シャトルはアカツキによって無事回収され、ミリアリアは大事をとって医務室送りになった。
ディアッカと話をした事でだいぶ心は落ち着いていたが、それでもここ数日の緊張や寝不足が祟り、強がっていてもミリアリアは疲れきっていて。
フラガに付き添われ懐かしい艦内に消える小さな背中を見送り、その足でブリッジへ向かったサイは、そこに揃った懐かしい顔ぶれを見て思わず微笑んでいた。
「お久しぶりです、艦長。」
「久しぶり。手荒い事をしてごめんなさいね、サイくん。ムゥにはなるべく丁寧に、と言ったのだけど」
柔らかく微笑むAAの艦長ーーマリュー・ラミアスに、サイもまた微笑み首を振った。
「…ミリアリアさんの様子は?」
「昨日ひどい発作を起こしましたが、今は落ち着いています。ノイマンさんの機転に助けられました。これで時間が稼げる。」
「お前、通信を…?」
驚くノイマンに、サイはにこりと微笑み頷いた。
「フラガさんが回線を繋げてくれたので。シャトルの中であらかた聞く事が出来ました。」
「ミリアリアさんの事だけど…ディアッカ君が関係してるの?その発作。」
やるせない顔をするマリューに、サイも同じような表情になる。
「…ミリィは…あいつの言葉を支えに、プラントを出る事を決めた。
それでも、迷いに迷ったんでしょうね。あいつにその事を告げたすぐ後に、発作を起こしたそうです。」
「そう…」
「ただ…」
「え?」
サイはマリューににこり、と微笑んだ。
「ミリィは出発前にあいつと…ディアッカと、もう一度話をしたそうです。
何を話したかは分かりません。でも、それでミリィは見違える程に落ち着きました。」
その言葉にマリューは、ほっとしたように優しい笑顔を浮かべた。
「そう…。良かったわ。」
「僕もひとつ、質問してもいいですか?」
サイの表情が僅かに変わる。
「ええ、もちろんよ。何かしら?」
マリューもそれに気付いたのか、居住まいを正した。
「なぜAAがここにいて、なぜ僕たちは回収される必要があったのか。これはオーブの意思ですか?それともマリューさん個人の?」
意外だったのか、マリューは少し驚いた表情を見せ、すまなそうに微笑んだ。
「…ごめんなさい。想定外だったわよね。」
「想定外、と言うより…懸念材料がひとつ増えました。」
サイの遠慮の無い言葉に、ブリッジクルー達の間に少しだけ、緊張が走った。
「この行為はどういう事なのか?誰からの指示なのか?と当然あちらは思っているはずです。
そして、状況からして絡んでいるのはプラント…ラクス・クライン、と思われるのが妥当でしょうね。
実際セリーヌ・ノイマンは当初そう口にしていた。
ミリィがあれだけ苦しんで、それでもプラントを出る決意を固めたのは“プラントを守る為”です。
ですから…」
「サイくん。あなたの言いたい事は分かるわ。」
マリューの凛とした声に、サイはぴたりと口を噤み続く言葉を待った。
「私達はオーブの代表であるカガリさんの救出を第一の目的としてここへ来ました。
そしてプラントに対しても、ウィルスの脅威が及ばぬよう出来る限りの事をするつもりです。
もちろん、ミリアリアさんについても同じように出来る限りの事はさせてもらうわ。
場合によってはザフト軍と協力する事も考えています。…あちらが、了承してくれればの話だけど。」
「…なんだか、二年前を思い出しますね。僕は地球から見ているだけでしたけど。」
「ちょっと違うわね。少なくとも今回は本艦だけの独断ではないわ。オーブ軍から正式な通達は来ていないけれど、キサカさんには話を通してあるから。」
小さく溜息をついたサイに、マリューは苦笑する。
「…私達が異分子である事は承知しているわ。結果的にミリアリアさんの邪魔をしてしまった事も。
それでも、ワクチンが未完成な今、プラントへの手出しに対抗出来るのはナチュラルである私達が適任でしょう?
