45, ふたつの戦艦 2

 

 

 

 
『誰か!イザーク!アスラン!シホさん!誰でもいいから応答して!』
執務室に戻ったイザーク達の耳に飛び込んできたのは、切羽詰まったミリアリアの声だった。
 
「ミリアリア?!」
 
アスランが叫び、イザークが慌てて通信をオンにする。
「ミリアリアか?どうした!」
『イザーク!?今、不明艦とAAが目の前にいるの!』
「AAだと?コペルニクスにいるのではなかったのか?」
『わからない…そのはずだけど…。きゃあっ!』
『ミリィ!…っ、うわ!』
「おい、どうした!」
『ノイマンさんは無茶しすぎなんだよ、もう!』
通信がサイの声に代わり、イザークは思わず身を乗り出し、声を発した。
 
 
「おいサイ!ミリアリア?!大丈夫か?」
『いたた…。ああ、イザーク?』
「おい、サイ!何があった?」
『な…アカツキ!?』
 
 
サイの驚愕したような声に、イザークはシホ、アスランと顔を見合わせた。
「アカツキとは…確かあの金色の…」
 
『イザーク、状況を説明するよ。いい?』
 
少し落ち着きを取り戻したサイの声が聞こえ、一同はそちらを振り返った。
「ああ、頼む。何がどうなっている?」
『今僕たちの目の前には、不明艦とAAがいる。ノイマンさんがかなり無茶な操舵をしてさ。不明艦が一旦後方に下がってる。
で、僕たちのシャトルだけど、AAから出てきたアカツキ…多分パイロットはフラガさんだと思うけど、それに回収された。衝撃でミリィがちょっと体をぶつけたけど、怪我はない。』
その言葉にアスランとシホは安堵の息をつく。
しかし、続くサイの言葉は重いものだった。
 
 
『ただ…これは、揉めるよ。』
 
 
イザークも頷く。
「…今度は、不明艦とAAの争いか…」
『この行為に、プラントは無関係だ。でも、相手がそれを信じてくれるかどうかは別だよね?ウィルスの脅威が消えるわけじゃない。
せっかくここに来る決意をしたミリィの為にも、せめてワクチンが出来上がるまで、君たちは不用意に動かないで。
俺も、あっちと話す機会があったらプラントはこの件に関知していない事、しっかり伝えるから。』
 
 
オーブの外交官として出来ること、しなければいけないこと。
サイは深呼吸をし、それを見極めようと頭をフル回転させた。
 
 
「…ああ。分かった。お前達はAAに回収されるんだな?」
『そう。だからしばらくは時間が稼げると思う。イザーク、アマギ館長にAAと連絡を取るよう伝えてくれる?不明艦の通信コードをAAに送って欲しいんだ。
あっちから通信が出来るようになったら、ミリィの体調不良を理由に時間を稼いでみようと思う。』
「了解した。それと、ワクチンの生産状況についてはAA側でも一部のみに伝えて、基本は極秘で頼む。
万が一にも内通者がいてはたまらんし、アスハ代表の行為も無駄にはできんからな。」
『了解。じゃ、そろそろ切るよ。傍受されたらまずい。』
「分かった。…頼むぞ、サイ。」
『任せてよ。これでも外交官なんだから。』
イザークとの会話で落ち着いたのか、笑みすら含んだ声でサイは答え、そこで通信は切れた。
 
 
 
***
 
 
 
「どういうことなの!?」
不明艦のデッキに、セリーヌの怒声が響いた。
「こちらにもわからん。AAがここにいること自体初耳だ。」
ユーリに雇われた操舵士も、困惑を隠せない様子だ。
「アーノルド…なぜコーディネイターの味方をするの…?」
セリーヌは昏い目で、スクリーンに映るAAの姿を見つめた。
あれを操舵しているのは、先程の秀逸な動きからも自分の弟である事は容易に窺い知れた。
こんな寄せ集めのクルー達では、到底弟の操舵に対抗出来る訳が無い。
戦場に出た経験のないセリーヌにもそれくらいはわかった。
その時、ブリッジにいた別の男が声を上げた。
 
 
「通信だ!…これは、AA!?」
 
 
セリーヌが素早く振り返った。
 
 
 
 
『こちらはオーブ軍宇宙艦隊所属AA。艦長のマリュー・ラミアスです。』
スクリーンに映し出されたのは、チョコレート色の瞳の美しい女性だった。
セリーヌは、きつい視線をスクリーンに向ける。
「…どういうおつもりかしら?あのシャトルはこちらに向かっていたものです。早急にお引き渡し下さい!」
 
『…それは、できません。姉さん。』
 
「アーノルド!」
マリューの後ろに、ノイマンが現れた。
『あのシャトルには、オーブの政府高官が乗っています。我々が保護することに、何か問題でも?』
セリーヌはきつい眼差しでノイマンを睨みつけた。
 
 
「プラントの…ラクス・クラインからの指示なのね?」
『いいえ。これは私達の独断です。でなければ、あのような手荒な方法でシャトルを回収などしません。
オーブが関与していない以上、あそこに長居すれば当然ザフト軍も動きますから。こちらに敵意が無い以上、さっさと事を済ませて退却し、無用な争いは避けたいと思うのが普通ではないかしら?』
 
 
ノイマンの代わりに答えたマリューの凛とした声に、セリーヌは唇を噛んだ。
確かに、MSを使って動いているシャトルを回収するなど一歩間違えば中にいる者の命までもが危険に晒される。
とすると、やはり彼女達の独断なのだろうかーーー?
セリーヌは内心の動揺を悟られないよう、慎重に口を開いた。
 
「…ミリアリア・エルスマンに伝えなさい。あなたが今すぐここに来なければ、プラントにウィルスを撒くと。」
『…彼女は昨日、持病の発作で倒れたばかりと聞いています。そして今現在も、回収時の衝撃で意識を失いました。
どちらにせよ、今すぐは無理です。』
「彼女の体調が悪いのならこちらで処置をします!仮にも医療従事者の私にそれを言うの?あなたは?!」
ノイマンの顔が微かに歪んだ。
『だからこそ、言っているんです!患者に無理を強いるのが医療従事者ですか?!姉さん!!』
セリーヌは言葉に詰まった。
本来ならばすぐにあの男達に通信を入れ、指示を仰ぎたかったがこの状況ではそれも難しい。
 
 
「…分かったわ。あなたに免じて、二日待ってあげる。
明後日のこの時間、ミリアリア・エルスマンをこちらによこしなさい。
拒否すれば、どんな手段を使ってでもプラントにウィルスをばら撒く。
彼女には、そう言えば伝わるはずよ。」
『…姉さん。キールはこんな事を望んでいない!』
「…通信を終わります。」
セリーヌはそう言って通信を切り、席を立った。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

姉と弟の攻防。
ひとまず時間を稼ぐ事には成功しましたが…。

 

 

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2015,3,31up

2015,4,25台詞一部訂正