44, 明け方のミルクティー 3

 

 

 

 
すぅ、と息を吸い、ミリアリアは気持ちを落ち着けた。
ーー感情的になって間違えてしまったあの時と同じ過ちを繰り返さない為に。
 
 
「本当は、凄く心配だったの。」
『…え?』
「ウィルスに感染した人の治療に携わる、って聞いた時。お願いだからやめて、って思った。少しでも危険から遠い所にいて欲しい、って。私はプラントにいて、何かあった時すぐに駆けつける事も出来ないし、万が一を考えたら凄く怖かったの。」
『ミリ…』
「でも!でもね。その時気付いたの。昔…私がカメラマンになるって言った時、ディアッカにこれと全く同じ思いをさせてたんだな、って。」
 
 
碧い瞳を揺らしながら一生懸命言葉を紡ぐミリアリアを、ディアッカは息を飲み、ただ見つめた。
 
 
「こんなに苦しくて、心配でどうしたらいいかわからなくて…。そう思ったら、あんなに意地を張った自分が恥ずかしくなった。ディアッカの気持ち、全然考えられてなかった。辛い思いさせて…ほんとに、ごめんね。」
『ミリィ…』
「私、ディアッカと結婚して、ほんとに良かったって思ってる。困難から逃げずに、自分が今出来ることをしているディアッカの事、誇りに思う。どれだけ私があなたに支えられてるか、うまく言えないけど…ありがとう、ディアッカ。だから、ちゃんと言わなきゃって思ったの。…あの時、素直になれなくて、こんなに辛い思いをさせて…ごめんなさい。私、必ずここに帰るから。私だって、ディアッカの事を支えて、守るから。」
 
 
大きな瞳に涙を溜め、それでも決して目を逸らさずに素直な想いを口にするミリアリアをディアッカはただ見つめーーー溢れ出しそうな何かを堪えるように大きな手で顔を覆うと、くしゃり、と表情を歪ませた。
 
言われるまで不覚にも気付かなかったが、確かに今の状況はあの時と同じで。
違うのは、二人のいる場所と立場が逆な事。
あの頃はお互い、意地を張り合って別離の道を選んでしまったが、今ミリアリアは言ってくれた。
自分と結婚して良かったと。誇りに思うと。
ーー自分を、守る、と。
 
今すぐミリアリアを抱き締めたい。愛おしくて、たまらない。
ディアッカは、昂る想いを胸に納め、ふぅ、と息を吐き画面に映るミリアリアを再び見つめた。
 
 
『サンキュ、ミリィ。俺もお前の事、誇りに思う。』
「…ディアッカ…」
『俺もお前を信じてる。お前は必ず俺のとこに帰って来るって。そうだろ?』
「っ…う、ん。うん。だって…約束、したもの…っ」
 
 
想いが通じた、と言う確信に、強張っていたミリアリアの体から、ふっと力が抜ける。
ディアッカは、分かってくれた。
ミリアリアの伝えたかった想いを。覚悟を。
そしてディアッカ自身も、迷いを捨て前を向いた。
紫の瞳に宿る強い光に、ミリアリアの目からまた涙が零れた。
 
 
『俺…俺も、お前に会えて良かった。お前が呼ぶならどこへだって行ってみせる。必ず、助けるから。大丈夫だから、俺を信じて、待ってろ。……だからもう、俺が行くまで、泣くな。』
 
 
ミリアリアは涙を拭い、画面の向こうの愛しい男の顔をじっと見つめる。
ーーディアッカは、私に嘘はつかない。
だから、大丈夫。必ず助けに来てくれる。
折れそうだったミリアリアの心に、温かい希望の光が灯った。
 
 
「うん。待ってる、から。ディアッカも、気をつけて。」
『大丈夫。俺の事は心配すんな。…お前も、気を付けろよ。』
「…うん。…ディアッカ。」
『なに?』
「…愛してる」
 
 
不意に落とされた告白に、ディアッカは息を詰める。
そうして…画面の向こうにいるミリアリアと同じように、柔らかく微笑んだ。
 
 
『俺も。愛してるよ、ミリィ。』
 
 
遠く離れた二人は、互いを想う心と信頼、という絆で今確かに繋がっていた。
 
 
 
 
 
 
 
016

 

 

皮肉にも、別離の切欠となった出来事と同じ状況になっていた二人。
しかし、様々な障害や葛藤を乗り越えてきた二人は、あの時とは違う選択をします。
互いを認め合い、信頼する心。
この長編を書くにあたり、どうしても書きたかったシーンの一つでもありますが
私の拙い文章でどこまで伝わるか…;;
読み手である皆様それぞれに、様々な見解や意見があると思いますが、甘んじて受け止めます。
そして、いよいよ出発です…。

 

 

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2015,3,22up

2016,5,19改稿