だから…AAはその必要があると判断したら、このテロ行為に介入します。」
きっぱりと宣言したマリューに、サイは完敗、と言った顔で肩を竦めた。
「先程の通信同様、今後あちらには艦長である私が話を通します。
あなた達はワクチンが早急に完成する事を信じて、少しでも時間稼ぎとしてこの艦を使ってくれればいい。…ごめんなさいね、サイくん。」
「…それはカーペンタリアにいるあいつに言ってやって下さい。きっと今頃度肝を抜かれてると思いますから。」
不沈艦AAの艦長とオーブの若き参事官補佐は目を見交わし、くすりと笑う。
「艦長!秘匿回線です!…これは…アマギ一慰?!」
「ーー繋いでちょうだい!」
チャンドラの声に、マリューとサイはそちらを振り返った。
***
ディアッカは執務室に座り、端末の電源を入れた。
今頃ミリアリアは、サイとともにプラントを出た頃だろうか。
明け方の会話を思い出し、ディアッカは大きく息をついた。
隔離された兵士達の容態は、一進一退だった。
死亡者が出ていない事が救いではあったが、楽観視出来る状態でもない。
「親父…頼むぜ。」
ワクチンさえ開発されれば、状況は一変するはずだ。
と、その時通信が入り、ディアッカはびくりと体を震わせた。
まさか、あいつに何かーーー!?
「エルスマンだ」
『ディアッカか?!俺だ。』
「イザーク?!何かあったのか?」
動揺するディアッカに、落ち着け、とだけ言い、イザークはミリアリア達が乗ったシャトルが突如現れたAAに回収された出来事を説明した。
「マジ、かよ…。また、無謀な真似しやがって、あいつら…」
溜息まじりに、だがミリアリアが無事と分かってどこか安堵したようなディアッカに、イザークはやっといつもの親友の姿を見た気がした。
『とりあえず、ミリアリアとサイがAAに収容されたことで時間は稼げた。
アマギ殿からの連絡によれば、あちらとの交渉の結果、ミリアリアには二日の猶予が与えられたそうだ。』
「二日!?」
ディアッカの表情が変わった。
ーー何とかそれまでに、ワクチンが完成すればミリアリアを助けに行けるかもしれない!
「イザーク、親父からワクチンについては何の説明も無いのか?」
『昨日の段階では、完成まであと少しとの事だった。解析は終わっているらしい。』
「そ、か…」
それならば、まだ可能性はある。
ディアッカは、暗闇の中に一条の光を見た気がした。
『あまり不用意な通信も出来ん。本部のラクス嬢の執務室にも盗聴器が仕掛けられていた。
何かあれば、火急の件以外はメールで連絡をする。お前ならばハッキングやトラップにも気付くだろう?』
「まぁ、多分な。了解。」
イザークとの通信を終わらせ、ディアッカはAAにいるはずのミリアリアを想った。
過呼吸の発作は、落ち着いたのだろうか。
今朝の通信で互いの想いを伝え合った事もあり、ミリアリアは比較的落ち着きを取り戻しているように見えた。
思い返せば、この数日間の数少ない通信でも、ミリアリアはどこかいつもと様子が違っていて。
疲労が溜まっていたとは言え、それに気付けなかった自分をディアッカは悔やんだ。
「ざまぁねぇな…」
ディアッカは二度目の深い溜息をつき、なんとなくの習慣でメールソフトを起動した。
そしてモニタに目をやりーーキーボードに伸ばした手がピタリと止まる。
「…ミリアリア?」
ずらりと並ぶ新着メールの中に、ミリアリアからのメールが明るく光っていた。
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突如現れたAAに驚かれた方も多いかと思います。
理由はマリューの言葉通り、でもあるのですが、それ以外にもごにょごにょ…;;
この後少しの間、宇宙が舞台となります。
そして、プラントを出る前に送信されていた、ミリアリアからのメール。
果たしてその内容は…。
2015,4,7up