟いたアスランを視界の隅に入れながら、ラクスは、ここまでで与えられた情報を脳内で整理していた。
マリューの話した内容は、ミリアリアの調べたものとほぼ一致していた。
セリーヌ・ノイマンはコーディネイターを憎んでいる。
でもそれはブルーコスモスのような輩とはまた別の、一個人の感情。
大切な婚約者をザフトによって殺された、その事実がセリーヌ・ノイマンを動かしていると見ていいだろう。
ーーーいや、その感情を利用した“あの方”に動かされているのだ。
 
「…そうでなければ、カガリさんを人質にしてまでミリアリアさんを呼び寄せる理由がない…」
 
「ラクス?」
ぽつりと呟いた一言に、アスランが反応する。
「まさか…」
キラの声が、微かに震えた。
どうやら、ラクスと同じ結論にたどり着いたようだ。
 
 
「ザフトの軍人であるディアッカさんと結婚したミリアリアさんと、ザフトの将校であるアスラン・ザラと浅からぬ縁を持つオーブの代表首長であるカガリさん。
そしてオーブは、親プラント国の先鋒でもあります。
ザフトを、コーディネイター憎むセリーヌ・ノイマンは、そんな彼女達をどうすると思われますか?」
 
 
ラクスの言葉に返事をしたのは、マリューではなく唐突にモニタに現れたアーノルド・ノイマンだった。
 
 
『姉は…エルスマンやザラ隊長に、自分と同じ思いをさせるつもりだと俺は思っている。…アスハ代表とハウを殺し、そしてその場で、自らも死ぬつもりだと。』
 
 
イザークがぎりり、と歯を食いしばり、アスランが絶望的な表情で天を仰いだ。
 
「…プラントに留まるクサナギには歴戦のオーブ兵達が乗艦している。そしてAAにはアカツキもいる。
不明艦とクサナギ、あるいはAAがもし戦闘にでもなればあちらに勝ち目は無い。
例のウィルスが、そうならない為のあちらのの切り札、と言う事か?」
イザークの言葉に、キラが頷いた。
「うん。…死ぬつもりなら、リスクは問題じゃない。
カガリとミリィを餌に、ディアッカやアスラン、そしてイザーク、君たちをおびき寄せるつもりだろう。
オーブの代表を連れて行けば、どこの軍も簡単に手は出せないもんね。」
 
 
「…なにか、私達の知らない事情があるようね。」
 
 
苦笑まじりのマリューの声に、キラははっと顔を上げた。
イザークがマリューの言葉に応じる。
「…ええ。だがこれ以上は控えさせて頂きたい。あなた方まで巻き込むわけにはいきませんから。」
「こちらに彼女達を収容した時点で、私達は自分から巻き込まれに来たようなものなのだけど?」
くす、と微笑むマリューに、イザークは渋面を作った。
 
「…ラミアス艦長。その件についてはミリアリアさんかサイさんから後ほど話を伺って下さい。」
「ラクス嬢?!」
 
血相を変えるイザークに、ラクスは困ったように微笑んだ。
「今、ミリアリアさん達を守る事が出来るのはわたくしたちではなく、ラミアス艦長たちですわ。
AAの皆様を、わたくしは信頼しています。ですから、ね?」
「…そう仰るのであれば、異存はありませんが…。」
渋々ながらイザークは頷いた。
 
 
『ジュール隊長、すまない。こちらでも出来る限り時間を稼ぐ。
ハウは憔悴しているものの話もしっかりしていた。今はフラガ大尉がついている。』
「いえ、ノイマン殿のせいではありません、どうかお気になさらず。」
静かにそう答えたイザークの拳が握りしめられる。
 
 
そう、これは戦争の傷跡だ。
ならば、なおのこと自分たちが動かねばならない。
今この状況で出来ることを、するのだ。
 
 
「ワクチンの開発完了までに、すぐに動けるようにMSの準備をしておく。それでいいか?アスラン、キラ。」
「ああ。だが、MSを動かせば当然あちらに察知される。そこはどうする?」
アスランの疑問に答えたのは、意外にもラクスだった。
 
 
「それなら、わたくしによい考えがありますの。少しだけ、悪いことをすることになるのですが…怒らないで下さいます?」
かわいらしく首を傾げるラクス。
「な、なんでしょう?」
イザークはその可憐な仕草につい狼狽える。
ラクスはにっこり笑って、とんでもないことを言い放った。
 
 
 
「実はイザーク様たちの機体に、ミラージュコロイドを搭載してしまいましたの。
先程、実装テストも終わったと知らせが入りました。評議会の方々には内緒にして下さいね?」
 
 
 
イザーク達をはじめ、通信越しにその言葉を耳にしたマリューやノイマンは言葉を失い、その場にいる全ての人間が、愕然とした。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

ミラージュコロイド、あれってすごい技術ですよね。
まだまだ改良の余地はありそうですが…。
歌姫の策略は、かなり大胆です。

 

 

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2015,5,8up